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交差する心の声 〜感情の狭間で〜

ミコトはミナトが転校してから半年が経った今も観察し続けていた。彼女のスマートフォンには、ミナトに関する情報が絶えず集まってくる。日常の些細なことから、ふとした瞬間の表情、無邪気な言動までもが記録され、それらを見返すたびに、ミコトの中には言葉では表せない感情がふつふつと湧き上がっていった。


ミコトは冷静沈着で、物事を分析することに長けていると自負していた。感情に流されることなく、全てを客観的に捉える。それが自分の強みであると信じていた。しかし、ミナトに触れるたびに、彼女の中で何かが微かに軋むような感覚が芽生え始めた。


『これはただの好奇心、観察者としての興味…それ以上ではない』


そう自分に言い聞かせるたびに、心の奥底で反論する声が小さく響く。ミナトの無邪気な笑顔や突拍子もない発言が、感情の波紋を広げるたびにミコトは焦燥感を覚えた。冷静さを保とうとするほど、逆に心はざわつく。胸の奥で静かに膨らんでいく感情を、彼女は必死に抑え込もうとした。


『感情など、不要なノイズに過ぎない。分析と観察だけが私の役割』


ミコトはスマートフォンの画面を見つめ、収集したデータを分析しようとする。しかし、彼の無邪気な笑顔の写真に目が止まるたび、心が揺れる自分に気づき、慌てて画面を閉じた。まるでその画像が、彼女の心の奥に隠したはずの何かを暴こうとしているかのようだった。


ある日、ミナトがふとしたきっかけでミコトの目の前に立った。


「やあ、ミコト。最近どう?」


その何気ない一言が、ミコトの心に静かな波紋を広げる。胸が少しだけ高鳴るのを感じ、戸惑いながらも無表情を装う。


『違う、これはただの一時的な反応。意味はない』


しかし、否定すればするほど、その感情は確かさを増していった。論理で解けない感情に戸惑い、理性と感情の間で揺れ動くミコト。彼女は必死に冷静さを保とうとするが、抑え込めば抑え込むほど、心の奥底でその“何か”が強く存在感を主張していく。


その答えは、まだミコト自身の中で明確にはならない。しかし、彼女の胸の奥で確かに芽生え始めた「何か」は、これからの二人の関係を少しずつ変えていく予感に満ちていた。



夜の帳が静かに寮を包み込む。部屋にはスマートフォンの淡い光だけが、ミコトの揺れる心を映し出していた。


ミコト(内面モノローグ)

「私は完璧でありたかった。すべてを論理的に整理し、冷静でいることが私の強さだったはず。でも、彼の無邪気な笑顔、突拍子もない言葉…どうしてこんなにも胸が苦しくなるの?」


震える指先でメッセージを打ち終え、ツバサへと送信する。短いその文章が、ミコトの内に隠してきた感情を代弁していた。


——


その頃、ツバサはスマートフォンの通知音に気づき、画面を開いた。


ツバサ(内面モノローグ)

「ミコト…恋心?それなら簡単なこと。感情はデータの積み重ねで整理できる。でも、なぜこのメッセージを読むだけで胸がざわつくの?私はただの先輩なのに…」


冷静さを装い、指先で素早く返信を打つ。


ツバサ(メッセージ)

「感情に正解はないわ。でも、逃げずに向き合うことでしか本当の答えは見つからない。怖がるのは自然なことよ。」


メッセージを送り終えた瞬間、ツバサの心は静かな嵐に包まれた。


ツバサ(内面モノローグ)

「“怖がるのは自然なこと”、か…ミコトにそう言いながら、私は自分の感情から逃げている。ミナトの無邪気さが心を揺さぶるのは、ただの好奇心じゃない。認めるのが怖いだけ…」


——


ミコト(内面モノローグ)

「ツバサ先輩の言葉は冷静で、いつも正しい。でも、どうしてこんなにも温かく感じるの?恋心がこんなにも複雑で、こんなにも苦しいなんて知らなかった」


ツバサ(内面モノローグ)

「冷静さは私の鎧。でも、その鎧の下で確かに何かが脈打っている。ミナト…君の存在が、私の論理を静かに崩していく」


——


二人は、同じ夜空の下で、異なる形の感情に向き合っていた。


ミコトは「未知の感情」としての恋心に戸惑いながらも前に進もうとしている。その一方で、ツバサは「抑え込んだ感情」に気づき始めながらも、それを認めることに抗っていた。


