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 昼休み。来栖悠人がオカルト研究部部室へ向かった後の一年七組教室は─────彼の話題で持ちきりだった。


「ぶっちゃけ、来栖ってなんなんだ?」


 発端は高橋圭悟。線堂進への直球な質問だった。


「陰キャ……おとなしい奴かと思ったら女子に暴言吐きまくってたし、変な先輩とつるんでるし、ボコボコにされるし……」


「……」


「悪い奴なのか、そうじゃないのか。全然分からねえよ、あいつの事」


「……うーん」


 進が悩んでいるのは、もちろん『打ち明けるべきか否か』だった。


 悠人は『自分は』事の顛末を知られるのを拒んではいなかったが、『朝見星が』気にしてしまうのではないかと考えていた。


「でも昨日の朝見の様子を見るに─────」


 進としては悠人の考えを尊重したい。


 しかし同時に、悠人の考えと行動の理由をクラスメイトに知ってほしいとも思っている。


「よし!じゃあ全部話すぞ!」


「急に!?この前はあんだけ何も言わなかったのに……」


「まず俺と悠人が初めて会った日の事だ─────」


「あぁそこまで遡るんだ……」


 進は嬉々として語り出す。踊るように舌は動き、彼の記憶をそのまま言葉として紡ぐ。


「─────で、中学一年生の時、あいつに彼女が出来たんだけど……」


 満面の笑みを浮かべながら、心で悪意を滾らせながら。


(悠人が朝見を許すのを阻止出来なかったのなら、悠人と灰崎廻が結ばれるように仕向けるしかない。そのために俺が出来るのは、二人の恋のキューピッドになるのではなく……悠人の朝見の好感度を下げる事だ)


 進は悠人の事をクラスメイトに知ってもらう事で『みんなが悠人に優しくする』ようにしたかったのではなく……『朝見星を陥れる』事を目的としていた。


「で、その彼女が自分も虐められたくないからって悠人を裏切ったわけ。酷い話だろ?」


 心底楽しそうに語る進とは裏腹に、高橋達クラスメイトの顔は段々と青ざめていく。


(そのためには事実を拡散する事で朝見の居場所を無くし、より悠人に依存するようにする。あいつの変な冷静さは厄介だからな……精神的に追い詰めれば、ヒロインレースの勝者は灰崎廻になるはずだ)


 そんな黒い笑顔に気付いていたのは三上春一人。彼女は平然と昼食を口に運んでいたが─────


「そして、また俺を狙ってきたのかと思った悠人が元カノにキレ散らかして、そこを動画に撮られたってわけ。親友としては嬉しい限りだけど、もうちょっと人目を憚るべきだったな」


「っ……ほ、本当なのか?その話は……」


「もちろん本当だし、まだ終わりじゃない。動画が理由で悠人は学校中から疎まれて、球技祭の試合中に先輩にリンチされるまでに至る」


「……」


「そんな悠人の災難も、決着が付いた。実はその元カノはずっと悠人の事が好きで、俺狙いだったってのは周囲に合わせた時に吐いた嘘だったと判明したんだ。で、ついに昨日仲直りが出来てさ。あ、そうだそうだ、その元カノの名前が──────」


「もうやめなよ、進くん」


 教室中が耳を傾けていた話が、そこで中断された。


「春?」


「教室の空気、最悪だよ」


 教室中が耳を傾け、鼓動を加速させ、汗を垂らし……弁当の中身を冷まさせていた時間だった。


 春の発言によって、各々が取り繕うように昼食を食べるのを再開する。


「……話してくれてありがとうな、線堂」


「あぁ……ごめんな、暗い話で」


「いや、俺が知りたがった事だから。……そうだ、俺が知りたがった────」


 残酷な真実。


 もはや悪人であってくれた方が良かった。確かに朝見星に心無い言葉を浴びせたのは完全な事実で、その行動自体は悪と言えるが─────来栖悠人という人間を悪人と切って捨ててしまう事など、もう出来なくなってしまった。


 公正な審判ならともかく、高校生である彼らには。


 そして─────そんな来栖悠人を、一部の情報だけで嫌っていたのもまた、彼らだった。


 無理矢理明るくしようとするも、クラス全体の雰囲気は落ち込むばかり。……数人を除いて。


「ほらなー?やっぱ来栖は悪人なんかじゃねーって。俺と荒川は正しかったんだって!」


「ちょっと、今そういう事言う雰囲気じゃないですよ……」


「フン。どんな過去があろうとも、来栖がやった事がカスなのは変わんねぇ」


「おぉう、マジですかい桜塚氏。アレを聞かされてもそのスタンスを取るとは……」


「……来栖自身が自分の行為について認め、批判を受け入れてんだ。僕達が『あの行為は悪じゃない』と意見を変えんのは、奴の決意を無駄にする事になる」


「うるせーな、お前はカッコつけてないで勉強でもしとけよ」


「クラス全体が線堂の重い話を聞いてんのに僕だけ勉強してるわけにはいかないだろうが……!」


 ─────と、気にせず会話を続けている彼らだったが、そもそもの声量が小さいためにクラスの暗さを塗り替えるような効果は無い。


「はぁ……なんだよ皆しんみりしちゃって」


「進くんのせいでしょ」


「はいはい。……じゃあ、こういうのはどうだ?」


「今度は何するつもりぃ?変なのはやめてねぇ」


「分かってるって……ちょっとした『悪さ』だ。何人か、俺と一緒に『悪さ』したい奴いないか?高橋は確定として」


「選択の余地無し!?何するつもりだよ……!」


「そう身構えるなよ。ただ─────」


 線堂進は指を立てて、今度は純粋な善意からなる笑顔で言った。


「放課後の悠人を覗いてみるだけだ。楽しそうに過ごしてるあいつを見れば、みんなも気が和らぐんじゃないかなってさ!」


「の、覗き〜?あの変な先輩にバレたら怖そうじゃねえか……」


「─────良いじゃん、面白そうで」


 不的な笑みを浮かべながら、クラスの視線を集めたのは西澤雪音だった。


「雪音……行くのは俺なんだけど。無責任な事言うなって」


「いや、線堂とあんたと行きたい奴でしょ?」


「……まさかお前……」


「そのまさかでーす。行っちゃいまーす」


「マジかよ……」


「おっ、西澤か!他に行きたい奴は─────」


 線堂進が振りまいたどんよりとした空気を、線堂進が払拭していく。クラスの中心人物である彼はその事を自覚していて、確固たる目的はありつつ……クラスの事を気にかける意志もあった。


 ─────が、彼は知らなかった。


 オカルト研究部である来栖悠人と灰崎廻の、今日の放課後の活動内容を……ッ!!!

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