無名者の葬儀 ①
深夜の帝都――ビナール街道にて。
行き交う人影はまばらで、街路に灯る魔導灯だけがまだ光を放っていた。
街中の家々の明かりはほとんど消え、月明かりが朦朧としたこの夜に、静寂が一層その存在感を際立たせる。
そして、街灯の光の下、遠くにいる少女の影は幾重にも引き伸ばされ、彼女のゆっくりとした足取りに合わせて震えていた。
彼女はふと顔を上げ、はっきりとは見えない星空を見つめ、ぼそりと呟いた。
「彼もそろそろ戻ってくるはず……まずは休める場所を探さなきゃ。」
誰にも気づかれぬよう、被っていたフードをさらに深く引き下げ、歩調をわずかに早める。
ガンッ。
「歩くときはもっと気をつけろよ?」
突然、ぶつかった衝撃に驚き、顔を上げた少女の前に、粗暴そうな大男が立ちはだかっていた。
こんな深夜に、なぜこんな凶悪そうな奴が道にいるのか、誰も知らなかった。
彼は逞しい筋肉を誇示しながら、威圧感をもって、目の前の自分の倍は小さい少女に迫る。
「衛兵に捕まりたくなけりゃ、身包み全部置いていくんだな。」
少女は何も言わなかった。
先ほどまで歩いていたとき、進む道に彼の気配はまったく感じなかったのだから。
つまり……
「わざわざ喧嘩を売りに来たってわけ?」
「俺に、ビナール守備隊の隊長に、そんな口を利く奴は初めてだな。矯正所にぶち込んで、少しばかりしつけ直してやらなきゃ、他人を尊重するってことを覚えられねぇんじゃねぇか?」
ビナール守備隊の隊長――『ミック』と呼ばれる男は、軽蔑の眼差しで自分よりも二つの頭分ほど小さい少女を見下していた。
だが、奇妙なことに、目の前の少女はこれまでの者たちのように怯えて金を差し出すことはなかった。
むしろ、真っ黒なフードの下から漂う不快な敵意が、ミックを不安にさせる。
少女はわずかに顔を上げ、ミックの体格を一瞥すると、まるで彼を嘲笑うかのように言った。
「こんな所じゃ、無頼漢でも守備隊長になれるんだな?」
「な……なんだと?どこの馬の骨かもわからん奴が、俺にそんな口をきくとはな!」
怒りで顔を真っ赤にしたミックは、さらに一歩前へ進み出し、圧倒的な威圧感で目の前の小柄な少女を睨みつける。
「まずはてめぇにお仕置きしてやってから、矯正所に連れ込んで徹底的に調べてやる!お前みたいな奴はエルからのスパイに決まってる!」
次の瞬間、彼は無造作に少女のフードを引き剥がした。
その瞬間、彼は目の前の少女の姿に衝撃を受け、硬直した。
「私は、どの国のスパイでもない……それに、あなたたちのいざこざには興味がないわ。」
水色の長髪が四方に美しく輝き、彼女の黒と白の異なる色をした瞳に、一瞬だけ凄まじい殺意が宿った。
それを目にしたミックは、恐怖を覚えた。
だが、彼をより恐れさせたのは、少女の顔の半分を覆う黒い呪文だった。
その呪文は、まるで彼女の顔に刻み込まれたかのように、正確に整った溝が皮膚に深く彫り込まれていた。
まるで特定の刃物で切り取ったかのように、その呪文は彼女の顔に平らに刻まれていた。
呪文はまるで魔力を帯びたかのように、ミックの視線を捉え、離さなかった。
彼はその黒い呪文の中に、血と魔力の混じり合う流れを見たような気がした。
恐怖は頭の先から全身へと広がり、彼の身体は痙攣を始めた。
完璧な美貌を持つ少女、その半身は忌まわしい呪文で覆われていた。
「ゴミを処理するだけなら……感情が動かされることもないだろう。」
少女はただ、長衣の中から手を差し出し、指を少し動かしただけで、ミックの体の周りに一つの旋風が発生した。
「な、なんだこれは!」
何が起きたのか理解する間もなく、ミックの護腕とすね当ては、まるで紙のように切り裂かれていった。
旋風の勢いはますます増し、ミックは身動きが取れなくなった。
少しでも動けば、その風刃が彼の身体にさらに多くの傷を刻むだろう。
数秒の間に、彼はまるで虫けらのように地面に倒れ込んだ。
少女が見下ろすその視線に、ミックは氷の底に落ちたような寒気を感じた。
「……助けてくれ。もう二度とやらない!」
さっきまでの威勢が完全に失われ、ミックは少女に哀願して旋風を解いてもらおうとした。
「なら、私の前に現れるべきじゃなかったわね。じゃあね。」
少女は感情のこもらぬ声でそう呟くと、フードを再び深くかぶり、振り返ることなくその場を去った。
彼女がミックのそばを通り過ぎた瞬間、旋風の勢いは一気に高まり、ミックは瞬く間に無数の肉片へと引き裂かれ、同時に黒い炎が残った遺体を灰へと変えた。
すべてが何事もなかったかのように、ただ激しい旋風が静かな街道を吹き抜けた。
街灯の魔力が旋風にかき乱され、明滅を繰り返す。
やがてすべてが元通りになる頃には、少女の姿はすでにその街道から消え去っていた。




