双子の幻影 ①
「うあ〜っ」
アンリリズは大きく伸びをすると、これまた盛大にあくびをひとつ。
朝の陽光がすでに部屋中を明るく照らしており、彼女はぼんやりとした表情で窓の外の青空を見つめながら、もう一度ぐっと背中を伸ばした。
どういうわけか、体がやけに軽く感じられる。
リナードの街に来たばかりの頃のような重だるさは、もうどこにもなかった。
不思議に思っていたそのとき、窓の外から賑やかな歓声が聞こえてきた。
声に引き寄せられるように、アンリリズは窓辺に身を寄せた。
そこにはまるでお祭りでも開かれているかのように、人々がぎゅうぎゅうに街道を進んでいく様子が広がっていた。
何かの目的地に向かっているようだったが、どこへ行くのかは分からない。
「昨日……私、なんだか変なものに影響されて、気を失ったような……」
ぼそりと独り言を呟きながら、アンリリズの視線は窓の外の人々を追いながら、少しずつ定まらなくなっていった。
「おはよう、アンリリズ」
どこか冷えた声が耳に届いた瞬間、アンリリズはベッドから飛び上がりそうになった。
まだ起きるまで一時間はあるはずのオースが、すでにソファに座っていたのだ。
手には銀色の表紙のノートを持ち、ぱらぱらとページをめくっていた。
テーブルの上には、二人分のサンドイッチとコーヒーがすでに用意されていて、そのうちの一皿は半分ほど食べられていた。
「お、オース様! おはようございますっ!」
オースがこんなに早起きしているとは夢にも思わず、アンリリズは慌てて身支度を始めた。
だが、ふと何かを思い出したように手を止め、こっそりとオースの方を盗み見る。
彼の手にあるのは、以前屋敷でメイドをしていた頃に掃除中に偶然見つけた、あのノートに違いなかった。
オースは時折万年筆を手にし、ノートに何かを書き込んでいる。
真剣な眼差しの赤い瞳には、時折わずかな迷いが浮かんでいた。
軍服ではなく普段着に身を包んだ彼は、将軍だった頃の威圧感こそ薄れていたが、代わりにその掴みどころのない神秘的な雰囲気は健在だった。
アンリリズは思わず見惚れてしまい、手に持った布団を畳むことすら忘れてしまう。
「どうかしたか? アンリリズ」
視線に気づいたのか、オースがノートを閉じながら優しく微笑み、彼女に歩み寄ってきた。
アンリリズは慌てて視線をそらし、布団を畳み直し始める。
だがその頬は、まるで火に焼かれたかのように真っ赤になっていた。
「い、いえ……ただ、今日のオース様がどうしてこんなに早起きなのか、気になっただけですっ」
「ずっと眠れなかったからな。いっそ寝ないことにした」
「それに、今日は朝からルミアとエリズ捜索の計画について話し合う予定だ。俺は先にロビーに行っている。支度が済んだらすぐに降りてこい」
「はいっ、オース様」
アンリリズは深々と頭を下げ、かつて仕えていた頃のように丁寧にオースを見送った。
オースが部屋の扉へと向かい、黒いコートを羽織ったところで、ふと立ち止まり、振り返る。
「テーブルの朝食、忘れずに食べるんだぞ」
不意の言葉に、アンリリズは目を見開いたまま動けなくなった。
しばらく沈黙したあと、彼女の体が感情の波に揺れて、わずかに震え始める。
「……うん」
カチリ。
彼女の返事と同時に、扉が閉まる音が部屋に響いた。
顔を上げると、廊下から遠ざかっていく足音が微かに聞こえる。
その音を耳にした瞬間、堪えきれずに涙がこぼれ落ちた。
胸の奥を満たす喜びと切なさが絡み合い、呼吸すらも苦しくなるほどだった。




