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意図した雨宿り

放課後、空模様は一気に暗くなり、突如として激しい雨が降り出した。ゲリラ豪雨だ。


突然の激しい雨が空気を切り裂くように降り注いだ。さっきまでの晴れ渡った空が、まるで気まぐれに表情を変えたかのように暗転する。


ミナトは、「ま、なんとかなるさ!」という脳天気な思考で傘を持ってきていなかった。雨粒が地面に跳ね返り、ミナトの髪と制服を容赦なく濡らす。


そこへ、息を切らしながらツバサが走ってきた。普段は合理的で準備万端のツバサも、この予想外の豪雨には対応できなかったようだ。


「ミナト、何で傘を持ってないんだ?いや、私もだけど……」


「はは、まあ、雨も悪くないよね!濡れるのも経験の一つだし!」


二人は自然と笑い合い、豪雨の中で奇妙な楽しさを感じていた。その時、ふとツバサの視線がミナトのカバンに止まる。


「……そのお守り、まだ持っているんだな」


ミナトのカバンには、以前ツバサがミナトに渡したお守りがついていた。ツバサ自身も同じデザインの色違いのお守りを持っている。


「もちろん!ツバサがくれたものだし、大事にしてるよ!」


ミナトは無邪気な笑顔を見せ、お守りを指で軽く弾いた。その瞬間、お守りが淡い光を放ち、雨粒のカーテンの中に論理的な短文が次々と浮かび上がる。


『不測の事態には冷静さが最も有効な対応策である』


ミナトは目を輝かせて笑う。


「おおー!やっぱりすごいな、これ!」


さらにお守りを揺らすと、次の短文が浮かび上がる。


『行動の結果は、意図と無関係に現れることがある』


「深いなぁ…でも、たしかにそうだよね!」


その瞬間、背後から静かに近づく影。


カナデが、まるで周囲の空気と同化するかのように立っていた。


「……」


ミナトとツバサがようやく気づき、驚いて振り返る。


「カナデ!いつからいたの!?」


「最初から」カナデは淡々と答える。


ミナトはお守りを再び振る。


『考える前に行動するなら、少なくとも靴は揃えて履こう』


カナデは真顔で一言。


「……これは、靴を揃えることで地球の自転を安定させる儀式的意味があるわ」


ミナトは吹き出し、膝をついて爆笑。


「ははは!僕の靴、地球の運命に関わってたのか!」


ツバサは眉をひそめ、冷静に鋭く反論する。


「地球の自転は地殻の質量分布と慣性モーメントによって決定されている。個人の靴ごときで影響するなら、世界はすでに混乱に陥っているはずだ」


ミナトが笑い転げる中、さらにお守りを振ると、次の短文。


『論理が通じない相手にはユーモアが最適解である』


カナデは少し首をかしげ、無表情で。


「……つまり、ユーモアは未知の言語体系における普遍的な暗号解読法の一種ね」


ミナトは再び大爆笑。


「僕、宇宙人とでも交信できるかも!」


ツバサは鋭い視線で反論する。


「暗号解読にはパターン認識と統計的解析が必要だ。ユーモアは主観的であり、解読手段としては非効率極まりない。」


ミナトはお構いなしにお守りを振り続け、最後に現れた短文。


『雨の日も、心が晴れていれば問題ない』


カナデは真剣な顔で頷き、


「……つまり、心が晴れることで気象現象に逆らう超常的能力が発現するのね」


ミナトは笑いすぎて地面に倒れ込み、ツバサは冷静に腕を組んで締めくくる。


「気象現象は大気中の物理法則によって支配されている。心の状態が天候に影響を与えるなら、気象予報士は心理学者であるべきだ。」


三人は顔を見合わせ、そしてふっと笑い声がこぼれた。雨の冷たさとは対照的に、心は不思議と温かかった。



ーーーー

ミナトはわざとずぶ濡れになりながらも、両手を大きく広げて笑う。


「わー!これぞ天然のサプライズ!最高だね!」


ツバサは冷静に濡れた髪を払い、低く落ち着いた声で返す。


「予測困難な天候変化は決して好ましいものではない。体温低下によるリスクを考慮すべきだ」


ミナトは何の気にも留めず、「風邪も冒険の一部さ!」と無邪気に笑い続ける。


そんな二人のやり取りを、カナデは静かに観察していた。実はカナデは観察者の立場からツバサの鞄に折り畳み傘があるのを知っていた。


(ツバサは傘を持っている……なのに、なぜ使わない?)


カナデは心の中で冷静に分析を始める。


『ツバサは合理主義者。通常なら効率と実利を重視し、傘を使うはず。しかし、今はあえて使用しない。


仮説1:ミナトへの配慮。自分だけが傘を差すことで心理的距離を生むことを避けている。


仮説2:共有体験による絆形成。困難な状況を共に経験することで、無意識のうちに仲間意識を深めたいと考えている。


仮説3:自己観察の試み。論理だけに依存する自分と、感情の揺らぎを見つめ直している。』


ツバサはミナトの無邪気な笑顔を一瞬だけ眺め、無表情の奥に揺れる感情をうっすらと浮かべる。


『彼女は論理を軸に世界を理解している。しかし、今この瞬間、感情という曖昧で制御しにくい要素がその論理の隙間から顔を覗かせている。ミナトの存在は、ツバサの中にある“合理性と感情”のバランスに微細な影響を与えている』


ミナトが陽気に尋ねる。


「ツバサ、濡れるのも楽しいでしょ?」


ツバサは一瞬だけ視線を外し、冷静を保ったまま答える。


「これは単なる水分の付着に過ぎない。不快に感じる必要はない」


その言葉の背後には、論理だけでは説明できない感情の揺らぎが確かに存在していた。


カナデは静かに微笑み、心の中で結論づける。


『合理性と感情は、相反するものではなく共存するもの。ツバサの強さは、論理的でありながらも、その隙間に感情を許容できる柔軟さにある。それに気づいているのは、たぶん彼女自身もまだ気づいていない』


カナデはそのことを口に出すことなく、ただ雨音の中で二人のやり取りを見守り続けた。


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