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未開拓の分野はどんどん検証していきましょう

「えーっと……先輩、俺やっぱ……帰りますね」


 事情を聞いた俺は、まず帰ろうとした。


 だって……普段仕事で忙しい両親が久しぶりに揃って休日を家族と過ごせる機会なんだぞ?なんか急に現れた『長女の後輩』が……彼氏でもない男がいて良いはずがないだろ。


「おっ、良い心構えだなァ!廻、この後輩クンもこう言ってる事だし……」


「ごめん来栖クン、帰ったら殺す。乱暴な言葉使っちゃって申し訳ないけどさァ、殺すよ。……ウチの親のせいで勉強会中止とか、朝見サンに知られたら屈辱で爆発しちゃう」


 殺すとか言うんだから仕方ない。俺まだ死にたくないもん。仕方ない、んだけど──────


「あ、来栖クン、ナゲット取って」


「っす……」


「おい廻、ナゲットくらいオレが……」


「食事中は喋んないでくんない?」


「……」


「ねー陰キャ?マキもナゲットたべたい、箱取って」


「っす……」


「ちょっと巻希?来栖君をそんな呼び方しちゃダメでしょ!」


「事実だから良いじゃんべつに」


「事実でも言わないの!」


「あ、はは、は……」


 ─────馬鹿げてる。


 どうして一家の食卓に異分子として俺が存在しなければいけないのか。気まずすぎて消滅したい気分だ。朝見含めて自殺する奴の事とか馬鹿にしてたけど撤回します、消えたい瞬間なんて誰にでもあるよな!


 ……でも、こんなに心臓をバクバクさせていてもマ●クは美味い。味が分からなくなるほど緊張していないのか、それを上回るほどマッ●が優れているのか。


「ってか来栖クンさァ、いつもみたいにしてよ」


「は?」


 ナゲットを頬張りながら、灰崎先輩は怪訝そうに言う。


「『取って』って言われたら、いつもみたいに『あーん』しろって言ってんだよ!」


「は?????存在しない記憶ってやつか、これが……?」


「おい……ふざけるなよ。彼氏でもない男がウチの廻に何してくれてんだァ!?」


 先輩は何度か大袈裟に瞬きをして……顎で父親を示した。


 怒りに満ちた表情。そこから汲み取れるのは……多分だけど『話を合わせろ』という意思。お父さんを怒らせたいのか、狙いはよく分からないけど……乗るしかないな、この状況は。


「じ、じゃあ……どうぞ」


 恐る恐る、俺はナゲットを摘んで隣に座る灰崎先輩に近付ける。


「あーー……ん」


「先輩、指まで食わないでください」


「うぇ?いつもやってるじゃん」


「あァ?いつも、だと……?」


「ははは。冗談がお好きですね!!」


 胃が痛い。それに加えて、『あーん』というシチュエーション自体は非常にラブコメチックであるせいで、波動が急に襲いかかって来た。食事中の波動はかなり効く……単純に吐いてしまわないか心配だ。どうして俺がこんな目に遭わなければいけないんだ。


