システムエラーで情報漏洩!
静寂を破るように、学校内で衝撃的なニュースが駆け巡った。生徒たちのスマホから全ての情報が漏洩するという前代未聞のトラブルが発生したのだ。
学校側は事態の重大性を重く受け止め、直ちにサーバのメンテナンスを実施。生徒たちには冷静な対応を呼び掛けながら、再発防止策の説明も行われた。
しかし、ツバサの心は穏やかではなかった。偶然、自分が観察対象として記録されている情報を目にしてしまったのだ。その瞬間、胸の奥で何かが崩れ落ちる感覚に襲われた。
スマホの画面には、ツバサに関する詳細な観察データが並んでいた。
【観察データ抜粋】
日時: 〇月〇日 14:32
場所: 中庭、ベンチ付近
行動記録: 一人で読書、数分おきに周囲を確認。
感情推測: 冷静、警戒心
交流記録: ミナトと短い会話。瞬時の思考変化が分析対象。
特記事項: 高度な論理的思考傾向あり。予想外の状況下での反応に注目。
ツバサは画面をじっと見つめ、唇を引き締めた。動揺する心の内側で、冷静な論理が静かに動き出す。
(なぜ私が観察対象に? 誰が、何の目的で?)
その疑念を押し隠すように、カナデが静かに近づいてきた。
「ツバサ、大丈夫?」
カナデの声は日常の優しさそのものだった。しかし、ツバサはそのトーンの裏側にわずかな緊張感を感じ取る。
ツバサは独自の観察を開始し、行動パターンを記録し、意図的な質問を繰り返した。カナデもまた、ツバサの変化に気づき始め、無意識のうちに警戒を強めていた。
ある日の放課後、二人きりの図書室。
ツバサは何気ない風を装い、カナデに問いかけた。
「カナデ、もし誰かが私たちのことを観察してたら、どう思う?」
カナデは本を閉じ、静かに微笑んだ。
「面白い発想だね。でも、観察するならその理由が重要じゃないかな。興味本位なのか、何か目的があるのか」
その答えは冷静で自然だった。しかし、ツバサはカナデのわずかに硬直した指先を見逃さなかった。
さらに数日後、ツバサは意図的に自分のスマホを机に放置し、カナデが1人になる瞬間を作った。物陰から密かに様子を窺う。
カナデは周囲を確認し、ツバサのスマホに一瞬目を向ける。しかし、すぐに視線を外し、何事もなかったかのように席に戻った。
(今、わずかに躊躇した。何かを知っている…)
放課後、帰り道での会話。
「最近、カナデって隠し事してない?」
ツバサの突然の質問に、カナデは一瞬だけ呼吸を止めた。しかし、すぐに軽く笑って答える。
「隠し事?そんなのあるわけないよ。ツバサこそ、何か隠してる?」
その返答にツバサも微笑んだが、心の奥では冷静に分析を続けていた。
(お互いに知っている…でも、確証がない。だからこそ、この駆け引きは続いていく。)
——互いを探り合う静かな戦いは、表面上の平穏を装いながら、緊迫感を増していった。
そして騒動当日、ミナトは何気なくスマホを開いた。しかし、いつもとは違う違和感が胸をざわつかせる。
「……え?これ、サクラの日記?」
画面には『天然ボケ炸裂日記』と題されたエントリーが並ぶ。指が震える。読んではいけない気がするが、好奇心がそれを打ち消す。
『今日の空は青かった。昨日も青かった。でも、なんだか今日の方が特別に青い気がした』
ミナトは一瞬笑いかけるが、ふと思うことがあった。
「……僕、こんなプライベートなものを読んでいいのか?」
笑いと罪悪感が交錯する。サクラの無防備な言葉が、心の奥に刺さる。
サクラもまた、自分のスマホを開き、『脳天気ポエム集』に目を止める。
『ポテチの波がさざめく 心の岸辺にプリンが揺れる』
「ぷっ……!」思わず吹き出すサクラ。しかし、笑いながらも心の奥には小さなときめきが芽生えていた。
「ミナト先輩って、こんなに自由な人だったんだ……」
サクラの笑い声が耳に届く。ミナトは心の中で葛藤していた。
「もしサクラが、俺のポエムで馬鹿にして笑ってたら……いや、そんなこと……」
不安と迷いが入り混じるが、自分も笑ったくせに、サクラの反応が気になって仕方がない。
サクラがスマホを持ったままミナトの方へ歩み寄る。
「ミナト、これ……読んじゃった」
ミナトは一瞬息を呑む。心臓が鼓動を速める。
「俺も……サクラの日記、読んじゃった」
お互いの視線が交わる。一瞬の沈黙。そして。
「ポテチの波って、何!?」
「特別な青さって、どういうこと!?」
二人は同時に笑い出した。緊張が一気に解け、心がふわりと軽くなる。
ミナトの内なる声:
「大丈夫だと思っていたけど……サクラとだから、こんな風に笑い合えるんだな」
スマホの情報は元通りになったが、お互いの心には新しい繋がりがしっかりと刻まれていた。




