ミナトの脳天気日誌・春の章
春の陽気に包まれた駅前のベンチ。花が咲き、制服姿の高校生たちも見かけなくなった。あの頃とは少しだけ景色が違う。でも、変わらないものもある。
ミナトはスマホを見ながらベンチに腰掛け、ポカポカした空の下で欠伸をひとつ。
「ふぁ~あ……あれ、今日って何時集合だっけ?」
彼の手元のスマホが鳴る。通知はツバサからだった。
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ツバサのメッセージ:
《遅刻するなって言ったよね?ミナト、まさかもう忘れてる?》
「おっとっと……そうだった!」
ミナトは慌てて立ち上がり、駅前のカフェに向かって駆け出す。
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カフェ「空色コーヒー」店内
ツバサ、カナデ、サクラ、そしてミコトはすでに席についていた。
ツバサは腕時計を見ながらため息。
「……あと3分で10時ジャスト。どうせギリギリに来るんでしょ、ミナトは」
「むしろ秒単位で遅れるに一票かな」と、冷静にミコト。
「えーでもほら、ミナトくんって『逆転ファイター』だから!最後には間に合うって!」と、サクラがニコニコしながら言う。
その時、入口のドアが開く。
「おーっす! みんなおっはよー!」
ミナトが、いつもの調子で笑顔を振りまきながら登場。時間は10時1分。
「……1分遅刻」ツバサが呆れ顔。
「さすが『逆転ファイター』……いや、今回は普通に遅刻ですけどね」
ミコトが突っ込む。
「まあまあ、細かいことは気にすんなよ! みんな元気してた?」
「元気だったけど……君だけ次元が違うのよ、ほんとに」
カナデがつぶやいた。
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ミナトが席に着くと、いつものようにぎゅっと場が明るくなる。それが彼の特技、というか天性の何かだった。
「で? 今日は何話すの? みんなの大学ライフ? それとも恋バナ? おおー、恋バナだな!? よし、まずはサクラから!」
「え、わ、私から!? うーん……昨日食べたタルトがね、恋に似てたの!」
「ど、どういう意味なんだよそれ!」とミナトが爆笑。
「……そこ、突っ込むところじゃなくて、諦めるところよ」
ツバサが冷静にフォロー。
「まあ、でもサクラはサクラらしいよな~! 俺、そういうとこ好きだぞ」
「えへへ~。ありがと~ミナトく~ん!」
すると、さりげなくミコトがツバサを見た。
視線が交差する。ミコトは静かに言った。
「ツバサ先輩、嫉妬、してる?」
「……え? な、なによいきなり」
「いや、表情筋がちょっと動いたから。たぶん、意識してないうちに」
「ミ、ミコト……っ、そういうのは! そういうのは!」
ミナトはきょとんとした顔。
「ん? なんの話?」
「何も。まったく何も」ツバサが慌てて話をそらす。
「へぇー……ミナト先輩、ほんと鈍感なんだなぁ」
ミコトがぼそり。
「えっ!? なにそれ!? なにそれ気になる!」
「気にしなくていいよ。っていうか、ほんと気づかない方が幸せってあるのよ、世の中には」
カナデがコーヒーを一口。
「そうだな……観察者としては、今後の展開に期待だよ」
「……んっ、カナデ先輩もそうなの?」
ミコトがふと切り返す。
「え……」
「ふふ、図星か」
その瞬間、カナデの目が一瞬だけ泳ぐ。珍しいことだ。
「私の観察対象はミナト先輩。でも観察の一環で、周囲の視線や動きも記録してる。あなたの視線はツバサ先輩によく向かってるから」
「……さすが冷静沈着系後輩……抜け目がないわね」
「うわ~……めちゃくちゃ複雑な関係になってきた……!」ミナトが呆然とする。
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そんな会話をしていると、店員がドリンクを運んできて、ひとまず場は落ち着く。
ミナトはカフェラテをすすりながら、ぽつりとつぶやいた。
「でもさ、こうやってみんなで集まれるの、やっぱいいな。大学バラバラになっちゃったけど、俺は俺で頑張ってるし、みんなもそうでしょ?」
「うん、私は理系の講義でいっぱいいっぱいだけど……でも、楽しいよ」とツバサ。
「私は芸術系だから、のんびりお花見しながらデッサンしたりしてるよー」
サクラがニコニコ。
「私は統計学のゼミに入ったの。ツバサと同じ大学だったら、きっと一緒に論破してたのに」
カナデが苦笑する。
「私はまだ高校だけど……先輩たちが頑張ってるなら、私もって思えるよ」とミコト。
「うおおお~! みんなすげー! 俺も負けてらんねぇな!」
ミナトは胸を張る。その姿は変わらず、まぶしいほどにまっすぐ。
そんな彼に、ミコトはそっと視線を向けて呟いた。
「……やっぱり、好きだな。こういうとこ」
ツバサも、心の中でふっと思った。
(……ほんと、悔しいくらい、ミナトってバカだけど憎めない)
日差しが差し込むカフェの中、彼らの青春はまだ終わらない。
思い出は終わりじゃない。むしろ、ここからが始まり。
新しい季節、始まったばかりの“ミナトの脳天気日誌”は、これからも続いていく——




