学園祭って楽しい?
九月初旬のまだ暑さが残る午後。教室の中で、三年二組の学園祭会議は始まっていた。
前に立つのは、委員長のツバサ。黒髪を後ろでひとつにまとめ、真剣な目つきでクラスの前に立っている。
「では、今年の学園祭のテーマは『挑戦』。私たちのクラスが出す模擬店や出し物も、このテーマに沿ったものが望ましいとされてる。具体的な案を出し合って、最終的には多数決で決めます。異論ある人?」
手が上がる気配はなく、教室は静かだ。
「……よし、じゃあ案をどうぞ。自由に発言してください」
ツバサの言葉に、さっそく手が上がる。
「はいっ!たこ焼き屋! でも、中身がランダムで、チョコとか梅干しとか入ってるの!『挑戦』って感じするでしょ?」
ふわふわのピンク髪が揺れる。サクラが楽しげに言った。
「それ、ただのロシアンルーレットだよね……」
カナデの冷静な声が響く。
「でもでも、楽しそうだよ?運試し的な!」
「胃腸が強くない人には地獄だと思うけど……」
「ま、まぁ、サクラの案は保留で。他には?」
ツバサがフォローを入れて次の意見を促す。
「私は、体験型の謎解き脱出ゲームとかいいと思う。テーマに合うし、最近人気あるし」
分析的な口調で話したのはカナデ。落ち着いた声と整った話し方が特徴で、眼鏡の奥の瞳が淡々と光る。
「うおー、それいいじゃん!」
突然、元気よく声を上げたのはミナト。陽に焼けた肌と爽やかな笑顔を浮かべて、机に身を乗り出す。
「そういうのさ、僕、めちゃくちゃハマるタイプ!仕掛けとかも作ろうよ、床に落とし穴とか!」
「学校に落とし穴作るのはまずいと思うよ、ミナト」
と、カナデがさらりと突っ込む。
「……だよな!でも、小道具とか工夫すれば本格的になりそう!」
「ふふ、ミナトのそういうところ、嫌いじゃない」
ミナトがキョトンとした表情をした。
「いや、ただの評価だから」
「そ、そうだよね……」
ミナトは困ったように頭をかきながらツバサを見る。彼女は無表情で進行してく。
「……次の意見、ある人?」
ツバサの声に、再びカナデが手を上げる。
「例えば、迷路を組み合わせた屋台なんてどう?謎を解かないとたどり着けない食べ物とか」
「それ、いいかも。サクラのたこ焼きとも合わせられるし。正解ルートだと普通のたこ焼き、外れると……」
「チョコたこ焼き!」
「やめてサクラ、それは誰も得しない」
「えー! 美味しいかもよ?」
「たこ焼きにチョコって発想、どうやったら浮かぶの……?」
「サクラだもんな……」
ミナトは苦笑しつつ、ちらりとツバサを見る。彼女の眉間には軽くしわが寄っていた。
「ミナト。あまり脱線させないで。会議、進まないから」
「ごっ、ごめん……でも、そういうのもアイデアとしてはアリじゃない?自由な発想ってやつ?」
「自由と混沌は違うの。少しは考えて」
ミナトは少ししょげたように頷いた。
「じゃあ、今まで出た案をまとめると——」
ツバサは黒板に項目を書き出す。
ロシアンたこ焼き屋台(サクラ案)
謎解き脱出ゲーム(カナデ案)
謎迷路型模擬店(カナデ&サクラ融合案)
「この中から、どれが一番テーマ『挑戦』にふさわしいか、投票を取りたいと思います」
「おー、ついに投票タイムか!オレはあれだな、迷路のやつ!」
「はいはい、ミナトは声が大きいから一票ね。次、サクラは?」
「もちろん!チョコたこ焼き迷路!」
「……それ、名前だけでもうカオスだな」
「私は分析的に考えて、体験型要素の強い謎解き迷路に一票。動線設計も工夫すれば、回転率も上がる」
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「では……決まりですね」
ツバサが黒板の前で軽く頷く。
「今年の三年二組の出し物は、『謎解き挑戦迷路』に決定します。準備は多くなるけど、みんなで協力すればきっといいものになるはず。よろしくお願いします」
教室に拍手が起こる中、ミナトが笑顔でツバサに話しかける。
「ツバサ、やっぱお前の進行、完璧だなー。マジで頼れる委員長って感じ」
「……そ、そんなことない。皆が協力してくれたから、うまくまとまっただけ」
「でもさ、ツバサの考え方って、なんか安心する。いつもありがとうな」
そう言われて、ツバサの耳が少し赤く染まるのを、カナデはじっと見つめていた。
「(……この程度で照れてるようじゃ、まだまだね、ツバサ)」
それぞれの想いを胸に秘めながら、学園祭準備という長い戦いが、静かに始まっていった。




