エナの愛 16
【大事なおはなし!】
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初めての小説創作なんですけど、何卒よろしくお願いいたします!
夜晚の礼堂内は、誰一人いない。
外の森で、かすかに聞こえる蝉や虫の鳴き声が、静寂を際立たせていた。
私は一人で礼堂の長椅子に座り、空虚な心で水晶の棺を見つめていた。
何か言いたいことがあるはずなのに、喉が詰まったようで、声を発することすらできなかった。
全てはあまりにも突然だった。一瞬で全てが変わってしまったかのように。
昨日、母が亡くなった。
外から聞こえてきた慌ただしい足音で目を覚まし、部屋を出ると、メイドたちが慌てて駆け回っていた。
彼らの顔に浮かぶ隠し切れない悲しみが、何も知らない私の胸に鋭く刺さる。
私はただの直感で彼らの後を追った。
そして、母の部屋の半開きの扉の前に立つと、心の底から湧き上がる恐怖が私を泥沼に引き込んだ。
母は未完成の千羽鶴を手にしていた。それは九十八羽目だった。
母は深い眠りに落ちていた。メイドたちがいくら彼女を揺さぶっても、彼女はもう目を覚ますことはなかった。
私は近づいて眠る母を見た。
彼女の顔には苦痛の色はなく、まるで素晴らしい夢を見ているかのように、優しく、穏やかに微笑んでいた。
メイドたちは、なぜか私に道を譲り、母にさらに近づけるようにしてくれた。
だが、私は心の底で、彼らが私を止めてくれることを願っていた。
私はさらに一歩近づき、いつものように母のベッドのそばに身を寄せ、冷たい頬を軽く叩いた。
「お母様、そろそろ起きて、一緒に遊びましょうよ」
私に返ってきたのは、母の長いあくびでもなく、背後で抑えられたすすり泣きの音だけだった。
メイド長は頭が近づき、しゃがんで私に言った。
彼女の声は詰まっていた。
「お嬢様……どうかあまり悲しまないでください。奥様は夢の中でお亡くなりになられました。苦しむことなく、安らかに逝かれました」
「ということは……お母様はもう、二度と目を覚まさないの?」
まだ信じられない表情を浮かべながらも、忠実なメイド長は静かに頷いた。
その瞬間、心の中で雷鳴が響いた。
私は貴族の子女として育ち、「失う」という感覚をこれまで知らなかった。
たとえ何かを失ったとしても、それは不思議とすぐに戻ってきた。
今まで、私の持つものは決して私から離れることはなかった。
だが、今私が握っているこの冷たい手だけが、容赦なくその寒さを伝えてくる。
今回失ったものは、もう二度と戻ってこないのだ。
その時から、葬儀が終わるまで、私は母のベッドのそばに座り続け、不可能な奇跡をただ待っていた。
もしかすると、母が寝言を呟いて目を覚ますかもしれない。
彼女は笑いながら私の頭を撫で、今日は少し寝坊してしまったと言うだろう。
きっと私を慰めてくれる。母は決して私を悲しませようとはしなかったから……。
母が亡くなった次の日の夜、父がようやく私の前に現れたとき、抑えられない怒りが胸の内に燃え上がった。
父はいつも母をどれだけ愛しているかと言っていたのに、最期の瞬間にさえ立ち会うことができなかった。
「エナ……お母様はただ病気のせいで、少し長い眠りについているだけだ。心配するな、父さんにはまだ方法が……」
「嘘つき。」
心の奥底から浮かび上がった言葉が、反射的に口を突いて出ていた。
部屋の中は、しばらく静寂に包まれた。
父は私のそばに立ち、長い間、眠っている母を見つめていた。
その瞳の奥で何かが壊れたようだった。
それは私が初めて見た、どんな時も強くあろうとする父の涙だった。
彼は言葉を詰まらせるかのように唇を噛み締め、全身が震えていた。
父も、悲しいと感じるのだ。
彼にはもっと多くの時間があったはずだ。
母と過ごす時間がたくさんあったのに、この瞬間に初めて泣くなんて……。
「お母様は、ずっとあなたに会いたがっていたのに、あなたは一体どこにいたの……。父さん、仕事がそんなに大事なの?」
「ごめん……エナ、全て父が悪い。父さんは、母さんを裏切ってしまった……」
私は彼の言葉を無視し、無言で部屋を出た。
その後すぐ、母は棺に納められ、葬儀が行われた。
父と関わりのある貴族たちが弔問に訪れ、彼女の死が父にどれほどの悲しみをもたらしたかを語っていた。
彼らは私の頭を撫でながら、私にも悲しまないようにと言った。
彼らの目には、母の死を悼む気持ちなど一切なかった。
私はその中に座っているだけで、礼堂全体がまるで燃え盛る地獄のように感じた。
やがて弔問の人たちが去り、礼堂に私と母だけが残ると、ようやくその炎が消え去り、冷たさが肌を通じて体中に広がっていった。
これから私は、もう二度と喜びを感じることができるのだろうか?
私は自分に問いかけたが、答えを知るのが怖かった。
月明かりが天窓から差し込み、水晶の棺に斜めに注いでいた。
それは、母が女神の世界へと向かうための階段なのだろうか?
もしそうなら、母はきっと私の考えを認めてくれるだろう。
彼女なら、きっとそうしてくれるに違いない。




