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借り物競走、開幕!

陽射しが運動場を照りつける中、校内放送のスピーカーから響き渡る軽快なアナウンスが体育祭の山場を告げていた。


「それでは次の競技、借り物競走を開始します! 参加者の皆さんはスタートラインについてくださーい!」


「いよいよかー!」


ミナトが手を伸ばして空にガッツポーズを決める。爽やかな笑顔と共に、どこまでもお気楽な声が響いた。


「ま、気楽でいいわね。問題はくじ運よ」


ツバサがメガネをクイッと上げながら、ミナトにちらりと視線を送る。その表情は理知的で冷静そのもの。


「借り物っておやつでもいいのかなあ?」


天然発言のサクラが、首を傾げてにこにこと笑っている。周囲の生徒たちが一斉に「さすがサクラちゃん」と呟いた。


「お題の性質に依存しますね。抽選がすべて」


カナデは腕を組み、スタートラインで目を細めながら周囲を分析していた。その視線の先には、教員、観客、競技器具。すでに情報収集が始まっている。


その後ろに立つミコトは、じっとミナトを見つめていた。彼のちょっと跳ねた髪の毛。無駄に明るい笑顔。


その全てが視界に焼きついている。


(またバカみたいに突っ込んでくんだろうな……)


だが、その“バカみたいな”ところが、目が離せない。



ーーーー

「位置について、よーい……ドン!」


パーンというピストルの音とともに、ミナトたちは一斉にスタートラインを駆け出した。スタンドからは歓声と拍手が巻き起こる。


まずはくじを引くためのテーブルへ。順番に手を突っ込んで紙を引く。


「うぉおおおい! なにこれぇえええ!?」


ミナトの絶叫が運動場に轟いた。生徒たちが思わず振り返るほどのボリュームだった。


「……ふふ、当たっちゃったか」


カナデもくじの紙を見つめて小さくため息をつく。彼女の眉がわずかにひそめられた。


「うーん、これは……まあいけるかな」


ツバサは冷静にくじを読み、すぐに動き出した。迷いは一切ない。


「『赤いハンカチ』! うん、優しい〜」


サクラはニコニコと紙を掲げ、近くの女子生徒に声をかけに行った。



ーーーー

「ありがとう、助かった」


ツバサは借りた“メガネケース”を片手に、一直線にゴールを目指す。その後ろ姿を、少し離れた位置からミナトが見ていた。


「ツバサ、早っ……! なんであんな簡単なやつなんだよ~!」


「たぶん、ミナト先輩のは“ネタ枠”ってやつですね」


ミコトが冷静に突っ込む。既にゴール前にいるミコトは観戦に徹していた。


「ネタ枠とか存在するの!? 差別だろ!」


ミナトが紙を掲げる。


『坊主の先生(ただし本物)』


「うっわ……確かに無理難題」


ミコトが目を細める。


「ちなみに、先生で坊主って……あ、でも体育教師の山崎先生が……」


ミコトは瞬時にデータベースを引き出したように、運動場を見渡して候補を探し始める。


「山崎先生ー!? いたっ、でも今リレー中! うわ、どーすんの俺!」


ミナトは頭を抱えながら走り出した。



ーーーー

「……『眼帯をつけた人物』、ね。仮装や応援団にそれっぽいのがいる可能性は高い」


カナデは紙を読み上げ、すぐに観客席へと目を向けた。視線は迅速かつ冷静。脳内では既にエリア分布とコスチューム傾向がシミュレーションされている。


「ミコトさん、ちょっと協力してもらえますか」


「……報酬によります」


「終わったあと、ラムネ奢ります」


「成立」


二人は無言で頷き、観客席の特定ブロックへと向かって走り出した。



ミナト、走る。



「せんせー! 山崎せんせーいっ!」


「おいミナト、リレーのコースに入るなバカ!」


他のクラスの男子から怒鳴られ、ミナトは身をひねって避ける。


「ちょ、待って! 先生、坊主アピールしてー!」


「知らん! 走ってんだこっちは!」


観客席から笑い声が起きる。だがミナトはひるまない。


「……あっ!」


思いついたように後ろを振り返る。


「ミコト! おまえ坊主のヅラ持ってなかったっけ!? 前の文化祭のとき!」


「それ、バンドの衣装用のスキンヘッドキャップですよ。しかもニセモノは禁止です」


「ちくしょー、僕が坊主だったらなー!」


「それ、何言ってんのか自分で分かってます?」


ミコトが冷たく突っ込むも、内心ではそんな彼の姿を少し愛おしく思っていた。


(ほんと、バカだな……でも、見てられないわけじゃない)



ーーーー

「……やっぱりミナトくん、無茶するよね」


ゴール手前でツバサがひとり呟く。サクラはすでにゴールして、「赤いハンカチ」を返して、お茶を飲んでいた。


「ツバサちゃん、ミナトくん好きなの?」


「はっ!? な、なんでそんな話に!」


「うーん、なんとなく! 空気的に!」


「……サクラ、たまに核心ついてくるよね。天然なのに」


「ふっふ〜ん♪」


ツバサは軽く頭を振ってミナトの方をもう一度見た。


(別に、好きってわけじゃ……たぶん)



ーーーー

「いた」


ミコトが指さしたのは、応援団の中の一人。確かに眼帯をしていた。


「ありがとうございます、ミコトさん」


「ラムネ、忘れないでくださいね」


カナデはそのままターゲットへ一直線。眼帯の人物に説明をし、あっという間に同行を取りつけた。


「……さすがカナデ先輩、迷いがない」


ミコトが小さく呟く。


だがその目は再び、運動場の隅でジタバタしているミナトに戻っていた。



ーーーー

「先生ー! 交代終わった!?」


「……ったく、もう。なんだよ借り物競走ってのは……はいはい、連れてけ!」


ついに山崎先生がミナトの叫びに根負けし、ついてきてくれることに。


「うおおおおおお! 神ぃいぃいい!」


ミナトが感涙に咽びながら走り出す。


観客席が拍手と笑いに包まれる。



ゴール、そして――



「おっしゃー! ゴールぅうううう!」


ミナトが全力でテープを切る。


かなり遅れてのゴールだったが、なぜか見ているものを感動させる不思議な雰囲気を醸し出していた。


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