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推理パートは焦らずに迅速に進めます

「状況を整理しようかァ」


 俗に言うところの『海の家』の中で、俺と灰崎先輩は向かい合っていた。騒々しい客の声と、熱苦しい店員の態度は俺達の会話内容が埋もれるのに適している。


「まず、ここは学校から一番の近場のビーチ。ワタシが前に一回家族で来た事があるってのと、『違和感を抱いていない人達』に聞いたから、これは確定で良いよね」


「はい。そして今日の日付が……7月26日」


「ワタシが飛ばされてきたのが、つい30分前の午前11時」


「はい」


「来栖クンはここに来る前、いつどこで何をしてた?」


 まだ鮮明に残っている記憶を思い出しながら、俺は返答する。


「7月21日、夜10時くらいに寝ました。で、海に行く夢を見たって勘違いして……」


「ワタシに襲いかかったと」


「痛い思いをしたのは俺ですけどね」


「ワタシは7月22日の9時ぐらいに遅めの朝ごはんを準備してたんだけど……そこに時間のズレがあるみたいだねェ」


「……ここに『飛んだ』時間、ですか」


「まァ、それはアイツが来れば分かるでしょ─────」


 ゴン!とジュースのペットボトルと缶がデーブルに置かれる音が響き、彼は俺の隣に座った。


「ジュース買ってきたぜ、二人とも」


「ありがとうございます、豪火君」


 そう、俺と灰崎先輩と、もう一人─────『時間のズレ』を感じている人間がこの海にいたのだ。


 詩郎園豪火。金髪と筋肉が特徴的な彼は、名前に相応しい燃え上がるような赤いパンツ型の水着を着用している。


「んで豪火、オマエはこの海に来る前、いつどこで何してた?」


「来る前っつーと……おう、家でス●ブラしてたぜ。七華と一緒にやってたんだけど……確か、9時……朝の9時ぐらいだったか」


「9時!これで決まったね、ワタシ達が7月26日のこの場所に飛ばされたのは7月22日の午前9時!来栖クンは爆睡してたって考えるのが自然かなァ」


「なるほど……」


 俺達三人は、この海に来るまでの経緯の記憶が無い。進や三上や荒川は普通に海水浴は楽しんでいると言うのに、俺達だけがそうだった。


 俺達だけ記憶を消されたと言うよりは、俺達だけ『違和感を抱いている』と解釈するようにしたんだ。


 何故なら──────


「やっぱりワタシ達三人が『能力者』だったから、時間が飛んだ事に気付けてるって事なのかなァ」


 能力がどう作用するかは知らない。ただ、そう解釈するしか無いからだ。仮に俺達だけが記憶を消されていたとして……それに何に意味があるのだろうか。


 どちらにせよ現実的ではないのなら、何か理由がありそうな『時間跳躍』の線の方が信じられると判断した。


 進達と俺達の違いと言えば能力。理屈はともかく、それが事実だ。


「じゃ、この騒動を原因だけど─────」


「影山でしょう」


「……そうなるのかなァ」


「師匠が前に言ってた女か。そいつの仕業なのか?」


「分かりませんが、影山くらいしか出来る奴はいないでしょう」


 俺の言葉に、灰崎先輩は重く頷いた。


「影山サンと連絡は?」


「取れませんね、何度も電話をかけましたが無視の一点張りです、既読すら付きません。機嫌が良い時は出るので、その点でも恐らく……」


「なるほどねィ。となると一番の問題はやっぱり─────」


 青い海を遠く見つめながら灰崎先輩は言った。


「『記憶が飛んだ』以外の問題が全く無い事だ!」


「そこなんすよね……」


「ん?どういう事だ?無いならそれで良いじゃねえか」


「そう、良いんですよ。だからこそ怪しい。影山のような奴がわざわざこんな……ただ俺達に違和感を抱かせるだけの意味の無い事をするかと言うと、ね」


「あぁ……確かに」


「周りのみんなは特に異常は無く、楽しんでやがる。つまりワタシ達も……今は楽しむしかできねェって事!」


 オレンジジュースを飲み干し、灰崎先輩は喉を鳴らす。


「とりま、せっかく海に来たんだから海に行こうぜ!」


「カブトボ●グネタは伝わらなかった時に単におかしい奴だと思われるのがリスク高いっすよね。……そうじゃなくて。もう一点、話すべき事があるんです」


