ミナト王国落成事件!
午後の穏やかな陽射しがする中、彼女達のスマホが震えた。
グループチャット「日々冒険隊」に通知が走る。
日々冒険隊はミナト、ツバサ、サクラ、カナデ、ミコトの5人が参加している。
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ミナト:「助けて!落とし穴に落ちた!」
一瞬、沈黙。その後、すぐにツバサの返信が飛んだ。
ツバサ:「またその冗談なの、今度はどんなオチ?」
サクラ:「写真送って~。どうせまた変顔とかでしょ?」
カナデ:「新しいゲームのネタ?w」
ミコト:「おお、何点満点中の落とし穴?」
冗談好きなミナトのことだ。みんな本気にしていなかった。
しかし、次のメッセージが少しだけ空気を変える。
ミナト:「いや、ほんとに落ちたって!クッションはあったけど出られない!」
一同、ぽかん。
ツバサがクスッと笑いながら返信を打つ。
ツバサ:「クッション付きの落とし穴とか、VIP待遇だなw」
サクラ:「王子様を救う姫になれってこと?」
カナデ:「そのまま新しい家作れば?」
ミコト:「洞窟探検家ミナト、発見される日を夢見て…」
ミナト:「ではここを“ミナト王国”と名付けよう。住人募集中!」
ふざけた空気がさらに加速する。
ツバサ:「家賃いくら?光熱費込み?」
サクラ:「王様、食料は自給自足ですか?」
カナデ:「私は観光客で!」
ミコト:「そろそろ本当に大丈夫? GPSは?」
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夕方が近づき、空はほんのり茜色に染まり始めていた。
ミナト:「ミナト王国の特産品は“砂埃と影”です!」
ツバサ:「おお、健康的なラインアップだなw」
サクラ:「お土産は…落とし穴型クッキーで!」
カナデ:「観光パンフレット作るね:『落ちたら最後、帰りたくなくなる場所!』」
ミナト:「訪問者には特別に“穴の底ビュー”をプレゼント!」
ツバサ:「いや、そこから動けないだけじゃん!」
サクラ:「本当にお腹空いてない?水は?!」
ミナト:「うん、ポケットにキャンディー2個あるから余裕!」
カナデ:「それ、30分で消えるやつ…」
風が少し冷たくなってきた頃、ミコトの眉がピクリと動いた。
ミコト(独り言):「待って、このミナト先輩の場所…おかしい。いつもより返信が遅いし…」
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ミコトはスマホを握りしめ、慎重にメッセージを打ち込んだ。
ミコト:「みんな、もしかして本当に困ってるかも。確認しに行こう!」
空気が一変した。
ツバサ:「え、マジで?!」
サクラ:「嘘だぁー…!?」
カナデ:「道具持っていく!」
すぐにそれぞれの部屋で準備が始まる。
ツバサは自転車のペダルを勢いよく踏み込み、サクラはパン籠から食料をかき集め、カナデは小さなリュックにロープと懐中電灯を詰めた。
ミコトは、観察者専用の地図アプリを確認しながら静かに言った。
「絶対に、放っておけないよ」
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木々がうっそうと生い茂る神社裏の林。
夕日が木漏れ日になって揺れていた。地面は柔らかく、あちこちに小さな窪みがある。
ミナトの声がかすかに聞こえた。
ミナト(穴の中から):「おお、やっと王国に訪問者が!」
ツバサが苦笑しながら声を上げる。
ツバサ:「お前…元気そうで何よりだよ!」
覗き込んだ穴の中、ミナトは泥まみれになりながらも、やたら楽しそうに笑っていた。
カナデ:「でも助けるから黙って!」
サクラ:「笑いすぎて手が震える!」
ミコト(苦笑しながら):「これもミナト先輩らしいってことですね」
ミナト:「みんなの顔、穴の下から見るとマジで映画のワンシーンみたいだわ」
ツバサはロープを結び、慎重に投げ下ろす。
ツバサ:「ロープ投げるぞー、しっかり掴んで!」
ミナト:「うお、滑るっ! でも…うん、出られた…!」
泥だらけのズボンと、ボサボサの髪。けれどその顔には、どこか誇らしげな笑みが浮かんでいた。
カナデ:「いやー、無事で何より。ほんとに冗談かと思った…」
サクラ:「まさかあんなに深いとは…落ちたら叫ぶわ、そりゃ…」
ミナト:「だから言ったじゃん、“助けて”って!」
ツバサ:「でも“クッション付き”ってのが、ミナトっぽすぎてさ」
ミナト:「まあ…ネタにはなるよね?」
全員、苦笑。そして爆笑。
その場にいた誰もが、改めてミナトという存在を“らしい”と再確認するのだった。
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帰宅後、シャワーを浴びたミナトが、グループチャットに一言。
ミナト:「王国は閉鎖しました。またのご来訪をお待ちしておりません!」
ツバサ:「次のバカな冒険はいつ?」
ミコト:「もう専用GPS付きで行動してください!」
カナデ:「次は私が王国作る番かもねw」
サクラ:「その時はちゃんと助けるから安心してね」
ミナト:「助けてくれてありがとう。お礼に“砂埃クッキー”でも作る?」
サクラ:「絶対にいらない〜!!」
ツバサ:「むしろ新ジャンルのお土産かもな。“落ちた人しか作れない味”」
ミナト:「限定生産、数量超限定!」
カナデ:「そして誰もリピートしない…」
ミコト:「でも、こういう日があるから、退屈しないですよね」
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夜。林を出たあとの帰り道、空には満天の星が浮かんでいた。
ミナトが振り返りながらつぶやく。
「なんか…RPGのイベントみたいだったな」
ツバサが肩を叩く。
「お前、現実でもイベント起こしすぎなんだよ」
サクラが小さく笑い、カナデが記念にとスマホを構える。
カナデ:「はい、みんな並んで~、“伝説の救出劇”記念ショット!」
シャッター音が響く。
その一枚には、土にまみれた靴、汗で乱れた髪、けれど確かな絆と笑顔が写っていた。
ミコト(静かに):「青春って、こういうのを言うんだろうな…」




