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装甲を剥がしました、勝負はここからです

「っす」


「ン〜」


 もはや挨拶とは呼べないような文字数の声を互いに交わし、俺は灰崎先輩の隣の席に座る。


「昼も思ったけど、やっぱそこ座るんだァ」


「嫌ですか?」


「別にィ?ただ、()()()()()()()()恥ずかしいなァって」


「他に誰もいないし良いじゃないですか。それに……これからする内容的に、気にするだけ無意味というか」


「ふはは、まァそっか。隣にキミがいるのは悪くない景色だし……」


 カバンを置き、白い長机のキズを見つめる俺と─────そんな俺をニヤけながら見つめる灰崎先輩。


「……」


「じゃあ─────早速貰いたい感じだよね?」


『ご褒美』……そう。俺は今日、それを受け取るためにここに来ている。


「教えてよ。来栖クンが何を望むのかをさァ─────」


 右を向き、真っ直ぐ先輩と視線をぶつけ合う。


「ッ……俺は─────」


 震える唇で、必死に考えてきた欲望を……ぶち撒ける。













 ー ー ー ー ー ー ー















「さて─────行くぞ」


 来栖悠人が部室の扉を閉めたのを確認した後、線堂進は先陣を切った。


「ほ、本当にバレないんだよな……!?」


「こうやって囁き声で喋ればバレないって」


 オカルト研究部部室前に集まったのは─────六人。


「俺も実際に二人が過ごしてるのを見るのは初めてだからさ、ワクワクするな」


 線堂進。計画の発案者である。


「内心はワクワクじゃなくてイライラなくせにぃ……」


 三上春。進のお目付け役で来たような態度だが、実は彼女もかなり面白いものが見れると期待してここにやって来た。


「そもそもこの姿を先生に見られたらどうすんだよ……」


 高橋圭悟。進に無理矢理連れて来られた、クラスの中心人物の一人。


「この学校の先生がそんな熱心に注意すると思う?来栖の件も詩郎園に好きにさせるしか無かった、あの無能連中が」


 西澤雪音。彼女もまたクラスでの権威は高い方ではあるが、今日はクラスカースト最下位どころかカーストから逸脱してしまっている来栖の様子を見に来ている。


「俺はバレても見続けるぜー。俺たちが見れない来栖の光を、わずかでも浴びる事が出来る機会は中々ないからなー……!」


 藍木真。来栖悠人を光と呼び崇拝する、陰キャと自称すると陰キャに怒られそうなくらいには騒ぐ事が出来る陰キャ。


「彼女を優先して帰った荒川氏と、覗きなんてカスのする事だとか言って今も勉強してる桜塚氏のためにも、我々が目に焼き付けなければ……!」


 河邑瑛太。無害そうに見えて、話してみるとかなり面倒くさいタイプの陰キャ。


 計六人。彼らは一般通過生徒に変な目で見られつつも、ドアの隙間に顔を寄せ合っている。


「今のところは普通、か。やっぱりそんな面白いものなんて─────」


「高橋、あんたバカ?」


「は?」


「線堂の顔────見てみなよ」


「線堂の顔って、何が…………」


 横を向いた瞬間、圭悟は絶句した。


「嘘、だろ……」


 線堂進が、この世のものとは思えない光景を見たような、驚愕の最上級の表情をしていたのだ。


「悠人、が……自分から女子の隣に座っている、だと……!?」


「うわくだらねぇ〜。どんなヤバいモノが写ってると思ったらそんな事かよ……」


「いや、確かにくだらねーかもしれねーけど……実際に、俺達みたいな陰キャじゃなくてもわざわざ隣に座るのって、ないだろ?」


「確かにねぇ。ちょっと気持ち悪いかもねぇ、それはぁ」


「で、でも先輩は特に気にしていないように見えますぞ」


「という事は─────」


 雪音は期待に胸を躍らせながら、悔い気味に扉に近づく。


「恋の予感がしてきちゃってんじゃないの〜?」


「ほんっと女子って他人の恋愛好きだよな」


「そう言う高橋だってワクワクしてるでしょ」


「ま、まぁちょっとな……」


 ─────だが、彼らはまだ知らない。


 部室の中の二人が、そんなロマンチックな雰囲気ではない事を。











 ー ー ー ー ー ー ー












(ワキ)を舐めさせてほしいです」


「──────」


 凍りついた灰崎の表情。教室は静寂に包まれ、廊下からの笑い声や足音などの喧騒が無ければ時が止まってしまったのかと錯覚してしまうほどだった。


「腋を!舐めさせてくださいッ!!」


「き、聞こえなかったわけじゃないって。ふはは、そうかァ。脇ね、脇……」


「そうです、腋……」


「いや脇ィ!?」


「なっ……何が悪いんですか!腋の何が!」


「どんな要求来るかと思ったら脇て!拗らせすぎだろキミはァ!」


「は!?腋はマイナー性癖じゃないですよ?立派な一般的な嗜好ですって!意外と腋民人口多いんですって!」


 これはガチ。ヘソには及ばないが、いわゆる『フェチ』とか呼ばれる性的嗜好の中ではかなり信仰されている部類のはず。


「しかも『舐めさせてください』だァ!?見せろでも触らせろでも嗅がせろでもなくいきなり舐めさせろって言う度胸をどっから仕入れたんだよ!?」


「し、仕方ないじゃないですか!!確かに最初は見せてもらいたいなって言う小さな欲望でしたよ。でも、ここでビビらなければ触らせてもらえる……嗅がせてもらえる……」


「……」


「舐めさせてもらえる……じゃあ言うしかないッ!!」


「覚悟決めちまったかァ……」


 その通り、俺はもう一歩も引く気は無い。ご褒美をやると言ったのは灰崎先輩の方だし、『本番』が許されるのなら腋を舐めるくらい通るはず。


「べ、別に悪いわけじゃ無いけどさ……」


「なんですか?─────処理してないのなら、それはそれで……」


「あァもう黙れ!してるから!そういう事じゃなくて……もう良いや。じゃ、早速やっちゃいますか」


 そう言った灰崎先輩は─────パーカーを脱ぎ始めた。


「何見てんだィ。脇見せんだから当たり前だろ」


「あぁいや、学校で灰崎先輩のパーカー姿以外を見るのって、ジャージくらいしか無くて……新鮮だなって」


「確かに、ずっと着てるからねェ─────あ、やべ」


 と、パーカーから首を引っこ抜いて学校指定のシャツが露出したところで、先輩の動きが止まった。


「どうかしましたか?」


「今日、暑いから半袖着て来たんだった。忘れてたなァ」


「……別に問題じゃなくないですか?むしろ好都合というか」


 半袖なら最悪、着たままで腋に干渉する事が出来るからな。腋に干渉って何だよ。


「いや、その……」


「?」


「─────じゃあ、こうするか」


 そう言った灰崎先輩は、脱いだパーカーを……巻き付けるようにして右腕を覆った。


「ヨシ!」


「何がヨシなんですかね……どんな意味があるんですかその行動」


「女の子には見られたくない場所があるってもんだぜェ」


「─────今、『そんな事』しながら言うセリフじゃないですよ」


 シャツのボタンは全て外された。


 インナーが露出し、黒いブラジャーが……す、すすす、透けていた。


「で、こうしてと」


 パーカーが巻き付いていない方……左腕をシャツの袖から外し、雪のように白い肩が見える。


「さァ……おいで」


 腕が─────上がった。

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