では、心情の説明でもしましょうか 後編
※注意!話の繋がりの都合上、66話と67話を同時投稿しました。こちらは67話、後編となっております。前編を読んだ覚えのない方は、先に前話をお読みになって頂けると幸いです。
自信満々なムカつくニヤけ顔を披露しながら進は続ける。自分も約十年三上と付き合わないままなくせに。
「毒親とかさ、特殊なケースを除けば恋人より家族が大事なのはその通りだと思う。けど─────恋愛ってそこまでハードルが高いものじゃないんだ」
「そう、かな」
「つまり性欲から始まる恋もあるって事だ」
その言葉が、心臓の中まで深く突き刺さるような感覚だった。
「悠人は性欲と恋愛を切り離して考えすぎてる。……恋をする事への恐怖が、恋をする事イコール難しい事って考えるようになって……『恋愛』を『高尚なもの』っていう認識に変えてしまった。そうだろ?」
「そうだろって言われても……」
「お前の心の事ならお前より分かってるつもりだが」
「キモいって……」
「悠人が毛嫌いしてるラブコメ。お前は『セック●も含めてラブコメ』とか、『恋は性欲の延長線上』みたいな事言ってたよな」
「そ、そうじゃん。さっきの言い分と矛盾してないか?恋愛と性欲を結びつけて考えてるぞ、俺は……」
「違う。正確には、お前は『恋は結局性欲と同じ』って考えてて、『愛は性欲が関わらない』って考えてる。そうだろ?」
「うぐっ……なんかそんな気がしてきた……」
─────でも、進の言葉を聞いていく内に……自分の中のモヤモヤが晴れていくような気分になっていっているんだ。
『恋』の一面が強い恋愛を見下していた。『愛』の一面が強い恋愛を諦めていた。
だから俺は恋愛をするなら『愛』が良いと考えすぎていて……『恋』を否定していた、のかな。
「可愛いイコール好きでも良い。エロいイコール好きでも良いんだ、悠人」
「……それは分かったけどさ、どうしてお前はそこまで────俺が灰崎先輩を好きって事にしたいんだよ?」
「……」
何も言わずに再び歩き始めた進に、俺もまた無言で着いて行く。
「……これを言ったら、きっと悠人はすごい恥ずかしくなる」
「は?」
「言っちゃおうかなーどうしよっかなー」
「いや言えって!それで言わないのが一番嫌なパターンだろ」
「じゃ、言うか!……まぁ、アレだ─────悠人ってシコる時、現実の知り合いをオカズに使うのってほぼ無くないか?」
「……え?」
待て、こいつは何が言いたいんだ?
オカズを把握されてる事に対しては恥ずかしいなんて思わない。と言うか俺と進は定期的にオカズ報告会を開いているため、俺が恥じない事は進も知っているはずなんだ。
「使うにしても、卒アルの水着のところとかだろ?」
「そ、そうだけど」
「キモいな」
「それが言いたいだけか!?なんとでも言えよ……」
「いや、違う─────『現実の知り合いの誰かで抜こう』ってなった事なんて、ほぼ無いんじゃないか?」
「へ──────」
「さっき言ったよな。灰崎廻で抜いてるって」
瞬間、俺の脳に電撃が走る。
思い出される歴代のオカズの数々。自らの剣を研いだ記憶。血と汗と涙と精の時間。
その中には……進の言う通り、『現実の知り合い』はいなかった。
朝見と付き合っていた時でさえ、俺はpi●ivとかジャ●プ+のエッチなやつで抜いていたはずだ。
なのに、なのに灰崎先輩では───────えっと、四回はやった。
「し、しししし仕方なくね!?だってあの人は流石にエロすぎるって……!」
「だから、『そういう事』だって」
「ッ……」
顔が熱くなっていくのを感じる。
本当に……本当にそういう事なのか?でも……そんな……俺に、恋が……。
「俺はこんな風に言ってきたけどな、悠人。あんな経験をしてたらそりゃ、誰かを好きになるのを拒んでも仕方ないと思う。だからお前はまだ、灰崎廻の事を好きじゃないってのも事実かもしれない」
「……」
「ただ─────やっぱり俺は悠人に幸せになってほしいからさ。恋愛に挑んでみても良いんじゃないかって、そう言いたかったんだ」
─────思い出すのは、今日の……少し前の、部室での出来事。
『灰崎先輩とは、ちゃんとした流れでそういう事したいです』
朦朧とする意識の中で放ったセリフは、今思えばかなり恥ずかしいものだ。だが、俺は心の底からの思いを伝えたつもりだった。
付き合いたいとか、強く思っていたわけじゃない。波動で意識が飛びそうだったけど、そんなのが理由で誘いを断るわけがない。例え倒れる寸前でも俺は飛び込んでいくはずだった。
でも─────あの時の俺は、『進との記憶』を思い出していた。
「お前さ、昔言ってたよな」
「俺?」
「『春とは然るべき時に、最高のシチュエーションでヤりたいんだ』って」
「……悠人、それ絶対春に言うなよ?絶対だからな?」
懐かしい。中学生の頃だ……俺が進の家に上がり、部屋に入った時の事。
進のオ●ニー現場に遭遇してしまった最悪の状況だった。
『あ、ご、ごめん……』
『マジでふざ……ふざけんなよ!っつーか早く出てけって……』
『……ぷっ、ぶふふっ』
『出てけって…………もうマジで……ないわお前……』
『いやww激しすぎだろってww……でも、お前ら両思いだろ?速く付き合ってセック●しろや』
『それは……』
『ダサいんだよ、いつまでも告白しないの。んで周りから『お前ら速く付き合っちゃえよ〜』って言われるの待ってんだろ?きっしょいな、クソが』
『っち、違うッ!俺は、俺は─────── 春とは然るべき時に、最高のシチュエーションでヤりたいんだッ!!』
……そう、そうだ。あの言葉を思い出して、俺は性欲に勝って踏み止まったんだ。このまま流れであの人とやるのは、何故だか嫌だった。
もしかしたら、そう思う事自体が──────
「恋かもしれない、か」
……なれるのなら、なりたい。
────いや、なって見せる。
「ラブコメの主人公ってやつに」
俺と……灰崎先輩かもしれない誰かの、小さなラブコメ。過去と波動に打ち勝ち─────実現してやる。




