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上振れました

「でも結局、今出来る事って無くねェ?」


「まぁ……そうですけど」


 ニッと効果音が出そうなくらい口角を吊り上げた灰崎先輩が、立ち上がって机を叩く。


「じゃ、楽しんじゃおうぜ。なんかあったらその時考えれば良い!っつーか、そうするしかない」


「……そう……っすね」


 仮に何かしらの罠があろうと、対策の練りようがないんだ。


 それに─────影山の目的が『俺に不安を感じさせるだけ』だったとしたら、ここで楽しまなきゃあいつの思う壺だ。


 俺を見ている影山が愉悦の微笑を浮かべるか、怒りに顔を歪めるか……どうすればどっちに転ぶか分からない以上、俺は俺にとって得である方の選択をしたい。


 つまり、楽しみたい。


「おーい、悠人!」


「!」


「話は終わったか?」


「……進か」


 都合が良いほどの細マッチョ体型のイケメンが近付いてきたかと思ったら親友だった。いやぁ心臓に悪い。


「皆、悠人を待ってるぜ。今日の主役なんだからさ」


「名目上は、だろ……」


「そう言うなって。ほら、時間が勿体無い。出来る限り海水に触れていたいだろ」


 そう言った進は冷ややかな目線を……灰崎先輩と豪火君に向けた。


「先輩方も、ここは過去のしがらみとかは一旦忘れて……せっかくこんな機会が出来たんだ、楽しもうじゃないですか」


「だったらもう少し楽しそうな顔で言えよなァ」


「よし線堂ッ!ここは一つ、泳ぎで勝負と行こうじゃねぇか……!」


「しがらみは一旦忘れろって言ったんだが」


 呆れたようにため息を吐いた進の顔は、どこか──────


「なぁ進、お前……体調でも悪いのか?」


「……やっぱり分かっちゃうか?」


「親友だからな、それくらいは」


「うぇえ何何?全然気付かなかったんだけど……キモッ」


「ククク……まぁ、あなたには気付けないでしょうし、『気付いてもらえない』でしょうね……」


「……はァ?え、何それマウント?きっしょ……」


「ちょっ、なんで二人が争うんだよ……で、進は大丈夫なのか?」


 苦いモノでも噛んでいるかのような、歯にほうれん草でも詰まってるかのような、騒ぐほどじゃない程度の頭痛がずっと続いているような……微妙な不快感を抱いていそうな表情だった。


「あぁ、問題無い。ちょっと疲れててさ……あっ」


「へ?」


 ビュン───と俺の顔の横を切る風の音。


「蚊いた、蚊」


「だからってそんな渾身のストレート浴びせる事あるゥ!?蚊って殴って潰すもんじゃないでしょう!」


「そんな事してるから疲れるんだろ……懐かしいな、進が厨二病の時よくやってたよな、殴って虫潰すやつ」


「うわダッサwwww」


「よし悠人、行こうか。向こうにはこんなお子様みたいな水着の奴なんていないぞ」


「分かってないねェ線堂クン。スク水には『需要』があんだよ」


「どうでも良いから早く泳がねぇか?」


 ダメだ、海を楽しもうにも先輩達が来てるせいで険悪なムードが流れつつある。


 ……と言っても、進は冷静だし灰崎先輩も豪火君も年上だし、弁えているところはある。なんだかんだ言って抑えてくれる奴らだから、面倒なことにはならないだろうな───────
















「あははっ!もうやめてよ来栖!冷たーい!」


「……」


「いや、やめないでよ」


「あっ、はい……」


「きゃっ!やったなぁ、そっちがその気なら……おりゃあ!」


「いやちょっ遠慮が無さすg」


 無慈悲にも振り上げられた朝見の脚部が天まで届く水飛沫を起こし、俺の前方の視界を覆い尽くした。


「あばっ、うぼろぼぼ」


「来栖!?どうしよう、来栖が溺れちゃう─────そうだ、こんな時は人工呼吸で」


「ザパーンwwwww」


「わぷっ」


 水飛沫は再び巻き起こり、狙われた朝見はもちろん俺までもがその被害を被る。


「わァ大変、朝見サンが溺れちゃうなァ。ここは一つ、ワタシが人工呼吸でもしてあげようか」


「けほっ、けほ……いえ、貴女の人工呼吸だと逆に雑菌が身体の中に入ってきてあらゆる内臓の細胞が死滅してやがて死に至るのでダメです。あー死んじゃうよ、誰か人工呼吸してくれないとー」


