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純白幻想物語 吸血鬼の記憶の旅  作者: 水橋キレシ
第1章 呪われた国
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迷える少女③

 火が再び勢いを増すのを確認してから、彼女は立ち上がり、エプロンで手を拭きながら、悠然とした表情の老人に視線を向けた。


「おじいちゃん、今日の夕食は何が食べたいですか?」


「この前持ち帰った魚がまだ残っているはずだ。それを氷晶室から取り出してスープにしよう。あの子もそろそろ目を覚ますだろうから、温かいスープで体を温めた方がいい。」


 ベファレスという名の老人は、再びベッドで横たわるリズミアに目を向けたが、特に心配そうな様子はなく、揺り椅子をゆっくりと止め、暖炉のそばに置かれた杖を手に取り、少しぐらつきながら立ち上がった。

 エリズは小さなスツールに戻り、薪を足した時に滲んだ汗を手の甲で拭い、再び洗濯を始めた。


「朝、シル夫人に新鮮な野菜を町から持って来てもらうよう頼んだ。この時間ならもうすぐ届くだろう。」


「……最近、フェンリル山脈で生き残る旅行者がますます少なくなってきましたね。おじいちゃん、あの連中がまた食料を探しに出てきたんでしょうか?」


「おそらくそうだろう。フェンリル山脈で倒れるなんて、冗談じゃ済まないよ。」


 ベファレスは深い溜息をついた。


 そしてしばらくの間、ベッドの上のリズミアを見つめ、目に憂いを浮かべた。


「彼女は運が良かった。私が雪原を巡回している時に、あそこで見つけたんだ。今の私の体では、もう以前のように動けない。これからも多くの旅行者があの山脈で迷い、命を落とすかと思うと……」


 彼は突然黙り込み、喉を押さえられたように声を失った。


 その様子を見ていたエリズも、何も言えなくなった――今のベファレスを慰める言葉が見つからなかったのだ。


 エリズの家はフェンリル山脈のすぐ近くにあり、まるで関所のように山脈への入り口を見守っている。


 その付近には強力な氷魔力の気流が頻繁に渦巻いており、十分な魔力を持たない者が長時間その場に留まると、魔力の乱れによって体が変異してしまう可能性がある。


 そのため、彼女の家の近くにあった村も、やむを得ずさらに遠くに移され、村人たちは旅行者に山脈に入る前に十分な準備をするよう警告している。


 だが、それでも山脈で旅行者が行方不明になる悲劇は防げない。


 フェンリル山脈はグランド帝国内で最大の山脈で、ほぼ帝国の中心に位置しているため、エリズの家の近く以外にも多くの道があり、他の場所に行った旅行者をベファレスが知ることは難しい。


 ましてや彼らが遭難した際に救助に駆けつけることはさらに困難だ。


 そのため、雪原でどれだけ多くの人を助けても、見つけられずに命を落とす人々がいることを考えると、重い無力感に襲われ、心が空っぽになってしまう。


 さらに、彼の体は日に日に弱っていき、「約束の日」の到来も迫っていることを思うと、その心の重みが増していくばかりだった。


 ベファレスは、彼の沈黙に戸惑っているエリズを見て、過去に何度も雪原で凍死した旅行者の遺体を運び、彼女と一緒に裏山の墓地に埋めた時の、彼女が涙をこらえながら見せた悲痛な表情を思い出していた。


 動物を殺すことさえ嫌がる心優しい彼女が、幾度も死と向き合わなければならなかった。


 彼女にこんな辛い思いを何度もさせてしまったことを、ベファレスは数えきれないほど感じていた。


 彼はただ、この無償の善意が彼らを苦しめるだけで、決して幸福をもたらさないことを知っていた。


「大丈夫です、おじいちゃん……私たちはできる限りのことをしました。女神も私たちを許してくださるでしょう。」


「エリズ……すまない。」


 気がつけば、心の声が口をついて出ていた。


 その言葉にエリズは驚き、悲しそうに目を伏せ、唇をきつく結んだまま黙り込んでいた。


 彼女の目には涙がにじみ、暖炉の火に照らされて微かに輝いていた。


 しばらくして、彼女はようやく柔らかな笑顔を浮かべ、軽く首を振った。


「結局のところ、私たちの力の及ばないことも多いですからね、おじいちゃん。」


「そうだな。」


 ベファレスは淡々と答えたが、その表情には複雑な感情が滲んでいた。


「さあ、おじいちゃん。シル夫人をあまり待たせないでくださいね。」


「じゃあ、ちょっと外に出てくるよ。彼女が目を覚ましたら、無理にベッドを降りないよう伝えてくれ。まだ足が治るまで二、三日かかるからな。」


「分かっていますよ。」


 エリズは笑顔で手を振り、ベファレスに出かけるよう促した。


 ベファレスはそれ以上言葉を続けることなく、戸口にかけられていた熊の毛皮の厚手のコートを手に取り、杖をついて小屋を出て行った。


 小屋の中は再び静かになり、彼女は洗濯桶にある薄青い衣類に目を落とす。


 ふと、彼女の頭に過去の記憶がよぎった。


 この服は、この大陸に知られている縫製技術では絶対に作れないものだ。


 全体を見れば、巫女服に似た上着は袖口が一般的なものよりも広く、スカートも少し短めだ。


 白いハイソックスの裾にはサテンリボンが一周している。


 衣服とウエストを締める細い帯は、イルール大陸でも滅多に見られない、透き通るような淡い青色で染められていた。


 彼女の指先が湿ったスカートの表面を滑り、その滑らかな感触が内心に言いようのない衝動を呼び起こしていく。


 先ほど、昏睡していた少女から着替えさせた時には、ただの普通の巫女服だと思っていた。


 しかし、今こうして触れてみると、この独特な感触が、どこか記憶の奥深くに存在しているような気がしてならない。


 その記憶との絶妙な融合感と曖昧さが、彼女を困惑させていたのだ。


 あの記憶の中でも、目の前のスカートの生地と似た感触の衣服が存在していたような気がする。


 しかし、それはただの感覚に過ぎず、この細やかで軽やかな質感が、彼女の記憶の断片のどれとも結びついていない。


 ただ、過去の現実の記憶から外れて漂っているようで、時折、まるで根拠のない幻覚を持っているかのように感じさせられる。


【エリス、君は彼女が気になるみたいだね。】


「そう?それはきっと気のせいよ。」


 彼女は苦笑しながら、再びスカートを洗い始め、心の中の「声」にそう答えた。


 本当にそうなのだろうか?


 彼女はこの疑問を長い間自分に問いかけてきた。


 あまりにも長い時間が経ったせいで、この疑問の馬鹿馬鹿しさを自然と受け入れてしまったほどだ。


 しかし、無意識のうちに顔を横に向け、昏睡している少女の顔を目の端で捉えると、彼女は思わず見惚れてしまった。


 夕暮れの光が昏睡中の少女の顔を優しく包み込み、地獄から奇跡的に生還した幸運者に対する慰めを捧げているようだった。


 だが、エリスはただ感じていた。


 十数年間続いていた平穏な生活が、彼女の登場によってわずかに揺らぎ始めていることを——


 まるで、静かな湖面に小石を投げ込んだかのように。


【大事なおはなし!】



本作品を読み進めていく上で気に入ってくれたら、



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この2つを行ってくれると、作品の大きな力になります!



初めての小説創作なんですけど、何卒よろしくお願いいたします!



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