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純白幻想物語 吸血鬼の記憶の旅  作者: 水橋キレシ
第6章 悪夢にかこまれた町
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エール共和国へ 13

 しかし、オースを絶望させたのは、深夜になっても彼らがこの町でエリズの行方に関する有力な手がかりをまったく得られなかったことだった。


 そして、オースはこれまで気づかなかった異変にもようやく気がついた。


 現在のリナード城内には、いくつもの怪しい魔力流の源が存在していた。


 入城した際、オースが感じ取った魔力流の源は一か所のみだった。


 それは彼が宿泊している旅館の北西、町の中央に位置する教会の内部だった。


 この状況自体は特に不自然ではなかった。なぜなら、エール共和国国内の教会には通常、教会専用の法具があり、それを使って周囲の魔力流を集めることで、信者の信仰を強化する魔法を促進できるからだ。


 当時、病気のエリズのために宿を探すのに必死だったオースは、そのことを深く考えずにいた。


 しかし、たった半日の間に魔力流の源は数十か所も増加していた。


 それらの源は、町の中央にある教会を中心に、環状に広がるような分布を見せていた。


 さらに、その増加速度は異常なほど速く、町全体の魔力流濃度もどんどん高まっていった。


 次々と出現する新たな魔力流の源が、「リナード町」という空間に絶えず魔力流を注ぎ込んでいた。


 オースの戦場経験からの判断では、現在リナード城内で大規模な領域魔術式が構築されつつあるのは間違いなかった。


 しかし、その魔術式はただのカモフラージュ、あるいは単なる器に過ぎない。


 それは、膨大な魔力流を凝縮した破滅級の魔法を受け入れるための容器として、最も適しているのだった。


「……アンリリズ、大丈夫か?」


 我に返ったオースは、ふらついているアンリリズの姿に気づき、緊張した面持ちで声をかけた。


 彼女の様子は、まるで現在のリナード城内の魔力流の濃さに適応できていないかのようだった。


 その体は揺れ、足元もふわふわと頼りなく、まるで綿の上を歩いているように安定感がなかった。


「オース様の眷属の方、あまり体調が良くなさそうですね。」


「アンリリズ、本当に大丈夫か?」


 オースの視線を感じたアンリリズは、途端に顔を赤らめ、どうやってこの困窮を誤魔化すべきか迷った。


 確かに、彼女は不調を感じていた。


 しかし、その理由は理解していた。


 最後にオースから【食事】を与えられてから、すでに一か月以上が経過していた。


 本来、通常の環境であれば、彼女のようなオースの眷属は三か月から半年ほど【食事】なしでも正常な状態を保てる。


 しかし、現在のリナード城の魔力流濃度は、一般的な環境の許容量を超えていた。


 長時間この環境にさらされていると、【食事】への渇望がどんどん強くなっていく。


 それでも、今はエリズを探すことの方が優先事項であることを彼女は理解していた。


「……オース様、まずはエリズ様を探しましょう。」


「アンリリズ、お前が誤魔化せると思っているのか? お前も分かっているはずだ。


 もし彼女は【暴走】したら、どれほど恐ろしいことになるかを。」


 オースの口調が一気に厳しくなった。


 彼の怒気を帯びた視線を受け、アンリリズは羞恥のあまり俯いた。


 彼女も、主であるオースが自分の異変を感じ取っていることを理解していた。


 それでも先ほどの発言は、自分が足手まといではないと証明したかっただけなのだ。


「……分かりました、オース様。この事件が解決したら、ちゃんと【食事】をとります。でも、その前にお話ししたいことがあります。」


 アンリリズは周囲の何気ない通行人を確認すると、オースにそっと近寄り、小声で言った。


「エリズ様の失踪……リナード城内で最も大きな教会が関係していると思います。」

「アンリリズ、何か気づいたのか?」

「午後、リズミア様と一緒に部屋を出たとき、教会の服を着た人物とすれ違いました。まるで何かを探しているようでした……。」

「ということは……アンリリズ、お前とリズミアは、ちょうどエリズを連れ去ろうとしていた教徒とすれ違ったわけだな。」

「エリズ様が連れて行かれた先、それがあの場所です。」


 ルミアは静かに町の中心にある教会を見つめた。


 そして次の瞬間、彼女たちの周囲に異様な変化が起こった。


 向かってくる通行人が、まるで彼女たちの体をすり抜けるかのように歩いていき、周囲の景色は一瞬で猩紅色に染まった。


「……誰かが魔術式を展開した。」


 その瞬間、オースの内心で最も疑問だった点が明確になった。


 この町に足を踏み入れたときから感じていた違和感の正体。


 それは――


 この町全体が、巨大な監獄だったということだ。


 わずか数十秒の会話の間に、町の魔力流の源はさらに増え、その速度はオースの予想を遥かに超えていた。


 街の住人たちは何の反応も示さなかったが、オースとアンリリズは、異様な魔力の影響を受け、吐き気を催し、顔色が蒼白になっていた。


 周囲の光景は普段と変わらないものの、教会の方角から放たれる赤い光だけが、背筋を凍らせるほど不気味に感じられた。


「……オース様、身体が冷たいです……。」


 アンリリズは地面に崩れ落ち、侵食する魔力流の冷たさに震えていた。


 オースは急いで彼女を抱き上げた。


 彼女の体は軽く、まるで綿のように負担が感じられなかった。


「どうやら、お前はもう決断したようだな。」


 ルミアは淡々と言った。


「……ああ。この町の主人と、一度じっくり話をしないとな。」

「その必要はありません。」


 ルミアは教会の方向を見つめた。


「彼らはもうこちらへ向かってきていますから。」


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