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純白幻想物語 吸血鬼の記憶の旅  作者: 水橋キレシ
第6章 悪夢にかこまれた町
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エール共和国へ 11

 フードで顔を隠したルミアを除いて、テーブルを囲んでいるオースたちは皆、心配そうな表情を浮かべている。


 料理はすでに用意されてきているが、誰も食べる気配を見せない。


 リズミアが下の階に降りてから、ほんの数分の間に、2階で休んでいるはずのエリスは姿を消してしまった。


 こんな状況にいる者なら、誰でも周囲に感じる不安で身が震えるだろう。


「今の問題は、エリスが一体どこに連れて行かれたか、だ。」


 沈黙を破ったのはオースだ。


 彼はフードをかぶったままで黙っているルミアをちらっと見た後、しばらく考えてから話し始めた。


「ルミアはエリスの病気が治るまで、一緒に行動すると言ってくれたけど… でも、エリスがどこに連れて行かれたのかすらわからない状態じゃ…」

「それなら、さっさと探しに行けばいいんじゃないの!? ここに座って待ってても、エリスが帰ってくるわけないでしょ?」


 リズミアはオースの言葉を容赦なく遮り、怒りを込めて彼を睨んだ。


「エリスは今、ひどく病気なんだよ! もし悪い人に連れて行かれたら、反抗する力すらないんだから! ここで時間を無駄にしている間に、彼女の状況はどんどん危険になるんだよ!」


「じゃあ、次に何をするべきだと思ってるんだ?」

「……」


 オースはリズミアの言葉を反論せず、静かにそう言った。


 そのたった一言が、リズミアを真っ赤にさせ、言葉に詰まらせる。


「戦場で無謀に突っ込んでいく将軍は、部下を無駄に死なせるだけだ。今はどんな恐ろしい敵に立ち向かうことになるか分からない。もし、敵の力が私たちの戦力を上回っていたら… 正面から戦う必要はない。」


 少しでもリズミアの気持ちを落ち着かせるため、オースはできるだけ冷静に話そうと努めた。


「敵が私たちが気づかないうちにエリスを連れて行ったということは、私たちも逆にその跡を追って行けるってことだ。リズミア、無理に行動を起こすのはエリスの状況をもっと危険にしてしまうよ。」


 リズミアの顔はますます赤くなった。


 彼女はエリスが今、危険な状況にいることを考えると、この冷静を保っているオースと話すことができなくなっていた。


「他人の気持ちを全く考えずに、自分の思い通りにすべてを進めるなんて…エリスが私にとってどれほど大切な存在か、全く考えてないんでしょ!?友達がどんな危険な目に遭っているかもわからないまま、ただ冷静に計画を立てることが、あなたの友達に対する態度なの!?」


 リズミアに突然話を遮られたオースは、怒るどころか、むしろその場で呆然とした。


 まるで心の奥底を言い当てられたように、しばらく言葉を失って彼女をただ見つめていた。


「私は最初にエリスと出会ったのは、フィンリルの谷の小屋だった…あの時、私は何も覚えていなくて、凍傷で死にかけていたところを彼女に助けてもらった。そして、完治するまで懸命に看病してくれたんだ。その時から、私は信じていた。きっと女神が私とエリスを出会わせてくれたんだって。彼女は私にとって、最も大切な人だよ。」


 リズミアの言葉を聞いたオースは、にぎやかな酒場の中でも、時間が止まったように感じた。


 まるで他の音が聞こえなくなり、ただリズミアの感情的な言葉だけが彼の頭の中で響き続けていた。


 リズミアの選択が今の状況にはあまりにも危険すぎると分かっていながら、オースは心の中で迷いを感じていた。


【今の僕は、間違った選択をしているんだろうか…】


 こんな無謀な決断を、もし将軍だったら絶対に止めていただろう。


 しかし、何かが静かに変わりつつあるような気がして、それを言葉にできずにいた。


「今の私にとって…エリスはすべてだ。どんなことがあっても、彼女を助けなければならない。オースがここでゆっくりと計画を立てている間に、私はすぐにでも彼女の行方を探しに行く。」

「リズミア…今、衝動的に動かない方がいい…」


 不安なエルフが声をかけたが、リズミアは振り返ることなく、静かに言った。


「エルフ、もし君がついて来たくないなら、無理に来させるつもりはない。これは、私の問題だから。」


 リズミアと目を合わせたエルフは、まるで初対面の人と目を合わせたような感覚に陥り、心の中に言葉では表せないほどの虚しさを感じた。


 ただわずかな距離感を感じただけで、エルフは自分が人間ではないことを改めて実感し、まるで人間のように悲しい感情に苛まれていた。


「もし、他に言いたいことがないなら、私は行くよ。」


 リズミアは無言で周囲を見渡し、そのまま振り向かずに旅館を出て行った。


「リズミア!待って!」


 心配でたまらないエルフは、リズミアの後を追って旅館を出た。


 リズミアの怒鳴る声がなくなり、テーブルの周りは一気に静まり返った。


 オースはただため息をつき、力なく頭を垂れた。


 これは、初めて自分の決断に疑問を持ち、落ち込んだ瞬間だった。


「オース様…リズミアたちだって、戦闘力がないわけじゃない普通の人じゃないんですよ。きっと、彼女たちには彼女たちの方法があるはずです。今、私たちがすべきことはここで沈んでいることじゃなくて、オース様の考えている行動計画を確認することですよ!」

「アニリリズ…ちょっと食べてから話しましょう。」


 アニリリズが食べ始めた隙に、オースは静かに隣に座っているルミアに目を向けた。


 ルミアはずっと旅館の扉の方を見つめており、何かを考えているように動かずにいた。


「ルミア?大丈夫か?」

「…大丈夫。」


 オースが心配して声をかけると、ルミアは何もなかったかのように振り返り、静かに食事を始めた。


 オースはまだ、今後の行動について話し合いたかったが、このテーブルの沈黙した空気が彼の喉を締めつけ、口を開けることができなかった。


【本当に明日まで待ってエリスを探しに行くべきなんだろうか…】


 オースはため息をつき、グラスに入ったアップルワインを一気に飲み干した。


 不思議なことに、ワインを飲んだ後、彼の頭に新たな考えが浮かび上がった。


 旅館の扉の方を見ながら、彼の目の中の迷いが少しずつ消えていった。


 彼はふと、リズミアの恐れを知らない態度が羨ましくなった。


 おそらく、それはリズミアが何度も選んできた選択肢のうちの一つに過ぎないのだろうが、もしそのすべてに彼女がこうした強い意志を示しているなら、それは多くの人々が羨むべき姿だ。


 多くの人々が、ためらいによって後悔し、死ぬまでその後悔に苦しんでいる。


 以前、愛乃の気持ちをためらってしまった自分が、それを許せないように。


「アニリリズ。行こう。」


 アニリリズが喜びの視線を送る中、オースも微笑みながら答えた。


「彼女たちが敵の本拠地に突っ込んで行ってしまう前に、何としてもサポートしないと。」

「うん!オース様、私たちも行きましょう!」


 オースとアニリリズは立ち上がり、旅館の扉に向かって歩き出した。


 ルミアは二人が旅館の扉を出るのを見送った後、しばらく座って考え込み、ようやく立ち上がり、後を追って歩き出した。


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