迷える少女 13
「……ねえ、エリズ、もう結構長い時間、森の中を歩いているよね……お腹空いたよ……」
リズミアがぼやく声に合わせて、彼女のお腹も「ぐーぐー」と音を立てた。
そんな彼女のやる気のない姿に、エリズは仕方なく長く息を吐いた。
「さっきご飯を食べたばかりなのに、もう食べたいの? まあ、用事が終わったらすぐに帰ろうよ。おじいちゃん、もう夕飯を作って待っているだろうし。」
エリズは振り返りながら、リズミアの柔らかい頬を軽くつまんだ。
その微笑の中には、ほんのわずかな寂しさが垣間見えた。
再び歩き出してしばらく経った頃、リズミアとエリズが足を止めたのは、ちょうど夕暮れ時だった。
地平線に沈みかけた夕日が、半分だけ空を照らし、残された陽光が黄昏と夜の境界を曖昧にしていた。
星が点々と瞬く空は、まるで天の川のように広がっていた。
道の先に光が見え、その先には崖の端にポツンと立つ墓石があった。
「お母さん、オリサが来たよ。」
エリズは呟き、墓石へと足を向けた。
「エリズ……ここに眠っているのが、あなたの会いに来た人なの?」
エリズの心情を感じ取ったリズミアは、追いかけることをためらい、ただエリズの背中を見つめた。
今のエリズは、さっきとはどこか違うように感じた。
今は、彼女に近づいてはいけない。
そう感じた。エリズが、誰にも邪魔されたくないと。
「エリズは……本当に……長い間、お母さんに会いに来られなかったから、きっと……寂しかったよね。」
エリズは道端で摘んだ花を墓前に置き、涙で滲んだ目で墓石を見つめた。
その口調には、いつの間にか悲しみが混じり始めていた。
「次に会いに来る時には、強い子になってるって……約束したのに……でも、やっぱり耐えられなかった……ごめんなさい……」
彼女は、誰にも泣いている姿を見られたくないかのように、両手で顔を覆った。
「一度だけでいい……会いたいよ……お母さん……」
彼女は墓前で膝をつき、まるで自分を責めるように、すすり泣きながら呟いた。
リズミアは静かに、涙を流すエリズを見つめ、その悲しみがまるで海嘯のように押し寄せてくるのを感じた。
ただ、そこでエリズの泣く姿を見ることしかできない自分が、卑怯に思えた。
何かしなきゃ。エリズのために。
何としてでも、エリズを助けなければ。
しかし、その思いとは裏腹に、無力感がリズミアを締め付け、体を動かすことができなかった。
そうして、どれだけの時間が経ったのか分からないまま、リズミアはただ、エリズの背中を見つめていた。
時間の流れが無限に長く感じられ、粘りつくような絶望感に包まれた。
「……さあ、リズミア、帰ろう。」
「エリズ……」
リズミアは、立ち上がったエリズを見つめ、その悲しみが胸に重くのしかかる。
しかし、エリズが振り返ったその瞬間、リズミアの涙腺は自分でも気づかないうちに崩壊した。
背後の夕日が照らすエリズの顔には、涙痕がくっきりと残っていた。
それでも、彼女はまるで悲しみを隠すように、微笑んでいた。
その笑顔は優しく、強く見えたが、死にかけるほどの苦しさと同じくらいの絶望を感じさせた。
まるで輝きを失った星のように、儚く淡い金色の光を放っていた。
——エリズのお母さん、もう亡くなっているの?
——じゃあ、エリズとベファレスおじいちゃんは、二人で支え合って生きているの?
無数の疑問がリズミアの心に浮かんだが、彼女はそれをエリスに聞く勇気がなかった。
胸の痛みを抱えながら、次の言葉を待つしかなかった。
どれほどの時間が過ぎたのか分からない。
ようやくエリズの唇が微かに動き、ぼそっと呟いた。
「……もう夜も遅いし、帰らないと道に魔物が現れるかもしれない。」
「……うん、わかった。」
本当は……
エリズがお母さんにもっとたくさん話すと思ってたのに……
もっと、彼女の心に近づけると思ってたのに……
でも、なぜか分からないが、エリズの決断を前にして、リズミアは安心感を覚えていた。
彼女の心に触れるのは、まだその時じゃないのかも。
そんな思いを抱きつつ、リズミアは再び無邪気な笑顔を浮かべた。
「お腹すいたよ〜早く帰ってエリズの作った夕飯が食べたいな〜」
「リズミア、先に行ってて。私もすぐ追いつくから。」
「じゃあ、エリズ、私を置いてかないでね〜」
リズミアは言い終わる前に、山を駆け下りていった。
エリスはその銀色の背中が遠ざかるのを見つめ、再び墓石に目を向けた。
夜が深まり、文字の読めない墓石を眺めながら、彼女は静かに呟いた。
「……お母さん、私、もう一人じゃないよ。」
エリズは微笑みながら、温泉から持ってきた水を墓石に注いだ。
この別れの後、次に会うのはいつになるだろうか。
グランドの人々は、永別の際に手に水を注ぎ、相手の未来の道の無事を祈る風習がある。
そして、これがエリズと、記憶の中で最もぼんやりしている大切な母との最後の別れだった。
墓石を伝う水が、彼女の決意を強くした。
「この道を進んでいけば……きっと、お母さんが教えてくれた『幸せ』を手に入れられるよね。」
エリズは手に握った瓶をぎゅっと握りしめ、涙を浮かべた瞳に、強い決意の光が宿っていた。
「どんな危険があっても……お母さん、守ってくれるよね?」
【大事なおはなし!】
本作品を読み進めていく上で気に入ってくれたら、
・ブックマーク追加!
・下の【☆☆☆☆☆】からポイント評価!
この2つを行ってくれると、作品の大きな力になります!
初めての小説創作なんですけど、何卒よろしくお願いいたします!




