ピンチはチャンス?
期末テストの結果がついに発表された。スマホに届いたメッセージを見て戻ってきたミナトは、教室のドアを開けると同時に大きく伸びをした。
ミナト「ふわ〜、終わった終わった〜。いやぁ、赤点だったわー。数学。やっちまったなぁ〜」
ツバサ(腕組みして)「やっちまったなぁ〜じゃないでしょ。何回言ったら勉強するのよ、ミナト。あれだけ教科書に付箋貼って渡したのに……」
ミナト「え? あれ、机の引き出しに綺麗にしまってあるよ?」
カナデ(ため息混じりにメガネを押し上げ)「しまうんじゃなくて、使うんでしょ普通……。予想してたけど、やっぱりか」
サクラ「ミナトくん、もしかしてテストの前日って……寝てた?」
ミナト「いやいや、ちゃんと起きてたって! えーと、夜中の三時くらいまで……アニメの再放送観てた!」
カナデ「それ勉強じゃない……」
ツバサ「完全に自業自得ね。でも、赤点って……どれくらい?」
ミナト「えっとね〜、29点!」
ツバサ「ギリギリじゃなくてガッツリアウトじゃない!」
サクラ「わぁ〜、30点未満って見たことないよぉ〜。逆にレアだね!」
ミナト「だろ? 伝説作っちゃった感あるよな!」
カナデ「そんな誇らしげに言われても……。ていうか卒業できるの? 真面目にやばくない?」
ミナト「ん〜、まぁ、追試あるし? 大丈夫っしょ! 俺、根拠のない自信だけはあるんだ〜!」
ツバサ「その自信、ちょっと貸してほしいわ……別の意味で」
サクラ「でもでも! ミナトくんって、意外と追い込まれると力出すタイプかも〜。追試、応援するね!」
ミナト「サクラ、ありがと〜! さすが癒し系!」
その時、教室のドアが静かに開いて、すっとミコトが入ってきた。周囲が彼女の冷静な空気に一瞬静まり返る。
ミコト「……あ、ミナト先輩、赤点だったんですね」
ミナト「お、ミコト! よく知ってるねぇ〜?」
ミコト「観察者ですから。……つまり、留年の可能性が出てきたってことですよね?」
ミナト「うーん、まぁ、可能性って言えばあるよな〜」
ミコト「やった……! ミナト先輩と同じ学年になるチャンス……! ずっと一緒に登校して、一緒に教室いて、一緒にお弁当食べて、一緒に部活して……」
ツバサ「ちょ、ちょっとミコト、それって――」
ミナト「うおおおっ!? なんか知らない未来が始まりそうな勢い!?」
ミコト(満面の笑みで)「ずっと夢見てたんです、この高校での『ふたりだけの青春』……。留年……悪くないです、むしろ歓迎です」
カナデ(小声で)「……これは、完全に新しい方向からの攻勢だね」
サクラ「すごーい! なんだか青春ドラマみたいだね〜。私、応援しちゃおうかなぁ?」
ツバサ(少し引きつった笑顔で)「ちょ、サクラ、待って。応援って、何をどう応援するつもりなのよ……?」
ミナト「いやでも僕、卒業したいし! そりゃあ高校生活は楽しいけどさ、さすがに二年目は……!」
ミコト「私は歓迎ですよ。先輩の卒業、阻止したいくらいです」
ミナト「え、怖い怖い怖い! なんか軽くホラー入ってるから!?」
ミコト「……3回目の告白、留年した先でしますね」
ツバサ(静かに頭を抱えて)「ちょっともうやめて……心がもたない……」
サクラ「でもさー、なんだかんだでミナトくんってモテるよねぇ〜。うらやましい〜」
ミナト「いやいやいや、全然! 僕なんて、ただのアホだし!」
カナデ「……自己分析は合ってるわね」
ミコト「アホでいいんです。かわいいので」
ツバサ(さらに頭を抱えて)「……聞いてられない……」
カナデ(ちらりとツバサを見る)「……ツバサ、顔が赤いよ?」
ツバサ「べ、別にそんなことないし!? ただ……この状況が信じられないだけよ!」
サクラ「も〜、なんだかみんな青春してるね〜。あたしも誰かに告白してみようかなぁ〜」
ミナト「お、サクラの恋バナ、興味ある〜!」
サクラ「えへへ〜、じゃあ今度教えるねっ!」
ミコト(ぴたりと近寄り)「……先輩、ちゃんと勉強してくださいね。留年してもいいですけど……卒業したいなら、努力は必要です」
ミナト「お、おう……なんか急に真顔にならないで……」
ミコト「じゃ、また明日。勉強手伝います。強制的に」
そう言って去っていくミコトの後ろ姿を見送りながら、ツバサが深いため息をつく。
ツバサ「……このままじゃ本当に留年しそうね。私も見張ろうかな」
カナデ(にやり)「それってつまり、一緒に勉強したいってこと?」
ツバサ「ち、ちがうってば! 勉強のためよ、あくまで勉強!」
サクラ「青春だね〜〜〜」
ミナト「俺って、そんなにピンチなんだっけ……?」
全員「ピンチだよ!!!」




