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宿題大作戦、時々観察者

夏の陽射しが差し込む午後。寮の自室で、ミナトは机に向かっていた。いや、向かってはいる。目の前には教科書、ノート、ワークシート、赤ペン、そしてチョコレートとポテチが並んでいる。


「……宿題とおやつ、合体させたら超効率上がるんじゃね?」


思わず口に出して独り言。理屈はない。ただ、なんとなく。たとえば、英語の単語を覚えるたびにチョコを食べる、みたいな。


「うん、それ、革命的だな。名付けて——『スイーツスタディ・システム』!」


意気揚々とポテチを手に取った、そのとき。


ピロン


スマホが震えた。画面には「ミコト」の名前と一言のメッセージ。


『観察者として、今のミナト先輩の状況を看過できません』


「……あ、バレてる」


脳天気にニヤけたミナトが返事を打つ間もなく、再びスマホが震える。今度はツバサからのメッセージだ。


『10分後、部屋行く』


「え、何か来る流れ?」


ミナトが首をかしげていると、ノックの音。


「ちょっと、早くない?」


扉を開けると、立っていたのはミコト。


「……やっぱり手遅れでしたね」


「おお、ミコトちゃん。観察ご苦労様っす!」


「皮肉です。あと、その『スイーツスタディ・システム』とか言うの、全然効率的じゃないですよね?」


「え、そうかな? 俺的にはモチベ超上がるんだけど!」


「それ、宿題の進行度と反比例してません?」


と、そこへ。


「おじゃましまーす」


無防備な声と共に、サクラがひょこっと顔を出した。


「おお、サクラも来たのか。どうしたの?」


「うん、なんかお菓子パーティーって聞いたような気がして!」


「誰がそんなデマ流したんだ……」


続いてツバサ、カナデも到着。部屋は一気にぎゅうぎゅう詰めになった。


「ミナト。状況、把握済み。タイムリミットは明日、課題は英語、数学、現代文、物理。つまり——」


「カナデ、私に分析は任せて。全体の構造を整理するのは私の方が得意だから」


と、ツバサがすかさず割り込む。


「……争うなよ、友達だろ……」


ミナトがぽつりと呟いたが、誰も聞いていない。


「私の計画では、まず物理を15分で全体把握。30分で数式パターンを再現——」


「それ、天才前提ですか?」


ミコトが冷静にツッコミを入れた。


「……えっとね? 私は漢字ドリルとか絵に描いたら覚えやすいって思うよ!」


「サクラ、それは小学生のやり方……」


「でもかわいい絵つけたら、心が癒されるよ?」


「癒されても成績は癒されないからな……」


全員が口々に意見を出し始め、空間は一瞬で混沌に。


「えーっと……まず俺のスイーツスタディ案は……」


「却下です」


ミコトが即答。


「はやっ!? 一応発表させてよ!」


「ミナト、それに甘えて今この状況でしょ」


ツバサが腕を組んで鋭く言い放つ。


「それより、こうしよう。タイムスロット制で分担。15分ごとに科目をローテーションさせて集中力を維持させる。ミナトには強制的にタイマーをセットして取り組ませる」


「ツバサ、まさか……」


「ええ、監視も私がする」


「え、それ、俺の観察者ってミコトじゃなかったっけ?」


「私は真の観察者です。というか、二度告白したのに無視されてる私の立場、どう思ってます?」


「うわ、それ言う!? ミコトちゃんそれ今言う!?」


「本当のことですから」


「……あのさ、ミナト。ちょっとだけ、私も……観察、してみようかなって」


ツバサが珍しく目をそらしながらぽつりと。


「ん? それ、どういう意味?」


「別に、深い意味は……ない」


「それ、フラグ立ってるよね?」


「うるさい。集中して」


ミナトが混乱する中、カナデが静かに口を開いた。


「ちなみにツバサは以前からミナトの変化に対して特異な注意を払っていた。それは『観察』ではなく『感情』の可能性があると私は考えてる」


「カナデ先輩……それをここで言いますか?」


ミコトがあきれ気味に眉をひそめる。


「ちなみに私は、カナデ先輩がツバサ先輩のことを観察してるのも知ってるよ」


「なにその観察ループ!? 俺、観察されすぎじゃね!?」


「高校生活って、意外と監視社会だったんだねぇ……」


天然なサクラが妙に納得したようにうなずく。


「つまり今この場は——」


「——観察者たちの観察による観察的集中指導会議、ですね」


ミコトが静かにまとめた。


「かっけえ名前つけるな……」


「さあ、時間は無い。ミナト、まず英語の単語テストから。60語、10分以内に回答して」


「ええええ!? 無理ゲーでしょ!?」


「やるの。できたらチョコ一粒」


「まじか……まじでやるしかないのか……!」


——こうして、脳天気男子ミナトの宿題戦争は開幕した。


誰が一番手を貸しているのか? 誰が一番見つめているのか? 誰の気持ちが届くのか?


その答えは、宿題よりも遥かに複雑で、けれどどこか甘酸っぱい——


春の午後、寮の一室で起こる、青春という名の小さなカオス。


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