夏祭りを巡る想い
「えーっと、まずは…17日の町内の祭りがあって、翌週は海行く予定でしょ?で、その次が…あれ?花火大会って何日だっけ?」
ミナトが教室の机に突っ伏しながらスマホとにらめっこしている。
「26日。ちゃんとスケジュール帳に書いてって言ったじゃん、ミナト」
ツバサが呆れながらも、隣の席からミナトのスマホをのぞき込む。
「書いた!…つもりだった!」
「『つもり』じゃダメなんだよ。『事実』として記録してくれないと。スケジュール管理の基本でしょ」
「はは、うっかりうっかり!」
「うっかりってレベルじゃないでしょ…」
ツバサがため息をつきながらも、ミナトの手からスマホを奪って手際よく予定表に入力し始める。
その様子を見ていたサクラが、窓際の席からぼんやりとした声で口を開いた。
「お祭りってさ、綿あめあるかなぁ…金魚すくいもしたいなぁ…」
「それ去年も言って、一匹もすくえなかったよね。しかも浴衣の袖、金魚の水槽に突っ込んでたし。」
カナデが、まるで論文でも読むかのような口調でサクラの思い出を分析する。
「うぅ…あれは、水と一体化したかっただけなの…」
「新しい哲学すぎるだろ」
ミナトがツッコむも、どこか楽しそうだ。
「それより、メインは花火だよね。今年は仕掛け花火もあるって聞いたよ!」
ミナトが声を弾ませて言うと、ツバサも頷く。
「うん、あの会場、結構見晴らしいいから、いい場所押さえないとね。下調べはしてある?」
「もちろん!俺に任せて!」
「(任せるのが一番危ない気がするんだけど…)」
ツバサが小声で呟いたその時、教室のドアが静かに開いた。
「先輩、スケジュール調整は順調ですか?」
そう言いながら入ってきたのは、冷静沈着な後輩・ミコトだった。
「おっ、ミコト!いいとこに来た!スケジュール見直し手伝ってよ!」
「はい。先輩の『見直し』という言葉には『崩壊した計画を一から建て直す』という意味が含まれていると解釈しましたが、よろしいですか?」
「お、おう…あ、ありがと…」
ミコトはスッとミナトの隣に座り、資料のようにスマホを確認しながら言った。
「花火大会の日程は把握済みです。そして私は、その日――先輩と二人きりで花火を観る計画を立てています。」
「……え?」
静寂。
一瞬の沈黙の後、ツバサが席を立ち上がり、声をひそめてミコトの耳元にささやく。
「…ちょっと、今言う?」
「言っておかないと、また誰かに取られそうなので」
「またって何!?」
「先輩に告白は2回してますから」
「それ知ってるけど!あからさまに言わなくてもいいの!」
会話を聞いていたミナトはキョトン顔。
「なになに?なんの話?」
「……もうちょっと察してよ、ミナト」
ツバサの表情は少しだけ複雑だった。
「でもさ、みんなで花火観ようって話だったよね?」
サクラがぽやっとした声で言い、空気を戻そうとする。
「そうだね。でも、誰とどこで見るかはまだ未定だったでしょ?」
ミコトはさりげなく、でも確実に主張していた。
「え、でも僕、てっきり全員で並んで見る感じかと思ってた」
「その『てっきり』が問題なの」
カナデがすかさず指摘する。
「夏祭りという高揚感に乗じた曖昧な期待と、明確な意思表示の間には明確な差異がある。ミコトさんはその差異を的確に突いてきた、というわけ」
「さすがカナデちゃん、分析が的確」
「…あ、ありがと、サクラ」
「で、結局どうするの?場所取りとか考えないといけないんじゃない?」
ツバサが話を戻す。
「うーん…でも、みんなで一緒に見るのも楽しそうだし…」
ミナトが曖昧な表情を浮かべると、ミコトがすかさず詰め寄る。
「先輩。優柔不断はモテません」
「えっ、それ今言う?」
「はい、今言います。計画の立案には明確なビジョンが必要です」
「う、うーん……」
困ったように頭をかくミナトを見て、ツバサが思わず口を挟んだ。
「じゃあ、こうしない?最初はみんなで屋台巡って、そのあとに自由行動にして、好きな人と見る感じにするとか」
「なるほど、それなら全員の希望がある程度反映される。合理的だ。」
カナデが頷く。
「私はそれでもいいけど…自由行動って言っても、結局みんな一緒にいそうじゃない?」
サクラが笑いながら言うと、ミナトもつられて笑った。
「まぁ、そうなったらそれはそれで楽しいしな!」
「でも先輩、私はちゃんと二人きりの時間、いただきますから」
「ヒッ…はい」
ミナトが引きつり笑いを浮かべる横で、ツバサがそっと呟いた。
「……いいなぁ、そういうストレートな言い方」
「ん?何か言った?」
「な、なんでもない!」
ツバサは慌てて目をそらし、ミナトに背を向ける。
「じゃ、私は屋台リスト作っておくね。美味しそうなとこ調べておくから」
「おお!さすがツバサ、頼りになる!」
「……その笑顔、ちょっとだけずるいな」
ツバサが自分の胸に小さく呟いたその時。
「で、場所取りはどうするんです?」
ミコトが再び現実に引き戻す。
「うっ、忘れてた!」
「……やっぱりミナト先輩、私がついてないとダメですね」
ミコトのぼやきに、ツバサも小さく頷いた。
「わかる」
「ねー、ねー、それより、花火の最後にハート型出るって本当~?」
サクラの無邪気な質問に、教室の空気がふわっと軽くなる。
「本当だよ。公式サイトにも載ってた。狙ってるな、って思った」
カナデが冷静に答えると、サクラがにこっと笑った。
「じゃあその時、誰と手つないでるかで運命決まりそうだね~。」
「えっ」
その場にいる全員が、思わず黙った。
「……な、なんでみんな黙るの?」
「いや…なんでもない。気のせい気のせい」
ミナトは脳天気に笑いながらごまかす。
夏の計画表は、未完成のまま。
けれど、誰かの想いと誰かの願いが、ゆっくりと動き始めていた。
そして、夏祭りの夜。
誰の隣に、誰が立っているかは、まだ誰にもわからない――




