迷える少女⑥
本能的にただ前へと這い進む。その先には、血に染められた夕陽が広がっている。
「う…あ…う…あ…」
唇が無意味に開いたり閉じたりする。
喉から伝わる激痛が思考を阻む。
意識が操作していなくても、身体は誰かに助けを求めようとしているのだ。
——助けてくれ。
だが、誰が聞いてくれるというのか?
その言葉が頭に浮かんだだけで、この行動の意味を自問自答することになる。
背後に続く、血にまみれた道。
そこは屍が転がる墓場のようだ。
喉を裂かれ、心臓を貫かれた者たち——
彼らは皆、一撃で命を絶たれた。
私のように苦しむ間もなく。
目の前の小道はまるで地獄への道だ。
血に染まった石畳は、まだ鮮やかな赤を保っており、夕陽の光がかすかに映り込んでいる。
私が今いる場所もまた、地獄の門のようだ。
追っ手に切断された右腕は遠く後方に落ちていて、取り戻すことは不可能だ。
骨まで届いた深い傷を負った大腿部は既に感覚がなく、引きずるのもひどく煩わしい。
だが、こんな惨状を誰にも見られていないことが唯一の救いかもしれない。
今、私はまるで虫のように地面を這い進む。
だが、どこへ向かうのかさえ分からない。
追っ手をすべて倒したものの、私自身も重傷で死にかけている。
なんて哀れだ。
今のアンリリズの姿は、さぞ怪物のように見えるだろう。
——裏切り者にふさわしい末路だ。
暗殺組織を裏切った者が、こうなるのは当然だったのだ。
逃げると決めたあの日に、覚悟しておくべきだったのに。
全身には無数の刃の傷痕が刻まれ、衣服は破れ、血は嫌がるように傷口から溢れ出す。
髪も乱れ、短剣で無造作に切られた跡が残っている。
ただひたすら手で土をかき、遅々とした速度で前へと這い進む。
何度も何度も。
土をかき分け、何度も何度も。
自分の体をほんのわずか前へと押し進める。
それでも、地平線に広がる黄昏の夕陽はまだ遠い。
失血による力の喪失が繰り返し身体を支配しようとするが、そのたびに小さくとも強い生存本能が押し返す。
ただ、もうあの暗闇には戻りたくない。
あの人生とは呼べない闇から抜け出そうとするのは、単なるわがままだったのかもしれない。
血の匂いを忘れ、冷え切った心が再び人間の感情を感じ取ることができたらいいのに。
だが、この血に染まった手は、命を奪い去った亡霊たちを引き寄せている。
涙と血が混ざり合い、もう自分が泣いているのかすら分からない。
声が出せない。
未来が見えない。
黒と白の境界線ははっきりしているのに、なぜその境界から逃れようとするのか?
もしかしたら、暗い部屋で見た一筋の陽光が、私の心を惑わせたのだろうか?
あの眩しいほどの少女の夢が、「幸福を追い求めろ」と囁いている。
暗殺者の身分を捨て、幸せを見つける。
その瞬間、私は自分を疑い、過去のすべてを否定しようとした。
それでも……なぜ……
まだ死にたくない。
——助けてくれ。
痛みに耐えきれない身体が、声を絞り出そうとする。
地獄から這い上がる亡霊たちを振り払いたい。
——まだ死にたくない。
もう少しだけ、夢に近づきたい。
たとえ一瞬でも、この奇跡を掴みたい。
そのために、数え切れないほどの命を奪ったとしても。
だけど、この身勝手な願いに、女神は答えてくれるだろうか?
「こっちへ来い。」
目の前に、細長い影が現れた。耳に届くのは、寂寞に満ちた冷たい声。
血に霞む視界の中、彼はしゃがみ込み、私がかき進めていた右手をそっと握った。
失血により冷え切った身体が、彼の手のぬくもりを感じる。わずかに温かい手だった。
「もう一人では進みたくない……僕の傍に来てくれないか?」
「う……うあ……あ……」
残された力を振り絞り、もう一度、前へと進む。未来を掴み取るように。
幸福すぎて、痛みに耐えられないほどだ。
どうして彼がこの場所に現れたのか、私には分からない。
彼がなぜ私の前に来たのか、深く考える気にもなれなかった。
ただ、その手を離したくなかった。希望が逃げてしまうのが怖かった。
それでも……
彼は私の願いを拒まず、むしろ死にかけた私を抱きしめ、冷たい胸に私を押し当てた。
その嗚咽は、まるで女神さえも感動させるような響きだった。
「僕のそばにいろ……もう君を苦しませはしない。」
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