エール共和国へ ⑤
「エリズ、今はしっかり休んでおけ。」
そっとタオルでエリズの額の汗を拭いながら、エルフの顔には心配の色が浮かんでいた。
生化魔導人形は本来、感情表現を持たない存在。
それでも、彼女の表情に宿る憂いは不思議と違和感を覚えさせない。
オースの予測通り、エリズの容態はますます悪化していた。
炎に焼かれるように赤い頬、焼ける石のように熱い体温――。
息苦しげに弱々しい呼吸を繰り返し、時折、呼吸は短く早くなる。
まるで肺に空気が届く前に、無理やり吐き出されてしまうかのようだ。
額に浮かぶ汗、震える身体……。
これが「魔力流排斥」の症状だというなら、オースの説明とも少し違う。
オースが症状を知る医師を探しに出かけている間、エルフとリズミアにできるのは、客室でエリズを見守ることだけだった。
「エルフ……エリズ、どんどん苦しそうになってる。あのオースって男、ほんとに帰ってくるの?」
「エリズの症状は吾にも手に負えぬ。これから先は天命に委ねるほかあるまい……」
「……エリズ、絶対に良くなってね。」
リズミアはベッド脇にしゃがみ込み、エリズの手を強く握りしめた。
雪山で倒れた自分を小屋まで運び、細やかな看病をしてくれたのはエリズだった。
彼女がいなければ、数日で回復することは到底叶わなかっただろう。
だが、今度はエリズが病に倒れ、目の前で苦しんでいる。
リズミアは何もできない自分が情けなくて仕方なかった。
エリズがなぜ倒れたのかすら分からない。ただ、彼女が痛みに蝕まれている姿を見守るしかできない。
焦燥感が胸の中で渦を巻き、自分の無力さを呪いたい衝動に駆られる。
だが、それをエリズに見せれば、彼女を余計に悲しませるだけだ。
リズミアは椅子を引き寄せ、ベッドの横に座り込むと項垂れた。
もしエリズを救える方法があるのなら、自分が実験台にでもなろうと思った。
この世界で、彼女を心から信頼し、頼ることができる存在はエリズしかいないのだから。
「もう昼になるな、リズミア。汝、先に食事を済ませてこい。吾は食事を必要とせぬ。ここでエリズを見守っておく。」
「エリズがこんな状態じゃ……食べられるわけない。」
「ならば、エリズの世話は汝に任せる。吾は少し確認したいことがある。夕方には戻る。」
エルフは穏やかに微笑むと、壁際の帽子を手に取り、部屋を後にした。
「エリズ……信じていいのかな?あの人たち、本当にエリズを救えるの……?」
リズミアは小さく呟いた。
陽の光が彼女の顔を包むが、温もりは感じられない。
不安が彼女の体を蝕み、底なしの泥沼へと引きずり込む。
元気なエリズが浮かべる、あの優しい笑顔を思い出せば思い出すほど、涙が止まらなかった。




