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敗北から学ぶ、これこそ攻略の鉄則ですが……

「おーい!来栖君!早く来てくださいよ!」


 声が前方から響く。海岸にいたのは、やはり腕を大きく振る荒川だ。側には藍木に河邑に桜塚。


「どしたの?進くん」


「いや、その、えっと─────」


 海岸へ向かう進と三上。


 ……見るのも3回目の景色。


 スマホを取り出してみると、やはり──────11時を示している。


「ん“っん!」


 海水を飲み込んだ事を思い出して、咳払いをするが……今の状態の俺は至って健康。喉が焼ける塩辛さも、肺が締め付けられる苦しさも無い。


 時間が戻っているのだから、当たり前だ。


「はは……どこが当たり前だよ」


 何度も夢かもしれないと疑ったほど、今の状況は信じがたい異常事態だ。だが死の瞬間の苦痛が、俺の肌を焼くのがもう三度目になる11時の日光が、嫌がる脳に無理矢理現実を押し付ける。


「一応、やってみるか」


 スマホを取り出したついでだ。LIN●を起動して、影山のトーク画面を開き電話アイコンをタップ。


 ほぼお祈りで、待機音が鳴り止む事など予期していない俺は──────


『調子どう?』


「……え」


 その一声に虚を突かれた。


『一言だけ伝えておく』


「……!」


 文句はいっぱいある。だがこいつが返答したのならば……この状況が影山の仕業という事で確定したのかを確かめたい。少しでも情報を引き出したい今は、変に刺激して逆上させたくなかった。


『─────残機、無限だから』


「……」


『じゃ、頑張れよ。ナツ●・スバル君』


 そう吐き捨て、影山は通話を切った。


「あぁ……そういう事」


 なるほどね。ここは─────Re:ゼロから始まる系の展開を期待して影山が作った空間……なのか?


 だとしたら、俺は─────────


「……来栖クン」


 背後から聞こえた声に、俺は首だけ曲げて彼女の姿を確認した。


「また、君かィ?」


 落ち込んでいるような灰崎先輩の顔を見た俺は……意味も無く、少しだけ笑った。



















「結論から言うと、俺はもう一度あの桟橋に行ったんです」


 この海の家で卓を囲むのも、もう三度目になる。……常連客になるのだけはごめんだな。


「……はァ?ちょっと待てよ、じ、自分からあそこに行ったって事!?なんでそんな……」


「すみません、共有もせず。確かめたい事があって……」


「……」


「影山は俺を憎んでいる。だからこの海の、あの『罠』の対象が『俺だけ』かもしれない。そう思ったんです」


「師匠だけっつーと……?」


「実験をしました。豪火君は知ってますよね?俺がナンパした女の子」


「おう。あのガキか!師匠も意外と、良い女のセンスしてるよな」


「……まさか、その子を使って─────」


「12時30分近くに、あの足場にその子を乗せました。崩れる様子も無かったんですが、俺が両足で立った途端に木の板は割れました。つまり、『罠』は『来栖悠人のみを対象に』、または『能力者のみを対象に』発動する」


 あの子が能力者でもない限りは、その二つの可能性が同時に存在する。でも─────


「ただ、影山の態度からして前者で確定だとは思います」


「連絡が取れたの?」


「ただ一言、『残機は無限』と」


「……」


「ざ、ざんきっつーのは……」


「俺が死んで過去に戻る現象の回数制限が無いという事ですよ。この海では俺は何度でも死ねる……」


 裏を返せば──────俺が死に続ける限り、世界は進まない。


「ルールは分かってきました。次の調査のために……」


「ダメだよ」


「え?」


「来栖クンは─────安全な場所にいて」


 有無を言わす気はないと、目を見てすぐに分かった。


「キミは一旦休むべきだ。良いかィ」


「……はい」


「と言っても、ワタシの調査の成果はゼロ。……偉そうな事は言えないんだけどねェ」


「ゼロ、ですか?」


 お手上げと言わんばかりに手を広げ、灰崎先輩は椅子にもたれかかる。


「何処を探しても、あの桟橋のように日常の波動が無い場所……罠を見つけられなかった」


「じゃあ、罠は一つだけって事ですか?」


「影山サンのキミへの悪意がどれくらいかにもよるけど、ワタシは違うと思う。前々回、来栖クンが海に落ちた時……『来栖クンが足場を踏んだ瞬間に』その足場から日常の波動が消えた気がしたんだよ」


「!」


「あらかじめ設置してあった『罠』じゃない。強いて言うならこの『海』が巨大な罠になってて……何処でキミを殺すかは、キミのいる場所次第……とか考えられるかもなァ」


 あの桟橋は、影山が意図して罠を仕掛けた場所じゃなくて……その気になればどんな場所だって罠に出来る。そういう事なのか?


「ワタシの能力で分かるのはこれくらいだぜ」


「豪火君は?」


「ん?」


「何か、豪火君の能力で感じた違和感とか、そういうのは……」


「あー……特にねぇと思うけど……あ!いや、一つだけあったぜ!」


 手を叩いて豪火君は……灰崎先輩の方を向いて話し始めた。


「師匠は分かってると思うけどよ」


「へ?」


「師匠がナンパしたガキ……あいつ、『匂いが薄かった』んだよ」


「……薄かった、だァ?」


 全く気が付かなかった。


 豪火君の能力は『バトルモノの波動を嗅ぐ』能力……それが薄いという事は……なんだ?さっぱり分からない。


「それって単純に弱っちィだけなんじゃねェの?」


「おうッ、それも『極端に弱い』はずだぜ。あそこまで匂いが無いヤツは中々いねぇからな。師匠はそれが分かってて、自分に逆らわねぇような都合と顔の良い女をナンパしようとしたんだよな?廻とばっかつるんでるから、変な女が好みなのかと勘違いしてたぜ!」


「そ……そうです。その通り、よく分かりましたね!」


「はいはい、ワタシは変な女ですよ」


 しかし、豪火君が女に対してそういう考えを持っているとは……意外だ。


 詩郎園家の長男として叩き込まれた帝王学には、妻の選び方の指南も入っていたのだろうか。


「んじゃまァ、とりあえず来栖クンは水辺から離れた場所にいてよ。調査はワタシ達で進めとくけど、もしかしたら死なずにループを越せるかもしれないし」


「……そうですね。まずは……はい」


 行動に制限はかかってしまうけど……問題無い。


 ちょうど、今確かめたい事は『安全な場所にいる事で』確かめられる。


『時間』と『死因』──────その検証だ。

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