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今回は捨てましょう

「冥蛾霊子ちゃん、ね」


「君は……霊子と同い年くらいかな?」


 上目遣いで近寄り、冥蛾ちゃんが言った。


「え、いや流石に俺の方が年上じゃあ……」


「そう?じゃあそういう事にしてあげる。男って女子中学生大好きだもんね」


「……」


 否定は出来なかった。


 灰崎先輩のスクール水着に興奮したように、俺は中学時代の幻影を追い続けている……。


「さてと……じゃ、お兄さんは霊子をどう楽しませてくれるのかな?」


「え?日焼け止め塗るんじゃないの?」


「……本当にしようと思ってたの?きもちわる……」


「ま、まぁ落ち着きなよ。とりあえずこういう時は……そうだね、適当に歩こうか」


「適当に歩く〜?自分はろくにデートした事のない陰キャでーすって自己紹介してるようなものだよ?それ」


「言葉のナイフって言葉は中学校で習わなかったのかな」


「霊子難しい事分かんなーい」


 この子、やけに当たりが強い。……中学生ならこれくらいやんちゃでも別に良いか。


 しかし、中学生か。適当に『協力』してもらうだけとは言え、犯罪になりかねない行為はしたくない。この子をどうエスコートするべきか……。


「─────そうだ」


「んー?」


「……良い眺めの場所を知ってるんだ。案内するよ」


「そうやって人気の無いところに連れ込んだ霊子に乱暴するつもり〜?まぁそんな勇気、お兄さんには無いだろうけど」


「人気が無いのは合ってるけど、高校生の俺が君に乱暴する訳ないでしょ。それに……俺には小学生の弟がいるんだけどね、君との会話はあいつと話してるみたいでかなり気分が楽だよ」


「うーん、これ霊子馬鹿にされてるよね」


 最初からあの場所に連れ込めば良かったんだ。調査なら灰崎先輩がしてくれる。俺は別に新しい場所を見つける必要はない。


「さ……行こうか」













「お兄さんってさ」


「うん」


「あのゲームやってそうだよね」


「どのゲームよ」


「んー……何だっけ、あの……」


 例の場所へ向かう道中も、俺達……というより霊子ちゃんは周囲の人間からかなりじろじろと見られる。


 ただでさえ人形みたいなのに、俺が一緒にいるとキモオタが等身大のフィギュアを連れて海に来ているみたいに見えてるんだろうな。


「ブルーアーカ●ブ!」


「えっ」


「まさにお兄さんみたいな青春を謳歌出来ず過ぎ去っていく時間に目を背けるために可愛い空想上の女の子がいっぱい出てくるゲームを好きになって『足舐めたい』とか『もっと曇らせろ』とか、先生っていう現実の自分ではなり得ない立場を利用して造花で出来た青春の受動喫煙を無自覚にしてる気持ち悪い男の人がよくやってるゲームだよね?」


「おぉっとまずいまずい、その辺で抑えといて」


 不安になりそうなくらいその方面に喧嘩を売っている。将来キモオタに刺されないか心配だ……まぁ残念ながら、それは俺には効かなかったんだけどね。


「俺、ブル●カやってないんだよね」


「えっ!!??嘘!!!!????」


「そんな驚かなくても良いでしょ」


「だって絶対やってそうなのに……」


「確かに『やってそうな奴』だよね、俺は。男の陰キャがやってるゲームなんて大体は原●とプ●セカとブルア●だし」


 だが俺はやっていない。それは紛れもない事実だ。


「甘いね、冥蛾ちゃん。まず俺レベルの陰キャになると売れてるゲームは逆張りでやらない」


「うわ……じゃあ原●とかも?」


「アレは例外だね、周りにやってる奴が多すぎて会話に参加するためにはやらなきゃいけない。やってみると意外と面白かったし、ブルア●も面白いんだろうけど……」


「けど?」


「プレイアブルキャラが女しかいないゲームって、『不自然』だからやりたくないんだよ」


「……ふしぜん?」


「例えば、『女のみが特殊能力に覚醒した世界だから女だけが戦う事が出来る』設定だとするよ」


「うんうん、キモオタが好きそう─────」


「いやいやいや、あり得ないでしょそんなの。ただ制作側が男の性欲駆り立てたいだけじゃん」


「……」


「もちろん現実からすればどんなファンタジーだってあり得ない。でも例え空想上でも、俺は自然と受け取れれば違和感を抱かない。女だけ男だけのゲームは、そういう小さな不自然さを感じながらやる事になるから嫌なんだよ」


 ─────という理由が半分。


 本当は……俺が女嫌いだから。主人公として俺が自己投影出来る存在……●ルアカで言えば『先生』か。そいつがキャラクター達……女共より弱いのがイラつく。


 現実では弱者な俺だからこそ、物語の中では女を見下したい、女の身体的に勝利出来る存在でありたい。そこまでは言わなくとも、せめて……女には負けたくないんだ。


 魅力的なストーリーだとか、可愛いキャラだとか。それら全ての長所を無視してインストールを選択しない、陰キャが好きなモノを好きになれない、救いようのない孤島が俺。


 ─────なんて、冥蛾ちゃんには言えないけど。


「ま、そういう事。分かってくれたかな」


「うん、お兄さんは霊子が思った倍は気持ち悪かった!ちなみになんだけど、ブルア●やってないならどんなスマホゲームやってるの?」


「言っても伝わらないようなマイナーゲーだけど」


「極まってるね!」


 ラブコメ展開を受け入れ始めた上に、ナンパまでしてしまっている俺だが、根本的にどうしようもない人間である点には変わりない。


 ──────そう、俺はどうしようもない人間だから……今もこんな事をしてしまっている。


「……さ、着いたよ」


「ここは─────良いね!なんかロマンチック〜!」


 冥蛾ちゃんは両手を合わせて眩しい笑みを浮かべて、「やるじゃん!」と俺の背中を叩いた。


 そして俺達は─────その()()に向かって歩み始める。


 俺を殺した、影山の罠へと。

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