「ン、そうなの?」


「─────26日、俺達はクラスの何人かで海に行く予定だったんです」


「!」


 灰崎先輩の表情は引き締まったが、豪火君は缶を潰しながら『だからなんだ』と言わんばかりの顔をしている。


「そのメンバーに、灰崎先輩と豪火君はいなかった。つまり今回の事件は、ただ単純に時間が飛んだって話じゃないんです」


「……現実が書き換えられちゃった可能性があるって事ね」


「ん?待てよ、22日の10時から25日の間にオレ達も行く事になっただけかもしれねぇじゃねえか。その事を覚えてないだけで」


「確かに!豪火のくせに鋭いねェ。そこはどうなの、来栖クン」


「確かに!」


「はいバカ〜豪火以下のバカ〜」


「と言っても、その可能性がゼロとは言い切れないってだけで……これを見てほしいんですけど」


 俺はスマホを起動し、L●NEのトーク画面を開く。


「これは……」


「俺と進の会話……らしきものです。22日の夜に話していたみたいなんですが」


 内容はこうだ。



『グループあるだろ』


『海行くメンツので作った●INEのやつ。連絡用の』


  『あれね』


『先輩とか結構入ってない人多くないか?全員入れる必要はないけど、学年が違う人は連絡係としてせめて一人ずつは入れたいし』


『何日か前に会長とかは追加したはずなんだけど、何故か抜けてるんだよな。でも退会の通知は無いし』


  『ほんとだ』


『まぁとりあえず灰崎廻は追加しておいてくんね?』


  『おk』



「ッ、グループって──────!」


 慌ててLIN●を開いた灰崎先輩は、そのグループ……『悠人と海で仲良くなろう会』とかいうあまりにも異常すぎて目立つトーク画面を見て目を大きく開いた。


「い、いつの間に……!」


「って事はやっぱり、アレじゃねえか?22から25の間にオレ達も行く予定になった。それで確定だな─────」


「確定とは言えません……よく見てください」


「ん?」


「俺も進も、22日の時点で『前から先輩達も行く予定だった』と言っているんです。つまり……」


「つ、つまり?」


「──────俺達がここに飛ばされた時間から、海に行くメンバーが改変された……と考える事が出来ませんか」


 自分で言ってて笑えてくる。


 こんな……まるで確保、収容、保護すべき事態みたいな事が起きてるだなんて、こんな能力を持っていなければ信じられなかっただろうな。


「俺と進の、さっきの会話より前の会話は……ほら、こんな感じで」



『今から誕プレ渡しに行くわ』


  『眠いから明日にしてくんね』


『無理』


  『おk』



「……21日の夜。『進が俺に海へ行く予定を告げる前』の会話しかないんです」


「なるほどねィ。線堂クンが違和感を抱いて来栖クンに言うまでの間に、キミ達は会話してない……この間にメンバーの追加があったとは思えないって事だねェ」


「追加メンバーは……結構多いですよね?グループの方もその間に大きな動きは無くて、ただ持ち物の相談とかしてるだけなんです」


「追加メンバーっつーと……オレと廻と、あと─────七華もいるぜ」


「猪口サンとか、ワタシのクラスメイトも何人か。話を聞くに、来栖クン達みたいにクラスの何人かで行く予定だったんだけど、ワタシと来栖クンの繋がりを知ってる猪口サンが一緒に行っちゃおうって言い出して……って感じらしいぜ。全く、初めて聞いたよ」


 俺達が……一年七組が海へ行く予定に便乗したのか分からないが、影山は何らかの力を行使してメンバーを追加した。その上、26日まで時間を飛ばした。


 わざわざ現実改変までした影山がするとは考えられないが、知られたくない情報を俺達三人が知ってしまい、それをどうにかするために影山が記憶を奪ったと言う可能性も無くはない。


 時間跳躍か、記憶改竄か。


 どちらにせよ、恐らく現実改変は起きてしまっている。影山が何の目的のためにそうしたのかはまだ分からない。そんな大層な事をしておいてその先に何があるか見当も付かない。


 一つ言えるのは──────俺達にとって……いや、俺にとって害のある出来事が起きる……それだけだ。

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