ミコト(内面モノローグ)

「私はもう逃げない。たとえこの気持ちが痛みを伴うとしても、それが私の本当の心なら、向き合うべきだから」


ツバサ(内面モノローグ)

「感情は弱さじゃない。それは知っている。でも、認めた瞬間、私は私でいられるのだろうか?…」


交差する二つの感情。それは、静かでありながら、確かにドラマチックな心の物語だった。



ある日の放課後の教室は、夕日の淡い光に照らされていた。ミナトは鞄を肩に掛け、教室の出口に向かおうとした瞬間、横からミコトの声が響いた。


「ミナト先輩、ちょっといいですか?」


振り向いたミナトは、特に深い考えもなく「おお、どうした?」と笑顔で答える。その脳天気さに、ミコトは一瞬だけため息をつきつつも、気を取り直してミナトを呼び止めた。


屋上へと向かう二人。穏やかな風が吹く中、日常的な会話が続く。しかし、ミコトの心の中は、まるで嵐のように揺れていた。


「で、何の話?」とミナトが問いかけた瞬間、彼のスマホが機械的な音を鳴らした。


「ごめん、ちょっと」


画面を見るミナト。そこにはツバサからの、意味不明な論理的な質問が届いていた。


『もしピザの面積を最大化するには、トッピングの配置はどうすべきか?』


ミナトは特に考えもせず、「丸く置けば?」と適当に返信。そして振り返り、再びミコトに話しかけた。


「で、何だっけ?」


ミコトは微かに笑みを浮かべ、もう一度気持ちを整えて本題に入ろうとする。


しかし、再びミナトのスマホが鳴る。


「またごめんね」


再度スマホを確認。ツバサからのさらなる意味不明な論理的な質問だった。


『もし三角形の角度が友情に影響するなら、最適な友情の角度は何度か?』


ミナトは深く考えず、「90度?直角だから友情もまっすぐ!」と返信。


ミコトはさすがにタイミングを逃し、心の中で深いため息をつく。


それでも諦めきれず、ミコトはふとした疑問を口にする。


「そのメッセージ、誰からですか?」


ミナトは脳天気な笑顔で答える。


「ツバサだよ。なんか変な質問ばっかり送ってくるんだ。面白いよね!」


その答えにミコトは苦笑し、もう一度小さなため息をつきながらも、心は少しだけ沈んでいた。



ミコトはツバサの気持ちを察してしまった。だからこそ、分かる。告白のタイミングで邪魔されたことを。しかし、不思議なことに怒りは湧かない。ただ、観測者としての冷静な視点がそこにあった。


スマホを手に取る。その動作は正確でブレもない。指先が滑らかにミナトのトーク画面を開く。ここまでは観測者としての自分の領域。むしろ安心感すらある。


「今日の昼ごはん、学食のカレーが異次元級だった。辛さレベル:惑星直撃」


たわいもないメッセージを送信する。データ収集の一環、それだけだったはず。


——しかし、送信直後に心拍数がわずかに上昇するのを感じた。


『心拍数の変化…外的要因はなし。室温、身体の姿勢、呼吸パターンも一定。ならば内部要因…いや、一過性の生理反応に過ぎない。』


冷静に自分を分析する。だが、微かなざわめきが胸の奥に残る。感情という不確定要素。


すぐにミナトから返信が届く。


「おお!異次元級カレー!?それはもう、舌が宇宙旅行したってことか!今度は一緒に食べに行こう、カレー王国への冒険だ!」


その瞬間、温かい波のような感覚が胸に広がる。思わず口元が緩むのを自覚する。


『表情筋の無意識的な収縮。単なる神経伝達の結果。感情とは直結しない現象…のはず』


しかし、否定するたびに微細な違和感が積み重なる。理論の隙間からこぼれ落ちる小さな感情。


『いや、違う。これはデータのノイズにすぎない。適切にフィルタリングすれば問題は解消する』


フィルタリング——それは冷静さの仮面。しかし、感情は静かにその仮面の隙間から顔を覗かせていた。


観測者という立場を超えて、恋心を抱いていることをミコトは再認識したのだった。


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