表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
純白幻想物語 吸血鬼の記憶の旅  作者: 水橋キレシ
第6章 悪夢にかこまれた町
91/92

エール共和国へ 20

 皆がそれぞれ解散した後、オースは未だ昏睡状態のアンリリズを背負い、宿の自室へと戻った。


 そっと彼女をベッドに寝かせ、毛布を掛ける。


 それから、無言のまま椅子に腰を下ろし、窓の外の夜空を見つめた。


 教会での戦いが、彼の思考を縛りつけていた。


 ただぼんやりと、夜が更けるまで窓辺に座り続ける。


 ——マエン。


 心の内で名を呼ぶと、すぐさま体内に宿る魂が応じた。


 【オース、どうかした?】


 ——前回、戦いを助けてくれたことへの礼を、まだ言えていなかったな……。


 オースの脳裏に、ヴァムとの激戦が蘇る。


 マエンが自らの身体を操り、絶望的な状況の中で舞い踊るように戦い、かすれば重傷、あるいは即死するはずの攻撃を巧みにかわしていた。


 あの戦いの光景は、まるで刻印のように、オースの記憶に焼き付いていた。


「もし俺が、お前と同じように戦えたら、どれほど良かったか……」

「オースは、今のままで十分に強いよ」


 マエンの声は、確信に満ちていた。


 そこに、少しの迷いや皮肉すら感じられない。


 十五年もの間、共に過ごしてきた。


 時がどれほど流れようとも、彼女のオースへの信頼は、ただの一度も揺らいだことがなかった。


 ——確かに、オースは吸血鬼の力を持っている。


 だが、強敵と渡り合うための実力は、持ち合わせていない。


 これからエリズを救うために、強大な敵と戦う必要がある。

 

 さらに、行方知れずのヴァムから、アイナの『バタリファ』を取り戻さなければならない。


 拳を強く握りしめる。

 胸の奥に渦巻く焦燥が、どうしても拭えない。


 このまま迷い続けるだけでは、リズミアたちの足を引っ張ることになる——。


 【そのことか……オースの頼みなら、マエンに断る理由はないよ。だから、お礼なんていらない】

 ——俺に、お前の戦い方を教えてくれ。俺は、強くならなければならない。

 【マエンがオースの身体に宿っているのだから、マエンの持つ技術も、オースなら知っているはず……】


 オースは沈黙し、しばし思案した後、改めて心の内で告げる。


 ——もし、『あの記憶』の力を解放しなければならない時が来たら、ためらわずに解禁してくれ。

 【記憶の魔力流が枯渇すれば、オースは死ぬかもしれないよ……それでもいいの?】


 オースは、一瞬息を呑んだ。


 ゆっくりと窓の外へと視線を向ける。


 “永遠の月”が夜空に浮かび、雲間から暗紅色の空が垣間見える。


 ——もし、それで誰かを救えるのなら……俺は、使う。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