エール共和国へ ⑦
「私の友人の症状は、だいたい先ほど説明した通りです。」
オースは診療所の椅子に座り、目の前の医者に懇願するような表情を浮かべた。
「どうか先生、旅館までご同行いただけませんか?彼女は今、先生の助けがどうしても必要なんです……」
しかし、目の前の医者は難しい顔をし、オースが説明した症状を書き留めた紙を見ながら首を横に振った。
「確かに、あなたが言った症状は『魔力流排斥』の症状と似ています。しかし、本質的に違いがあります。『魔力流排斥』の症状が出た人間は、エイルに入った後、間もなく命を落とします。この急性の症状に耐えられる人間はほぼいません。」
「つまり、先生の言いたいことは……」
医者はこれ以上多くを語るのは難しいと思ったのか、ただ気まずそうな笑みをオースに向けた。
「他の医者を探されたほうが良いかもしれません。私にはどうすることもできません。」
「分かりました。先生、ありがとうございました。」
感情を抑えながら診療所を出たオースは、空を見上げた。
秋の陽射しが、なぜか目に刺さるようだった。
朝からリナードの街中にある診療所をほぼすべて回ったものの、得られた答えはどれも先ほどの医者と大差なかった。
【症状があまりにも奇妙で、どうにもできない。】
まだ試してもいないのに退こうとする医者たちの態度に対し、オースは特に責めるつもりはなかった。
結局のところ、自分の評判をむやみに傷つける医者はいない。
それに、評判を糧に生きる職業ならなおさらだ。
「しかし、これからどこに行けばいいのだ……」
ふと、彼の視界の隅に教会が映った。
「まさか……あそこに頼るべきなのか?」
魔力流に関連する病については、教会のほうが医者よりも経験があるかもしれない。
しかし、陽光の中で輝く教会を見つめるたびに、オースの心中には不信感がわき上がってきた。
白い大理石の壁や瓦が妙に高級感を醸し出し、教会の門の奥に立つ金属製のハルピュイア像が光を反射している。
広場の中央では、その像に向かって多くの信徒が跪いていた。
教会で繰り広げられる光景を目にしたオースは、どこか現実味を感じられなかった。
「……医者をお探しですか。」
冷たい声がオースの背後から響き、彼は思わず身を震わせた。
声から察するに、話しかけてきたのは十六、七歳ほどの少女だった。
しかし、オースはなぜか言葉では説明できない既視感を覚えた。
ゆっくりと振り向くと、深くフードを被り顔の大半を隠した謎の人物が目の前に立っていた。
さらに驚いたのは、敏感な感覚を自負している彼が、この奇妙な少女がいつ自分のそばに来たのか全く気づかなかったことだった。
「確かに医者を探しているが……君はそれをどうして知っている?」
「あなたは朝からずっと町中の診療所を回っていた。私はあなたをずっと見ていました。」
オースが何かを言う前に、少女の次の言葉が彼をさらに驚かせ、何も言えなくなった。
「あなたの友人が魔力流の乱れによって高熱を出していることを私は知っています。しかし、この病は、イリール大陸のどんな医者にも治せないものです。」
少女が顔を少し上げたことで、オースはフードの下に隠れていた恐ろしい呪文の一部を垣間見た。
その呪文の模様は、オースに初めて心の底からの恐怖を感じさせ、一秒たりともその顔を見続けることができなかった。
「君は彼女を見たことがないのに……なぜそんなに確信を持っている?」
オースは表面上は反論を続けていたものの、険しかった眉間には徐々に緩みが見え始めていた。
今日一日を費やして医者を探し回ったが、エリズの症状の悪化速度はこれ以上の時間を許してはくれない。
もし彼女の症状悪化を和らげる方法が見つからなければ、エリズは自分に付き従ってエイルに来たせいで命を落とすかもしれなかった。
「あなたが何を考えているのか分かります……そして、私をすぐに信じられないことも分かっています。」
少女の声には依然として感情の起伏がなかったが、その言葉には不思議な力があり、オースの心を貫き、彼の思考を全て暴くかのようだった。
「私は、彼女の体内の暴走な魔力流を一度控えてみせれば、きっと信じてもらえると思います。」




