ミナト、勉強会に巻き込まれるの巻
——中間テスト1週間前。
「今日も空が青いなぁ~。これはきっと神様が『勉強しなくても大丈夫だよ』って言ってくれてるんだな~」
ミナトは部室のソファに寝転がり、スマホを見つめながらそんな呑気な独り言を口にしていた。
その瞬間、スマホが震えた。メッセージの通知だ。
ツバサ:『勉強、進んでる?』
「……げっ」
ミナトは眉をひそめたが、すぐにニコニコ顔に戻る。
ミナト:『もちろん順調です! あとで復習もしちゃいます!』
既読がついてからわずか3秒後。
ツバサ:『ウソ。ミナトの成績、前回赤点スレスレだったでしょ。放課後、図書室で勉強会するから。拒否権なし』
「ぐはっ、ツバサ、エスパーか……」
ミナトは心の中で膝をついた。
ーーーー
放課後、図書室。
ミナトがしぶしぶ向かうと、すでに3人の女子が机を囲んでいた。
「おっそいよ、ミナト。あと10秒遅かったら迎えに行ってた」
待ち構えていたのは、メガネをキリッと上げるツバサ。
その隣には、にこにこ顔で紙に何かを描いているサクラ。
「ミナトくん、来るの遅かったから……アヒル描いといたよ」
「アヒル!? なんで!?」
「なんとなく、そんな気がしたから!」
「理由がふんわりしすぎてる!」
もう一人は、クールな表情でノートにまとめているカナデ。
「ミナトの数学の点数、前回38点だったでしょ? 平均との差、-27点。これは危機的状況だよ」
「うわ、記録してたの!?」
そこへ、やや遅れて入ってきたのが、唯一の2年生・ミコト。落ち着いた目線で全員を見渡す。
「ふふっ、カオスな空気してますね」
「助けてミコト! 僕、すでに逃げたい!」
「無理。帰ろうとしても、ツバサ先輩が物理的に止めるから」
「やめて!?」
ーーーー
勉強会スタート。完全に主導権はツバサ。
「はい、まず数学から。ミナト、因数分解の公式覚えてる?」
「えーっと、アレだよね。こう……AとBが愛し合って、Cが嫉妬する感じの——」
「それドラマの三角関係の構図。違う。というか、どこからそんな発想が?」
ツバサが顔をしかめる一方で、サクラが手を挙げる。
「え、でもCが嫉妬するの、ちょっとロマンチック……」
「サクラ、君はそういうとこだぞ」
カナデが無感情でツッコむ。
「じゃあさ、じゃあさ! 英語はどう? 英語なら、なんかいけそう!」
ミナトは自信満々で教科書を開く。
「This is a pen. ほら、これはペンです! ほら、パーフェクト!」
「……その文、中1から使われてる化石みたいな例文だけど、今やってるの高校英語だから」
ツバサがため息をつき、ペンを机にコトンと置いた。
「ミナト。理解力、どこに落としてきたの?」
「家のソファの隙間かもしれない……」
「今すぐ拾ってきてください」
ミコトが冷静にツッコミを入れた。
ーーーー
その後も、混沌は続いた。
「じゃあ、次は古典いこうか」
「お、来た! 任せてよ、古典ってほら、いにしえの言葉の世界でしょ。こう……『いとおかし』的な!」
「その知識でどうにかなるのは百人一首だけだよ」
「『いとおかし』って何かおいしそうな感じするよね~」
サクラがぽわんとした声で言う。
「サクラ、それは多分『おかし』だけ見てる」
「でも、いとってつくと……ほら、いとまんじゅうとか?」
「それは地名。沖縄の伊都満」
「地名もおいしそうってすごい発想だな……」
ミナトがぽりぽり頭をかいていると、ツバサがついに机をバンと叩いた。
「ダメっ、こんな状況じゃ! 一回仕切り直そう! ミナト、まず何が分かってないのか正直に言って!」
「うーん……全部?」
「解像度がザルすぎる!」とツバサ。
「いやぁ、でも僕、図形はちょっと好きかも」
「それは、図形がカッコイイからとか、そんな理由じゃないわよね?」
「うん、三角形ってなんかヒーローっぽくない? ほら、三本の力を一つに合わせて——」
「それ戦隊モノの合体パターンです」
ミコトがツッコむ。
ーーーー
だんだんと、ミナトの顔色が変わってきた。
「あれ……なんか、頭が……もわもわしてきた……」
「ミナト、パンク寸前だな」
カナデが時計を見て呟いた。
「脳が情報処理の限界迎えてるね。まるで低スペックPCに高画質動画を連続再生してるみたいな」
「助けて、僕の脳内メモリ……」
「しょうがない。今日はここまでにする?」
ツバサが立ち上がると、サクラが小さく拍手をした。
「わ~い! ミナトくん、よく頑張ったね~」
「ほめられた! 勉強してないけど!」
「いや、そこ突っ込むトコですよね」
ミコトが肩をすくめる。
ーーーー
帰り道、5人で下校。
ミナトは、放心状態。
「みんなすごいよね……知識が次から次へと出てくるし……」
「ミナトも、一週間あれば少しは伸びるわよ。ちゃんと努力すればだけどね」
ツバサが肩を叩く。
「でも、脳天気パワーでなんとか乗り越えられないかなぁ……」
「それが通用するのはギャグ漫画だけですよ」とミコトが呟く。
「ツッコミ早っ!?」
「ツバサ先輩が現実を直視させてくれますからね」
ミコトがクスッと笑った。
「でもさ、こうやってみんなでやるの、楽しいね!」
サクラが笑顔で言うと、カナデも珍しくうなずいた。
「確かに、効率は悪いけど……悪くない」
「お、カナデちゃんが感情表現した!」
「やかましい」
ーーーー
そんなこんなで、ミナトは次の日も、いや、テスト当日まで毎日勉強会に参加させられることとなる。
果たして、彼の赤点脱出なるか——
その答えは、神様も知らない。




