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アクシデントを如何にリカバリーするか、それも実力の内です

 灰崎夫妻は廻の夜遊びなどの行為については黙認していた。彼女の『病気』があけてしまった心の穴は、自分達だけでは埋められないと判断したからだ。


「けどよォ……家に連れてくるってのは初めてじゃねェか?」


「そうね。彼氏が出来た別れたっていうのは言ってたけど、今思えば一度も家に呼んだ事は無かった……」


「別におかしくないと思うよ。お姉ちゃん、あの男のコト結構気に入ってるみたいだし」


「んだとォ……?」


 徹は拳を握り締めながら巻希を見るが、彼女は呆れたような顔で「気付いてないの?」と嘲笑した。


「もしかして、最近あの子がちょっと楽しそうな顔してたのって……」


「じゅっちゅーはっくそうでしょ。ヘアピンまで付けてってる始末だし」


「あ、気付かなかったのオレだけェ……?」


 握った拳の力がするすると抜け落ちていくのを感じながら、徹は口に出す事自体すら苦しそうに言う。


「男ってのはその……やっぱり彼氏、なのかァ……?」


「決まってるでしょ、そんなの─────」


「あれ、お父さん鋭いね」


「えっ」


「あの様子だと多分……まだ付き合ってない」


「じゃあその男は付き合ってもいねェのに廻と……不純な関係にあるって事かァ!?」


「いや、『そーいう事』もしてないらしいよ」


「「え???」」


「わりとプラトニックなのかもねー」


 その時、二人は─────思い出した。廻が『行為』に及んでいた事を知り、それについての家族会議を開いた時。


『いや避妊とか……言われなくてもしてるし。親とこういう話すんのマジで嫌だしさァ、もうやめてね?』


 彼女の冷たい瞳と、何もかも諦めたような笑顔が……今聞いた情報と噛み合わない。


「あ、あんなにすましてたのに……あの子も可愛いところあるんだね!」


「お姉ちゃんは可愛いでしょ、ふつーに」


「性格の話!ほら、徹もこれなら彼氏……じゃなかった、その男の子の事は認めてあげ────」


「尚更ダメだァッ!!」


「えぇ……」


 脱力した拳を再び、そしてより強く握り締めて徹は吠える。


「だって、それはつまりその男の『性格が好き』って事だろォ!?そんなの、そんなの……なんか、許せねェ!!」


「徹!もう……祝ってあげなきゃダメじゃない、親として。ほら、丁度買い込んだ事だし、一緒にお昼とか食べちゃったりして」


「分かってる、けど……ぐゥ!なら直接見て!話して!それから判断する!もし不届き者なら出てってもらうぜェ……」


 拳を鳴らす徹は、一般的な成人男性よりは大柄な体格なために、彼をよく知る者でなければ冗談に見えない凶暴さがある。


 今の場合、妻である芹香は「またそんな事言って」と流した。娘である巻希もまた、軽く流そうとしたが──────


「……あは、ははは……程々にね」


 もしかしたら冗談では済まないかもしれない────灰崎徹と真逆と言っても良い存在の来栖悠人という男が来る今日に限っては、苦笑いをする他無かった。












 ー ー ー ー ー ー ー













「来栖クンも荷物を持つとか、そういう気遣い出来るんだねェ」


 マクドナ●ドで購入した、肉を挟んだパンと揚げた芋を運ぶのは俺、来栖悠人。


「でしょ!?見直しましたか?俺にもこういう気遣い出来るんですよ……男ですからね」


「うん、注文とか全部ワタシに任せておきながら誰でも出来るような荷物運びを意気揚々と請け負って自慢げに男アピールしてるところとか、まさに『父』って感じして良い!」


「マジっすか?俺、将来良い父親になれる感じですか」


「あァ褒めてないんだよね」


 昨日先輩から『昼飯は食ってくるな、金は持ってきて』と言われて、その言葉を何も考えず信じておいたが変な事にならなくて良かった。しかしもうすぐ11時になる頃だし……先輩の家に着いたら即昼食みたいな感じになりそうだな。


「ここからあとどれくらいで着きます?」


「あ、もう着いたよ」


「え」


 灰崎先輩が指差した先にあったのは─────白めの一軒家。中身はどうとか分からないけど、結構真っ白な外観だからどことなく高級感がある。


「さァ行こう。巻希は普通にいるから、挨拶とかしてってよ」


「あぁ、はい」


 ……あの子か。


 うっ、そう考えると少し胃が痛くなってきたかもしれない。すごい苦手ではないんだけど、なんとなく雰囲気が嫌なんだよな、あの子。もっと話してみれば変わるかもしれないけど……まぁ、仕方ない。そもそも女子の家に上がるっていうハードルの高い試練の中で、両親への挨拶というステージを省略してもらってるんだ、今回は。巻希ちゃんくらい明るく笑顔に挨拶しなきゃ。


「……ん?鍵開いてる。ワタシ閉めたはずなんだけど……巻希かな?まァいいや」


 鍵をしまい、灰崎先輩はドアノブに手をかける。


 ガラッ!と大きく音が鳴り、慣れた様子で入ろうとする先輩の背中を見ながら、俺は緊張か武者震いかで震える足を運び──────


「おかえり、お姉ちゃん」


「ありゃ?またワタシのお出迎えとか、反抗期終わったの─────」


「おかえり、廻」


「おかえりィ」


「……ン?」


 灰崎家の玄関を拝む前に、灰崎先輩の……焦燥しきって汗ばんだ顔が視界に入った。


 ──────その理由はすぐに分かってしまった。


「そして廻のボーイフレンドクンかなァ……?よく来てくれたなァ……!」


「ちょっと、やめなって……今日はゆっくりしていってね!」


 恐らく、というかほぼ確実にご両親としか思えない男女二人組。彼らと目を合わせた直後、先輩の顔色は見る見るうちに悪くなっていき──────


「……やっぱ、帰ろっかァ!」


 コーヒー豆でも直接噛んでいるのかというほどの苦笑いに、俺は「ここが家ですよ」と冷静に返した。

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