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速攻をかけます

 ドアにボールペンが激突した瞬間─────線堂進は戦慄した。


(────バレていたのか。最初から……!)


「うお……あっぶね、声出すところだった……」


「な、何よ急に。今の音って……」


「気付かれたな。さ、退散しよう」


「……お、おう」


 進が立つと同時に、高橋圭悟と西澤雪音は顔を見合わせてから立ち上がる。


「なぬ!?せ、せっかく良いところなのに、無料版はここで終わりなのですか!?」


「……まーしゃーねーわ、帰んぞ河邑」


「ぐぬぬ……致し方あるまい、ですぞ」


 藍木真と河邑瑛太も同様に、彼らに倣う。


 全員がその場からすぐ立ち去れるほどに、部室に執着は無かった。……『離れるべきだろう』と頭では分かっていた。


 他五人は線堂進の集中した様子を見て、それを言い出せなかった……と言う理由もある。


「春、行こう」


「うん、ありがとねぇ」


 進はしゃがみ込んでいた三上春に手を差し伸べながら─────かすかに見えた、灰崎廻の眼光を思い出す。


(……やはり、厄介な女だ)


 いつか自分にとって邪魔になる存在。しかしその女こそが、彼の親友を変える事が出来るかもしれない唯一の光だった。











 ー ー ー ー ー ー ー












「うひっ」


 灰崎先輩の白い腋に触れた瞬間、ひょうきんな声が傍から聞こえた。


「ご、ごめんごめん……くすぐったくて─────」


 そんな事は知ったこっちゃないので、引き続き指を走らせていく。


「ううぇっ」


 皺に沿ってなぞり……指を汗で湿らせていく。心なしか、さっき見た時より汗ばんでいる気がする。


「ふふ、ふふふふ……ダメだ笑っちゃう」


 との事なので、俺はそっと爪を立てて─────優しく引っ掻いた。


「あああああああああああ!?!?」


「うるさっ……」


「ちょ、ちょおほっと、やァめろくすぐるのはァ!舐めんならさっさと舐めろや!」


 あの灰崎先輩がこんな醜態を晒して、俺なんかに好きなようにされている状況はもう少し楽しみたい所ではあるけど……くすぐられるのって意外と辛いんだよな。サディストの気は無いし、ここは従うのが道徳。


「─────の、前に……」


 深呼吸というクッションを一つ置き、俺は……先輩の腋に顔を近付ける。


(……やっぱ、波動がヤバいな。意識が朦朧としてきた────だが、ここで倒れたら一生後悔する)


 そんな気がしていた。なら、俺は俺のために頑張るしかない。


「……すぅ」


「うーわ最悪、こいつ嗅ぎやがった」


「嗅がないでどうすんですか!!」


「ちょっほ、そこで喋んないで、吐息がァ……」


 結論から言うと、強烈な匂いはしなかった。「この匂いは間違い無いッ!廻の変な匂いだぜッ!!」とか、筋肉ゴリラ君みたいに言ってみたかったがそれは叶わなかった。恐らく制汗剤とか使われてるな……昨日の時点でしてくるなって言っておくべきだったか。


 だけども、コーンポタージュを薄めたような……腋汗の匂いだと分かる香りは確かに存在する。自分の腋の匂いとはまた違う、普通の感性では良い匂いと言える匂いでは無いが、腋の匂いという情報があるだけで評価は一点、星五つです。えげつないほどに股間に来る。もはや来すぎて来栖悠人だ。来栖悠人の悠人がズボンを突き破ってしまう。


「すぅぅ──────」


「か、嗅ぎすぎだろ……」


「──────」


「……?」


「─────あぁやべ、気絶してた……」


「えっ」


 止まる事を知らない勢いの波動と、女子の腋の匂いを直接ゼロ距離で吸い込んでいる事によって幸福感がカンストして、脳が機能していなかった。


「う、嘘でしょ……そんなに……く、臭かった?」


「いや全然。良い香りですよ」


「キミが言うとどっちなのか分かんないんだよなァ……」


 灰崎先輩のため息が左耳に当たったのを感じ、彼女の顔の方を向いてみると……やはり顔を赤らめていた。


 目が合い、視線が交わる。


「……ふふ」


 汗ばんだ顔だったが、彼女はそれを笑顔に変えた。慣れない事をさせられて心身ともに疲れているだろうに。


「まァ、存分に楽しみなよ。これはキミへのご褒美なんだから」


 俺なんかにこんな事されて気持ち悪いだろうに……先輩の手は、俺の頭を優しく撫でた。


 でもそんな事を気にしている場合ではないので、俺は────────


「あ、楽しむとは言ってもやりすぎには注意────」


 目の前の腋に、震える舌を押し当てた。


「おっほぉうッ……!?やば、いきなりはやめ……」


 大変にえっちな声が聞こえましたが、気にしていてはキリがないので止まりません。さっき指でなぞった道を、再び舌で往復していく。


「くっ……まだ……っ、わら、うな……ふっ、うっ……!こら、えなきゃ……うふぅっ、でも……おぉうっ」


 込み上げる笑いを止めるよう自分に言い聞かせてるようだが、勝利を確信した夜●月に重なるからやめてほしい。


 味はほんのりとした塩味。それ以上でも以下でもないが、匂いという最高のスパイスが効いているおかげで、今この瞬間に世界三大珍味が一つ増えたと言っても過言ではない。


 ……さぁ、ラストスパートだ。


「うぅふっ!あはっ、ふぅぬっ、おっほ……おぉ、あああ!ぶふっ、くふぅっ……!」


 花京院●明ばりのレロレロをぶちかます。きっとこれが最後になるだろう……これ以上は俺のハイエロファントホワイトが半径2m●ーメンスプラッシュをしてしまう。


「ふぅ、はぁ……はぁ……!こ、これで終わりかなァ!?終わりだよねェ!?」


 汗を唾液で塗り替えたところで────唇で腋を鳥のようについばんだ。


「お“っ」


 ぷるっとした感触が口に伝わり、俺は、俺は──────満足した。俺たちの満足はここで終わった。


「くふっ、ふぅ……ふゥ!流石に終わりだよなァ!?」


「……はい」


「ぷはー疲れたァ!流石に色々とやばいねェこれは……。あ、来栖クン、ワタシのバッグからウェットティッシュ取って─────」


「灰崎、先輩の、皮脂と雑菌のミックスジュース……絶品、で、した……」


「……」


「……」


「え、きも」


 その言葉を最後に、俺の意識は途絶えた。


 無慈悲に迫り来る気絶、そのあまりにも抗いようのない無力感は死を連想させるが……でも、それはそれで。こんな死に方が出来るならベストかな、とか──────思ってしまった。


 そう、今だけはどんな不安も忘れて……波動に溺れられる。


 (っていうか俺、やってる事普通にキモすぎんだろ……)


 ─────最後の最後で賢者タイムが来てしまったのが、唯一の減点だったが。

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