「えっ!!!星が溺れそう!!!???蘇生処置ならボクに任せてくれ!!!」


「あ、いやちがっ」


 飛び込んできた榊原と入れ違うように、俺は水の中に姿を隠しながら陸へ上がる。


「なーんて顔してやがる。来栖、この景色こそお前という光が望んだ……楽園じゃないか!」


「そうですぞ!こんな絶景……むほほ、中々見れませんぞ!」


「……」


 日陰で待っていたのは永遠に荷物番をしている藍木と河邑。こいつらは何のために海に来たんだろう。


「そうだな。出来すぎたくらいにラブコメだね」


「女の水着ってのはやっぱ良いもんだなー。エロい!言葉を尽くす必要もねーよ」


 灰崎先輩はスクール水着。懐かしくも新しく、常に一線級のエロさだ。


 朝見はよく分からんフリルみたいなのが付いてるビキニ。フリルお前さ、なんなんだよ、邪魔だよマジで。何のために存在してるんだよ、キモいからさっさと消えろよ。


 榊原は……なんか、水着っぽくない水着。えっと……そう、ラッシュガードってやつだ。水着イベントを舐めているとしか思えない。肌を出せ肌を。


「今はどっか行ってるけどよー、三上とか凄かったぞ」


「蘭木氏、くれぐれも線堂氏がいるところでそれを言わないように、ですぞ……」


 三上……か。


 間近で見ていたりはしてないけど、分かる。あいつのサイズはとんでもない。水着ともなればそれはより強調され、圧倒的な破壊力を生むだろう。


「凄いカラダと言えば、来栖氏……」


「ん?」


「意外と引き締まったカラダをしてるのですな」


「なんだよ気持ち悪いな……ヒョロガリだけど少しだけ筋肉付いてるように見えるだけだよ、生まれつき」


「先天性とはこれいかに……」


「俺の事はどうでも良いよ。……お、あそこにいるじゃん、詩郎園が」


「詩郎園っつーとー……」


 麦わら帽子に、あの……なんだっけ、パレオ?みたいなあの長い布が付いている水着。絵に描いたようなセレブ感を見に纏う詩郎園七華は、少し離れた砂浜で─────


「何やってんだあいつ」


「砂の城を作っているようにしか見えませんぞ」


 しかも一緒にいる豪火君にまで手伝わせてやがる。確かに豪火君はナンパ避けとして最強クラスの護衛だが、そこまでしてやりたいのが砂のお城作りかよ。


「あれ、会長は?……ってか、なんであの人は海に来てんだよ」


「確か、疲れを取るために一人で海に行こうと計画してたら、偶然我々の予定が耳に入ってしまって、日程が被ってるのを知ってしまって。生徒が一緒の海にいると気にかけてしまうから嫌だったけど、多忙の合間を縫って計画してたから今更日を改めることも出来ず、ならいっそ一緒に行ってしまおう……って感じらしいですぞ」


「かわいそ……」


 文化祭のアレコレのせいでだいぶ疲れているはずだ。……見つけても近寄らないようにしよう。


「……お、そーだった来栖」


「ん?」


「さっき来栖のスマホが何回かしつこく鳴ってたぞ」


「あ、マジ?なんだろ、ソシャゲの通知か……?」


 上着やら誰かのスマホやらを掻き分け、陰キャっぽさの溢れる手帳型ケースを見つける。


「……あ?」


 真っ先に飛び込んできた通知には──────こう書いてあった。


『助けてくれ』


 差出人は……線堂進。


「っ……」


 慌ててLIN●を開き、トーク画面を開いた瞬間に……絶句した。



『助けてくれ』


『ナンパされすぎて辛いw』



「……」


『死ね』とだけ返し、俺は夏空に照らされるおっぱいに目線を戻した。

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