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純白幻想物語 吸血鬼の記憶の旅  作者: 水橋キレシ
第6章 悪夢にかこまれた町
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双子の幻影 ①

「うあ〜っ」


 アンリリズは大きく伸びをすると、これまた盛大にあくびをひとつ。


 朝の陽光がすでに部屋中を明るく照らしており、彼女はぼんやりとした表情で窓の外の青空を見つめながら、もう一度ぐっと背中を伸ばした。


 どういうわけか、体がやけに軽く感じられる。


 リナードの街に来たばかりの頃のような重だるさは、もうどこにもなかった。


 不思議に思っていたそのとき、窓の外から賑やかな歓声が聞こえてきた。


 声に引き寄せられるように、アンリリズは窓辺に身を寄せた。


 そこにはまるでお祭りでも開かれているかのように、人々がぎゅうぎゅうに街道を進んでいく様子が広がっていた。


 何かの目的地に向かっているようだったが、どこへ行くのかは分からない。


「昨日……私、なんだか変なものに影響されて、気を失ったような……」


 ぼそりと独り言を呟きながら、アンリリズの視線は窓の外の人々を追いながら、少しずつ定まらなくなっていった。


「おはよう、アンリリズ」


 どこか冷えた声が耳に届いた瞬間、アンリリズはベッドから飛び上がりそうになった。


 まだ起きるまで一時間はあるはずのオースが、すでにソファに座っていたのだ。


 手には銀色の表紙のノートを持ち、ぱらぱらとページをめくっていた。


 テーブルの上には、二人分のサンドイッチとコーヒーがすでに用意されていて、そのうちの一皿は半分ほど食べられていた。


「お、オース様! おはようございますっ!」


 オースがこんなに早起きしているとは夢にも思わず、アンリリズは慌てて身支度を始めた。


 だが、ふと何かを思い出したように手を止め、こっそりとオースの方を盗み見る。


 彼の手にあるのは、以前屋敷でメイドをしていた頃に掃除中に偶然見つけた、あのノートに違いなかった。


 オースは時折万年筆を手にし、ノートに何かを書き込んでいる。


 真剣な眼差しの赤い瞳には、時折わずかな迷いが浮かんでいた。


 軍服ではなく普段着に身を包んだ彼は、将軍だった頃の威圧感こそ薄れていたが、代わりにその掴みどころのない神秘的な雰囲気は健在だった。


 アンリリズは思わず見惚れてしまい、手に持った布団を畳むことすら忘れてしまう。


「どうかしたか? アンリリズ」


 視線に気づいたのか、オースがノートを閉じながら優しく微笑み、彼女に歩み寄ってきた。


 アンリリズは慌てて視線をそらし、布団を畳み直し始める。


 だがその頬は、まるで火に焼かれたかのように真っ赤になっていた。


「い、いえ……ただ、今日のオース様がどうしてこんなに早起きなのか、気になっただけですっ」

「ずっと眠れなかったからな。いっそ寝ないことにした」

「それに、今日は朝からルミアとエリズ捜索の計画について話し合う予定だ。俺は先にロビーに行っている。支度が済んだらすぐに降りてこい」

「はいっ、オース様」


 アンリリズは深々と頭を下げ、かつて仕えていた頃のように丁寧にオースを見送った。


 オースが部屋の扉へと向かい、黒いコートを羽織ったところで、ふと立ち止まり、振り返る。


「テーブルの朝食、忘れずに食べるんだぞ」


 不意の言葉に、アンリリズは目を見開いたまま動けなくなった。


 しばらく沈黙したあと、彼女の体が感情の波に揺れて、わずかに震え始める。


「……うん」


 カチリ。


 彼女の返事と同時に、扉が閉まる音が部屋に響いた。


 顔を上げると、廊下から遠ざかっていく足音が微かに聞こえる。


 その音を耳にした瞬間、堪えきれずに涙がこぼれ落ちた。


 胸の奥を満たす喜びと切なさが絡み合い、呼吸すらも苦しくなるほどだった。


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