迷宮攻略大作戦! ~三年二組の謎解き奮闘記~
「――よし、それじゃあ、次の班は小道具担当に回ってくれ!」
ツバサがクラスの前で手際よく指示を出していた。彼女の声はハッキリしていて、自然と皆が従いたくなる雰囲気を持っている。黒板にはタイムスケジュールが細かく書かれ、準備項目も見やすく色分けされている。
「やっぱツバサ、仕切るの上手いよなー。僕がやったら、たぶんダンボールの山の中で寝て終わるもん」
ミナトが後ろからのんきに笑いながら声をかける。袖をまくった作業着姿で、やる気だけは満々だ。
「寝ないでください、ミナト先輩。ちゃんと働いてくださいね。三回目ですよ、そのジョーク」
そう冷静にスマホを構えたミコトが、遠くからツッコむ。彼女はミナトをじっと見つめ、メモアプリに何かを記録している。
「うっ……バレてたか。ミコトちゃん、俺のこと観察しすぎじゃない? 視線が熱いよ?」
「観察対象ですから、当然です。安心してください、発言もすべて記録してます」
「いや、コワイコワイコワイ……」
その様子を見て、サクラが隣でにこにこ笑っている。
「ねえねえ、ミコトちゃんって、ミナト君のこと、好きなの? 二回告白したって聞いたよ?」
「サクラ、それ言っちゃダメなやつ……!」
ツバサが慌てて止めようとするが、すでに遅い。サクラは悪気なく続ける。
「だって気になってたんだもん。ミナト君、どうだったの?」
「えっ、俺? いやあ、えっと……驚いたよね、うん。でもほら、向き合うことって大事だよね」
「誤魔化すと向き合うは別ですよね」
と、ミコトはさらりと返す。ツバサはそのやりとりを無言で見ているが、視線がどこか鋭い。
「ま、まあまあまあ、その話は置いといて! 迷路のトラップ作り、行こうよ! 僕、段ボールで落とし穴作りたくてさ!」
「それ、強度的に無理じゃない?」
カナデが横から即座に分析を始めた。図面を見ながら淡々と話す。
「ダンボールの耐久性は約20kgまで。平均体重の高校生が踏み抜く設計なら、下に安全マットが必要になるし、そもそも安全性の審査通らない」
「夢がないー!」
「現実を見なさい、ミナト先輩」
ミコトの冷静なツッコミが飛び、クラス内が和やかな笑いに包まれる。そのとき、ツバサのスマホに通知が来た。
「……あれ? 照明班からSOS。スイッチ系統がショートしてるって」
「それ、マズいじゃん!」
ミナトが即座に反応し、ツバサを見た。
「俺、行こうか?」
「お願い。サクラとカナデもついていって。あの二人なら電気周りも多少わかるし」
「うん、任せてー!」
「了解」
三人が慌ただしく教室を出ていく。ツバサは残って作業を続けるが、ひとりになった瞬間、ため息をついた。
「……人手、やっぱ足りないな」
「だから、他のクラスから借りればいいんじゃないですか?」
ミコトが提案するが、ツバサは首を横に振る。
「委員長として、それはできれば避けたいの。クラスの力だけでやりきるって、みんなにも言ったから」
「……カナデ先輩も、それを望んでますからね」
その一言に、ツバサがハッと顔を上げた。
「……ミコト、それ、どういう意味?」
「分析結果です。彼女はあなたをずっと観察しています。私と同じ立場から、でも違う視点で」
「……カナデが、私を?」
「はい。あなたの論理的な面と、それを支える感情の裏付けに、興味を持っているようです。もっとも、それが“友情”か“ライバル心”かは、私の観察でもまだ判別不能ですが」
ツバサは言葉に詰まり、少し赤面する。
「……ミコトって、案外ずけずけ言うんだね」
「事実を伝えているだけです。ところで、あなたはミナト先輩のこと、どう思っているんですか?」
その直球に、ツバサは数秒沈黙したあと、少し笑って答えた。
「……あの人、バカだけど、でも……放っておけないっていうか。困ってると、つい助けたくなる。そういうところ、あるよね」
「好意ですね。記録しておきます」
「やめて!!」
場面は変わり、照明班の元。
「わー、こりゃショートじゃなくて、ケーブルの断線だね」
カナデがしゃがみ込み、手際よく工具を取り出す。サクラはそれをじっと見ている。
「カナデちゃんって、理系っぽいねー。なんかかっこいいー!」
「観察と分析が好きなだけだよ。ツバサがリーダーなら、私はサポーターって感じ」
「……ほほう」
ミナトがその言葉に反応する。
「つまり、ツバサのことずっと見てるってこと?」
「見てるよ。彼女の判断は信頼できるから」
「なんかそれ、恋愛フラグっぽくない?」
「違う。私は『正確な判断を下せる人間』に興味があるだけ」
「また夢のない返し……」
その瞬間、ミナトのスマホにメッセージが届いた。
『ミナト先輩、行動パターン記録中。明日の午前は力仕事を割り振っておいたので、逃げないでください。 ミコトより』
「うわー……俺、完全に監視されてるー!!」
笑い声が上がり、準備は進んでいく。
そして、学園祭当日。迷路は大盛況だった。
謎解きの仕掛けはクオリティが高く、訪れる生徒や保護者たちを楽しませた。ツバサは入口で案内役をしていたが、どこか表情が柔らかい。
ミナトがその隣に来て、何気なく声をかけた。
「……なんだかんだ、うまくいったね」
「うん。みんなのおかげ」
「特に、委員長の手腕と?」
「うるさい。……でも、ありがとう」
ふと、ミコトが遠くからその様子を撮影していた。
「……これだから、観察はやめられない」
その横で、カナデがぽつりと呟く。
「……ふたりとも、不器用だな」
こうして、三年二組の学園祭は、無事に幕を開けた。




