エナの愛 ⑧
「……いきなりジェットコースターに乗るのは、ちょっとまずいんじゃないか……」
目の前にそびえる魔導ジェットコースターに、オースは内心で少し怯えていた。
戦場で血みどろの光景を見ても冷静でいられる彼だが、このジェットコースターだけは別だった。
軌道はまるで空を飛ぶ蛇のように、雲の中へと螺旋状に消えていく。
その高さはカス遊園地の建物をはるかに超えており、巨大な敷地内に広がる他の遊具を巻き込んでいる。
遠くにはメリーゴーランドが見え、その横には音を遮る管で覆われた一部のレールが走っていた。
今まさに垂直に急降下したジェットコースターは、短い水平レールを走り、その後また悪夢のような高さへとゆっくり登っていく。
レールを通過する一瞬の間に乗客たちは絶叫し、その後ぐったりとしていた。
その光景を見ただけで、オースの恐怖心は一層強まった。
オースは、普段は恐れを知らぬ男だが、今回ばかりは無意識に後ずさりしようとした。
しかし、エナが彼の腕をしっかりと掴んでいた。
「オースさん、まさか怖いんですか?」
エナの無邪気な質問に、オースは少し困惑した。怯えた気持ちを抑え、強がって答えた。
「そんなわけないよ、エナさん。私は数々の戦闘を経験した将軍だ。このような遊具ごときで怖がるわけがない。」
「それならよかった〜!まずはこれに乗りたいな!オースさん、いい?」
エナの期待に満ちた瞳がオースを見つめ、断る余地はなかった。
恐怖が心を突き動かすが、彼はまるで鎖で縛られているかのように、その場から逃げ出せなかった。
「……わ、わかった。」
オースは青ざめた顔でうなずき、仕方なくエナと一緒にジェットコースターの入口でチケットを出した。
心の中で、自分が正気を保ったまま戻って来れることを祈っていた。
「お二人様、チケットを確認させていただきます。」
検札係が丁寧な口調でチケットを受け取り、エナがオースの腕に寄り添っている様子を見て、少し微笑んだ。
チケットを確認した後、彼は不透明な茶色のガラス瓶から粉を取り出し、それをチケットに振りかけた。
チケットが光り出すと、検札係はそれを丁寧に二人に返した。
「どうぞ、カス遊園地で素敵な思い出をお作りください!愛の結晶を結んでくださいね!」
検札係の祝福を聞き、エナは恥ずかしそうに顔を赤らめながら、オースの反応をちらっと見た。
オースはその言葉に少し驚いたようで、どう反応すべきか迷っていた様子だった。
【オースさん、ちょっと困ってるみたいで可愛いな。】
エナは微笑みを浮かべ、控えめに口元を押さえて笑った。そして、オースの背中を軽く押して促した。
「オースさん、気にしなくていいんですよ。」
「すみません……まさかそんな風に思われるなんて……」
オースはぎこちなく笑ったが、その言葉にエナは少し不満を感じた。
しばらく考え込んだ後、エナは微笑みながら言った。
「感情は一朝一夕で育つものではありませんよ。まだデートは始まったばかりです。オースさん、今日は一日中一緒に楽しみましょうね。」
「君の期待に応えられるといいのだが……」
「オースさん、そういう言い方はやめてください!」
オースは驚いてエナを見た。彼女は少し怒ったように頬を膨らませていた。
「私は、対等な立場でデートしたいんです。無理に私に合わせるような態度は嫌です。そんなの、私の知っているオースさんじゃない……」
「エナさん……」
「ほら、またそれですよ。」
エナは笑いながらオースの頬をつまみ、無理やり笑顔を作らせた。
「こうやって笑っていた方が、オースさんはずっと素敵ですよ。」
それでもオースは何かがおかしいと感じていた。目の前の少女は、安達公爵が言っていたような病弱な娘とは思えないほど活発で、むしろ過剰なエネルギーに満ちていた。
さらに彼女がオースに触れた瞬間、彼は彼女の体内に驚くほど強大な魔力が流れているのを感じた。その手は冷たかったが、その魔力の流れを考えると、体温との違和感が際立っていた。
「オースさん?」
エナに軽く頬を叩かれ、オースは我に返った。エナは少し首をかしげ、彼を見つめていた。
「もしかして、今日の私の服装が気に入ったんですか?」
「……ああ、つい見惚れてしまった。」
オースはなんとか会話を続けようと答えたが、エナはその言葉を聞いて一瞬驚き、そして頬を真っ赤に染めた。
「オースさん……今の言葉、デートらしい一言ですね。」
「え?エナさん、そんなつもりじゃ……」
焦ったオースは説明しようとしたが、彼女の幸福そうな笑顔を見て、言葉が出なくなった。
「さあ、行きましょう!次のジェットコースターの時間が来ましたよ!」
オースはエナに手を引かれてジェットコースターの入口に向かいながら、心の中で少し軽くなったように感じた。
今は、エナの笑顔を守ることだけを考えようと思った。
【大事なおはなし!】
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