エカリス巫女団 ⑧
エナを背負って予定していた車両に着くと、オースはエナを丁寧に長いソファに寄り掛からせた。
そして彼自身は、テーブルを挟んで反対側のソファに腰を下ろした。
二人はまるで車内で休む恋人のように見えた。
「アンダル公爵と彼の奥様も、アンメンへ観光に来た時、こんな景色を見ていたのだろうか……」
何気なく、彼の視線は窓の外へと流れていった。
ゆっくりと発進する列車の進行に合わせて、魔力流に乗って漂うヌノンの花びらは加速し、まるで彼の視界から一刻も早く去ろうとしているかのように後ろへ飛んでいく。
車輪が「ガタンゴトン」と鉄道の上を転がる音は、彼の揺れる思考と同じリズムを刻んでいた。
そして、彼の不安定な心を静めてくれたのは、来た時とほとんど変わらない窓の外の景色だった。
柔らかな陽光に包まれた草原、そしてのんびりと横切っていく鹿の群れ。
最大の違いは、白いヌノンの花びらが青空に浮かぶ白い雲と交じり合っていることだろう。
花びらの光は、温かい陽光に比べると、その輝きを失ってしまっている。
夜の美しさを誇るヌノンの花は、昼間ではその輝きを放つことができないのだ。
エナが心に秘めたその愛情は、まるで夜のヌノンの花海のように輝かしかった。
だが、昼しか見えない自分には、彼女を夜へと連れて行く権利がもうなかった。
だが、安達ル公爵は、エナの母親にその夜へと行く機会を与えていたのだ。
だが、エナの視点から見る限り、彼らの結婚は決して幸福なものとは言えなかったのかもしれない。
アンダル公爵は長年外に出ていることが多く、エナが生まれてから、彼女の母親は一度も病床から降りることはできなかった。
エナの美しい思い出を支えているのは、彼女がほんの少し語った「千羽鶴」の伝説だけだった。
それは彼女が「カース遊園地」で昏倒していたときに、うわ言で口にしたことだった。
その後、オースもこの伝説の意味を調べたことがあったが、それは単なる、願いに関するシンプルで純粋な伝説に過ぎなかった。
エナへの理解は、それ以上深まることはなかった。
「もしこの伝説とエナの関係をもっと知ることができたら……エナが私にどれほど執着していたか、理解できただろうか……」
コンコン。
ドアが礼儀正しくノックされた。
「どうぞ。」
入ってきたのはリンだった。
彼女は魔導石で温めたお茶を運んできて、オースとエナの前に置いた。
だが、エナの茶を置くとき、彼女は何かを思い出したのか、呆然とエナの遺体を見つめた。
「リンさん、エナについて一つお伺いしてもいいですか?」
「……どうぞ。できる限りお答えします。」
「『千羽鶴』の話を聞いたことがありますか?」
「……」
リンの体がビクッと震え、口を堅く結んだまま、しばらく沈黙していた。
彼女が最も親しい主人を失ったという事実に、まだ気持ちの整理がついていないのだろう――
しかし次の瞬間、彼女は何かしらの決心を固めたようだった。
「その伝説の『結果』を、私はずっとエナ様の代わりに保管していました。」
彼女はもう一度、エナの普通の人とは異なる血色の良い顔を見て、涙を堪えた。
「彼女はこの結果を、あらかじめ私に預けていました。彼女が口に出せなかったこと、そしてあの一羽目の千羽鶴も……」
彼女の手は、腰にある袋に向かった。
「ここにあります。ただ、彼女の想いをオース様に託しても良いのか……私はまだ迷っています。」
リンの不安は、オースに自責の念を抱かせるには十分だった。
だが、「一羽目の千羽鶴」の偶然を思い出し、彼女の想いを知る最後の機会を得たような気がした。
しかし、リンが袋から取り出したものを机に置いたとき、彼は困惑した。
「……一羽目の千羽鶴が、どうして二羽もあるんだ?」
オースの目の前に現れたのは、形がまったく異なる二羽の千羽鶴だった。
一つはとても粗雑な折り方で、まるで初心者の作品のようだった。
