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純白幻想物語 吸血鬼の記憶の旅  作者: 水橋キレシ
第6章 悪夢にかこまれた町
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エール共和国へ 16

 オースは微かに響く声の方向を聞き分け、目を凝らした。


 すると、遠くの淀んだ黒の大地に、一筋の淡い青がゆっくりとこちらへと向かってくるのが見えた。


 それは先ほど、拗ねて行方不明のエリズを探しに行ったリズミアだ。


 黒く淀んだ何かがリズミアを飲み込もうとするも、彼女の周囲にある目視できない力場に弾かれた。


 さらに、その身に宿る聖なる力が、再び近づこうとするものを焼き尽くし、灰さえ残さなかった。


「エルフと一緒にエリズを見つけたわ!……教会の中にいるよ!」

「先にこっちへ!下は危険すぎる!」


 オースは血液で形成したプラットフォームをリズミアの方へと操作した。


 しかし、リズミアの周囲を守る力場は徐々に弱まり、黒い何かを弾く力も次第に減少していた。


「ルミア、しっかり掴まれ!」


 オースが声をかけた瞬間、血のプラットフォームは球状へと変化し、リズミアの方へと急降下した。


 その速度は凄まじく、黒き海のような不明物を力尽くで切り開き、力尽きかけていたリズミアを包み込んだ。


 そして、血球が再び浮上すると、リズミアは膝をつき、荒い息を吐いていた。


 オースはそのまま教会の方向へと進んだ。


「助かった……」


 救出されたリズミアはプラットフォームの上で息を整えながら、先ほどの恐怖を引きずっているようだった。


「エリズを見つけたって言ったけど、どうしてリズミアだけ戻ってきたんだ?」

「エリズが、まず私に知らせに行くようにって……今、彼女はもう一人の、連れ去られた剣士と一緒に教会で戦ってる……」

「この結界の中に、俺たち以外にも誰かがいるのか?」


 突然、プラットフォームの下の黒い泥沼が刺激を受けたように波打ち、まるで溶岩のように煮えたぎり始めた。


 そして、その直後、教会の中で激しい爆発音が響き渡った。


 どうやら、内部でも熾烈な戦いが繰り広げられているようだ。


 ――さらに、足元の黒い泥沼の反応は、教会内部の戦闘と密接に繋がっているようだった。


「龍鱗を纏った男……不可思議な剣技を使い、その刃は空間さえも断ち切る……」


 リズミアはその男のことを話しながら、思わず尊敬の色を浮かべた。


「……まさか、半竜人か?」


 オースが呟いた、その瞬間――


 足元のプラットフォームが突然、見えない壁に激突した。


 衝撃でバランスを崩しそうになり、リズミアはオースの手を掴みながら、なんとか踏みとどまった。


【貴様たちが進める道は、ここまでだ。】


 夜空が不気味な血のような赤に染まり、結界のどこからともなく、人間かどうかすら分からない、乾いた声が響いた。


「誰だ?俺たちを閉じ込めて何を企んでいる?」


【我が名はビナール・グラビ。マール聖教の上位結界師だ。我が主教が滅びの女神と接触するために、すべてを捧げている。】


 名乗ることに一切の躊躇いも見せない相手に、オースは内心で激しい警戒心を抱いた。


 その隣で、「滅びの女神」という言葉を耳にしたルミアの身体が、微かに震えた。


 オースが驚いたのは、グラビという名前ではなかった。


 囚われている相手の個人情報など、正直どうでもいい。


 彼の関心を引いたのは――


【上位結界師】


 結界魔術式の構築において、ほぼ頂点に位置する存在。

 時間さえ与えられれば、第二の世界を生み出せるほどの絶対的な力を持つ。


【頂点結界師】のように、瞬時に魔術式を形成することはできないものの、上位結界師もまた、“帝国の兵器”と呼ばれるに値する存在だった。


「ってことは……リナード城は、マール聖教が作り出した幻影にすぎないってことか?そもそも、エイル共和国の地図には存在しない?」


【リナード城は、実在する。お前たちが遭遇した人々も、出来事も、すべて本物だ。】


 グラビは静かに答えた。


 そして、次に続いた言葉は、さらに恐ろしいものだった。


【だが、今お前たちが目にしているすべては――我々が町の住人を強制的に眠らせ、彼らの意識から抽出した、“滅びと苦痛”の要素なのだ。】


 まるで、その言葉に呼応するように――


 黒潮のごとく蠢く地面が「ゴゴゴゴ……」と唸りを上げ、すべてを飲み込まんとする波となってうねり出した。


 もし、これがリナード城の住人たちの負の感情が集合したものなら、これに飲まれた者が生還できるとは到底思えなかった。


【すべての者は、安らかな眠りの中で、より美しい楽園へと旅立つ。我らが主教が語る、滅びの女神が創り出す理想郷へと。】


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