「はい、次ワタシのターンね」


「え」


「おい廻!そんな事廻がやらなくても、俺が代わりに後輩クンに……!」


「徹がやっても意味無いでしょうが」


 ナゲットと白い指と波動が同時に接近する。口を開けなければ唇に激突してしまう。のでお父さんの静止は申し訳ないが無視しなければならない。


「んがっ」


「おいち〜?」


「あの、もがっ、ゆ、指食わへないれくらさい……」


 しかしナゲットは美味い。もう良いか、肉が美味ければなんでも。


「くっ、ぐぬゥ……廻、どうしてそんなモンハ●の武器種アイコン黒Tシャツ着てる男なんかを……!」


 頭を抱えながら心底悲痛そうな顔の歪ませ方をする先輩の父親は、よく聞く『娘の彼氏を認めたがらない』父親像とピッタリ一致していた。


 ……いや別に俺は彼氏でもないし、灰崎先輩は今まで普通に彼氏作ってたはずなのに……どうしてそこまで嫌がるんだろう。











 ー ー ー ー ー ー ー
















「先輩、反抗期なんすねw」


「それ一番言われたくなかったやつゥ〜」


 灰崎先輩の部屋でノートを開いた俺は、シャーペンの芯を出しながら言った。


「単純に親と仲悪いだけだって。そんな、反抗期とかじゃ……」


「それを反抗期って言うんすよw」


「ウザ。キモ」


「ウザはともかくキモはどこから来たんですか」


「高校生にもなってマッ●フル●リー頼むのキモいでしょ」


「は?別に……え?そんなおかしい事なのか……?」


 ついさっき美味しくいただいた、胃の中へ溶けていったクッキーとアイスのぐちゃぐちゃを思い出す。今までずっと何の疑問も抱かずに食ってたけど……もしかしてガキ専用の食べ物なのか?長い間俺は、俺に気を遣ってしまう家族とか進と三上としか外食とかしなかったせいで、こういった『常識』みたいなものを知らないのかもしれない。


 ……いや別に高校生もマ●クフルー●ー食ったって良いだろ!


「はァ〜あ……ふざけないでほしいよ、ほんと。なんでわざわざ今日に……」


「でも普段は忙しいんですよね?その合間を縫って休暇を作ってくれたんですし」


「作って『くれた』だァ?こっちはそんなの頼んじゃいないよ。だいたい、ワタシ今日は勉強するつもりなのに。子供のテストのタイミングすら把握してないんだから、わざわざ構おうとしなくて良いってのにさァ」


「そ、そうすかw大変っすねw反抗期早く終わると良いっすねw」


「ライトボウガン使ってる奴って『効率厨な自分カッケー』のマインドでモ●ハンやってるくせに太刀とか双剣とか使う奴の事いつも見下してるよね。『でも結局ヘビィの方が火力出るんでしょ?』とか言われたら『まぁライトは縛りみたいなもんだからw』とかクソみたいな言い訳しそうだよね。単純に難しいからヘビィ使ってないだけなのに、簡単に効率厨アピール出来るからライト担いでるだけなのに。でも周回してるうちに段々飽きてきて、他の面白そうな武器使ってみようかなって思ってスラアクとか虫棒あたり作って使ってみるけど普通に難しくて三乙して、ライトの操作に慣れすぎて今更練習して上達する気力も無いから武器変えるの辞めるんだけど、その後自分が下手なせいで辞めたのに『やっぱライトしか勝たんwスラアクゴミだわw』とか呟くんだよね」


「効きすぎですよ……」


 違う、俺はそんな気持ちでライト使ってるんじゃない!単純にあの操作性とか、武器デザインとかが好きなんだ……いや本当に、他の武器種見下したり武器変しようとして失敗なんてした事…………な、無い。


「でも、何となくですが……灰崎先輩が豪火君と別れた理由が分かった気がします」


「え?」


「豪火君とお父さん、似てますよね。雰囲気というか」


「ゔっ。確かに……『それも』あるかも」


「『それも』って事は違うんですか?」


「単純にさ、あいつ身体デケェじゃん?」


「はい」


「どうせチ●ポもバカデカくて痛いんだろうなって思って、性格もバカだし別れちゃおうってなったよね」


「…………」


 女子の下ネタとかいう陰キャ特攻兵器、やめてほしい。小学生の頃は『女が下ネタ言うわけない』とか思い込んでたけど、中学生の頃に急に女子が下ネタ言うようになって……気付けば今や、俺はその女子と話すところまで至った。


 ……しかし、女子ってチン●デカければ喜ぶんじゃないのか……?


「『女子ってチン●デカければ喜ぶんじゃないのか……?』とか思ってそうだねェ」


「そんな訳ないじゃないですか、俺をなんだと思ってるんですかね」


「素直に言えって、エロ漫画読みすぎ童貞クン。虚勢張るなよ、去勢しちゃうゾ」


「すみません、つまんないですそれ」


「そうだそうだ、お父さんと言えばさァ」


 流れるように話を逸らし、灰崎先輩は語り始める。


「─────試してみたけど、やっぱ『見えなかった』よ」


「試してみたって、何が……」


「やっぱ分かんないなァ、キミの能力の『定義』が。ともかく次は巻希でやってみよう!と言う訳で─────」


 灰崎先輩の指は、真っ直ぐと……俺の唇へと向いていた。


「とりあえず、巻希とキスでもしてくんない?」

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