では、心情の説明でもしましょうか 前編
※注意!話の繋がりの都合上、66話と67話を同時投稿しました。こちらは66話となっております。この話の後に67話をお読みください。
あの後、豪火君は先に帰っていた進と三上に追いつき、久しぶりに三人で帰った。
他愛のない会話をする中で……進と三上を見ていて、改めて実感した。
この二人はきっと、互いが互いを好いている。
それでも『付き合おう』ってならないのは、きっと──────大きな理由がある。
「じゃあねぇ、二人ともぉ」
「あぁ、またな」
「じゃあね」
三上が離脱し、男二人が無言で足並み揃えて歩く時間が少し続く。
「なぁ」
「ん?」
「なんで三上と付き合わないんだ」
「……」
「また、『言えない』ってか?」
俺が何度もこの質問をしても、進はそう答えるんだ。……ま、理由なんて想像付いちゃうんだけどな。親友だし。
「寝取られても良いのかよ。リアルNTRは嫌なんじゃないのか?うじうじしてたらデカ●ンの先輩に……ってのはテンプレ展開だよ。俺は実感したからその辛さを知ってるけどな、やばいぞ」
「だから俺寝取ってないって。……そう言う悠人はどうなんだよ」
「は?寝取られるも何も、その相手がいないだろ」
「灰崎廻はどうなんだ」
「いやいや、違うって」
「……」
「……」
再び、沈黙が流れる。
……俺、なんか変な事言ったか?マジで自覚無しなんだけど……。
「何が?」
「え」
「何が『違う』んだ?」
「それは……アレだよ、あの人は多分、俺の事が好きなわけじゃないって事」
今日の『ご褒美』は流石に驚いたが、まぁビッチならあれくらい普通……なのかな?知らんけど。
「そうじゃないだろ」
「え、いや、そりゃまぁ他人の感情なんて予想でしかないけど」
「そうじゃなくて─────重要なのは『悠人が』灰崎廻を好きかどうかだろ!」
いつになく真剣な表情で進は言った。立ち止まって、俺の肩を掴んで、目を見開きながら。
「……どうなんだよ」
「それ、は──────」
進の言葉が脳を一周し、しかし少し考えたところでその答えが意外と簡単なものだと言う事に気付いた。
「好きじゃないけど」
「……」
「普通に考えてさ、当たり前じゃね?出会ってまだ少しの人を好きになるとか、あり得ないでしょ。親とか兄弟とか、あと……お前と三上とか、そこまでの付き合いにならないと愛って生まれないだろ。確かに灰崎先輩の事はエロいし可愛いって思ってるし普通にオカズにしてるけど、恋愛的な好きってのとはちが……」
「分かったぞ、悠人。お前の心理が」
「……え?」
「親友だからな─────お見通しだ」
そう言った進は自慢げに、しかしどこか悲しそうに笑った。
「お見通しっつーか……今のが本心なんだけど」
「あぁそうだ!お前は心の底からそう思ってる。それに間違いは無い」
「……なら、何が─────」
「悠人、お前は……『恋愛』という概念に対する認識が歪んでいる」
「……?」
ビシッと人差し指が突き出され、進は続ける。
「なぁ悠人。俺が春を好きになった理由って何か、覚えてるか?」
「えーっと確か─────」
過去に意識を飛ばす……必要は無い。インパクトのある発言だから覚えてるぞ。
「『胸がデカい』からだったな」
「そうだッ!」
「んな自信満々に肯定する事じゃないだろ……」
わざわざ思い出す必要は無いのに、記憶が勝手に引き出されてくる。
あれはそう、小学三年生か四年生か五年生か六年生か……いや全然絞れてないんだが。確か三から六……六は無いな!三から五の間の出来事だ。
『悠人……』
『何?』
『春、さ……』
『うん、春がどうかしたの?おーい、はr』
『バカお前ッ、死ね!』
『は?ちょ……いたっ!?急に殴んのは意味ふめーすぎんだろ……』
『最近の春、ムネでかくね……?』
『……』
『……ムネ…………でかくね──────』
あぁそう、こんなんだった。やっぱ思い出さなきゃよかったよ、こんなクソみたいな記憶。
「ほらな!」
「何がほらだよ」
「恋に落ちる理由なんて─────案外くだらないんだぜ」
「!」
その言葉で、俺はようやく進の言いたい事を理解した。
「漫画とか……それこそラブコメとかでさ。『一目惚れ』ってあるだろ?あと、俺みたいなイケメンに恋焦がれる系の少女漫画とか」
「わざわざ『俺みたいな』って付けてウケ狙ってくるのやめろ、キモい」
「ククク、手厳しい」
だが、確かに……アニメ漫画とかでの『恋愛』ってそう言う始まりが多いな。
「良いか?悠人。多くの場合、恋愛は見た目とか声とか趣味の一致とか身体の相性とか、どこか一箇所から始まって……その後合うか合わないかは付き合ってからって場合もあるんだぞ」
「え!?!?!?」
「やっぱそれを知らなかったか……」
「え……?付き合ってからお互いの事を知るって……そんなのアリなの……!?」
「ラブコメとかエロ漫画のセリフでもあるだろ、『●●から始まる恋があっても良いんじゃない?』とか『あのさ、私達付き合っちゃおうよ。こんなに気持ちよかったんだしセフレじゃ満足出来ないって……ね?良いでしょ?』とか」
「声色を女に寄せるなキモいから!しかも二個目のやつは多分お前が最近抜いたやつだろ、一個目と比べて明らかに解像度が高い!」
「ククク、でも……俺の言葉に納得しているのも事実、だろ?」
「まぁそうだけどさ……」
「もちろん、全部のラブコメがそうじゃないみたいに、互いの事をよく知ってから交際に発展するパターンもある。ただ……理想論っていうか、さ」
「言ってる事は分かるよ。……そうだよな」
これを言っている進自体が三上と付き合っていなくて、恋愛についてはっきりと言いづらいのも分かってしまった。
あぁ。俺は今までよくいる学生カップルとかに対して、『偽りの恋愛』だろ……みたいな感想を抱いていた。『好き』だの『愛してる』だの、そんな言葉を学校でたまたま知り合っただけの他人に使えるわけないだろって。どうせ嘘だろって。
……違ったのか?
ずっと恋愛なんて自分には無理だと思っていた。他人を本気で愛する事なんて、傷付く事を恐れて出来ないって思ってた。
誰かを好きになるのが怖かった。
でも、その前提自体が違うのなら、俺は─────恋をして良い、のか?
 