もう一つは非常に精巧で美しく折られており、熟練者の手によるものだと分かった。
「オース様、ご覧の通り……エナ様の言っていた『一羽目の千羽鶴』は、二羽あるのです。」
リンは一度言葉を止め、また話し始めた。
「オース様にとって、どちらが『一羽目』としてふさわしいのでしょうか?」
「私は……」
それは二択の問題ではなかった。
オースは、この二羽の折り鶴を見た瞬間に、そのことに気付いていた。
だが、その意味を完全には読み取れず、目の前の二羽を凝視していた。
どの角度から見ても、これらはただの未完成と完成の違いでしかない。
「一羽目の千羽鶴」の伝説に従えば、彼は当然、完璧な結末を望んでいたはずだ……。
「分からないよ。この二羽とも、エナが手で折ったなら、『一羽目』という言葉に意味はない。」
そもそも「一羽目」とは、伝説の条件を満たすためのものに過ぎない。
だが、結果として――エナは伝説を完成させたのに、彼女が望んだ幸せを手にすることはできなかった。
だが、病に苦しんでいた彼女にとっては、その夢に向かって一歩一歩進んでいく中で、この執念が彼女にどれほど強い生きる意志を与えたのか、オースには分からない。
だからこそ、彼女がやってきたことを否定することはできないし、彼女の想いを否定することもできなかった。
それが、今、死んだエナに対して彼ができる最低限の敬意だった。
「ありがとうございます、オース様……私は、てっきりあなたがどちらかを選ぶと思っていました。」
オースの予想に反して、リンは不満を表すことはなかった。
涙を浮かべながらも、彼女は解放されたかのように固く張っていた顔を緩めた。
それは、オースが初めて見たリンの無防備な泣き顔だった。
親友を失った悲しみと、すべてを理解しながらも何もできなかった無力感。
今、彼女はエナの従者としてではなく、エナの友人として、オースにその本当の姿を見せていた。
「エナ様は、この二羽の千羽鶴だけを折ったわけではありません……」
リンは、粗雑に折られた千羽鶴をそっと拾い上げた。
「これが、彼女の最初の『百羽目の千羽鶴』です。」
続けて、精巧に折られたもう一羽の千羽鶴を手に取った。
「この本当の『百羽目の千羽鶴』までには、数えきれないほどの日々がありました。」
リンの声にはかすかな嗚咽が混じっていたが、その語りは驚くほど静かで、かえってオースの心に深い衝撃を与えた。
この二羽の千羽鶴の変化には、エナが抱いた強い希望の日々が詰まっていたのだ。
彼女は夢を抱きながら、何度も何度も千羽鶴を折り続けた。
折り方が拙いものから、やがて熟練した技へと変わっていった。
彼女の想いがその中に込められていた。
「エナがどれだけの努力を重ねて願いを叶えようとしたのか、僕には想像もつかない。僕……僕は彼女の愛にふさわしくないと感じている、リン。」
「私は嬉しいです、オース様……エナ様の努力を、あなたが見てくださったこと。エナ様もきっと喜ばれることでしょう。」
リンの顔にはまだ涙が浮かんでいたが、その表情には深い悲しみと共に、安堵の笑みが浮かんでいた。
「最初は、彼女が人を選び間違えたのではないかと思っていました……でも、オース様、あなたはその期待に応えてくださいました。」
リンは腰のポーチから、精巧な刺繍が施された小さな布袋を取り出し、二羽の千羽鶴を丁寧にたたんでその中に収めた。
「エナ様の願いが、女神の加護となって、オース様に降り注ぎますように。」
「……」
オースが言葉を返す間もなく、リンは急いでトレイを片付けて部屋を出て行った。
彼が何も言えずにいたその瞬間、彼女はもういなくなっていた。まるで、まだ消えない悲しみを抑える場所を探しているかのように、彼女は急いで去っていった。
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