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川でプリンと青春と

「川で遊ぼう」


 そんな短いメッセージが、ミナトから突然送られてきたのは金曜の夕方だった。


「……え、川?」


「このタイミングで?なんで?」


「誰か、季節感を教えてあげて?」


 ツバサ、カナデ、サクラ、ミコト。それぞれのスマホに同時に届いたそのメッセージに、一瞬グループメッセージが静まり返った後、一気にコメントが飛び交った。


「まぁ、ミナト先輩のことだから何か企んでるんじゃない?」とミコトが呆れたように打ち込むと、すぐにサクラがスタンプで「それね!」と返してくる。


「でも、川ってどこの?」とカナデが尋ねると、すぐにミナトから地図が送られてきた。隣町にある、地元でもちょっとした“映えスポット”として知られる清流だった。


「よし、決まりだな! 明日、9時に駅前集合な! バスの時間調べてあるから!」


「待って、強引すぎない?」


「まぁ…悪くないかもね。自然の中でちょっとリフレッシュしたい気分だったし」とツバサがぽつりとつぶやいた。


「サクラ、帽子持ってく? 紫外線すごそう」


「えっ、ミナト先輩が全部持ってくれるんじゃないの!?」


「なんで僕が女子4人分の荷物持つんだよ!」


 こうして、にぎやかに予定は決まり、翌日――



ーーーー

「おっはよー!」


駅前に現れたサクラは、いつものように元気いっぱい。麦わら帽子がよく似合っていた。


「サクラ、帽子忘れなかったね」


「うん、ミコトちゃんが言ってくれたから!」


 ミコトはサクラに微笑みつつ、静かに観察するようにツバサとカナデの到着を待っていた。


「おはよう、みんな」


ツバサはシンプルなシャツとデニムのラフな格好で現れ、カナデはというと、なぜか双眼鏡とノートを持っていた。


「カナデ…それ、何するつもり?」


「川辺の生物観察。せっかく自然の中に行くんだし、記録とりたいじゃない?」


 ミナトが遅れてやってきた。背中にはでかいリュック、その中には一眼レフカメラ、三脚、そして――プリン。


「おはよう!」


「で、なんでプリン持ってきてんの」


ツバサが真顔で尋ねた。


「え? 川辺でプリン食べてる写真って、絶対映えると思って」


「どこ情報、それ」


「俺のセンス!」


 一同、無言になる。


「まぁ…いいんじゃない? ミナト先輩らしいし」とミコトがフォローするように笑った。



ーーーー

 バスを降りてしばらく歩くと、澄んだ空気と、透き通った水が流れる川辺にたどり着いた。


「わぁー! きれいっ!」


サクラは真っ先にサンダルを脱いで川へ飛び込む。


「ちょ、サクラ! 濡れるって!」


「冷たくて気持ちいいよー! みんなも来て!」


「サクラ、タオル持ってきた?」


「えっ、持ってきてないよ?」


 ミコトがため息をつきながらタオルを差し出した。


 一方ツバサはというと、石を見つけては投げて「水切り」を始めていた。


「ミナト、ちょっと投げてみてよ。重心の位置が面白い」


「いや、俺はカメラ係だって…てか、いい感じの岩ないかな、プリン置くやつ」


「だからプリンなんなんだよ!」


 ミナトはガサゴソとリュックを開け、ガラス皿とプリンを取り出した。


「見よ! このとろける質感!」


「……これ、溶けるんじゃない?」


「大丈夫。保冷剤も完備!」


 ツバサ、カナデ、サクラ、ミコトの視線が一斉に冷たくなる。


「まぁ、撮らせてやろうよ。せっかくだし」とカナデがなだめるように言った。



ーーーー

 ツバサは水の流れや小石の形、太陽の光の屈折まで観察していた。


「この流速だと、石が削られる速度も変わるんだよな…」


「ツバサちゃん、それって楽しいの?」


「楽しいよ? 川って物理現象の宝庫だよ」


「うーん…難しすぎてわかんないけど、ツバサちゃんが笑ってるならそれでいいや!」


 サクラはというと、小さなカエルを見つけて大はしゃぎ。


「カエル! カエルいるよー! カナデちゃん、見て見て!」


「それアカガエルかも。貴重だね」


「名前あるの!?」



 一方、ミナトはというと――


「よし…この角度、このライティング、そしてプリン…!」


「ミナト先輩、川に背中向けすぎ。落ちますよ?」


「うるさい、ミコト。俺は今、芸術と向き合っている…」


 パシャッ。カメラのシャッター音が鳴るたび、周囲がちょっと静かになる。


「ねえ、ミナト先輩」


「ん、何?」


「…楽しそうですね」


「そりゃもう、最高に」


 ミコトはその顔を、しっかりと見つめていた。



ーーーー

「さて! お待ちかね、プリンタイムだ!」


 ミナトは嬉々として保冷バッグからプリンを取り出し、みんなに配り始めた。


「え、全員分あったの!?」


「もちろん! 映えるためには、まず美味しくなきゃな」


 プリンを一口食べたサクラが、目を丸くした。


「おいしっ! なにこれ!?」


「自作。前日徹夜して作った」


「……先輩、マジで意味わからないところで努力するよね」


「俺にとって、プリンは人生そのものだ」


 一同、無言。そして笑い出す。


「やっぱり、ミナト先輩、変な人ですよね!」


「うん、でもそういうとこ嫌いじゃないかも」


「撮った写真、あとで見せてくれる?」


「もちろん! あとでみんなのベストショットも選ぼうぜ!」



ーーーー

夕焼けが川辺を染める頃、バスの時間が近づいてきた。


「楽しかったなー…また来たいね」


「次はお弁当持ってこようか」


「今度は望遠レンズ持ってきたいな」


 帰りのバスの中、サクラはぐっすり寝ていた。ミナトは一眼レフで撮った写真を整理していた。


「これ、いいじゃん。サクラがカエル持ってるやつ」


「おっ、これもいいな。ツバサが石投げてるとこ、決まってる」


「……あれ、ミコトが笑ってる写真、結構多いな」


「へぇ、それは貴重かもね」


 カナデが言いながら、バスの窓から夕空を見上げた。


 川とプリンと、いつものメンバー。それだけで、ちょっと特別な一日だった。


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