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一気に走り抜けられるまで練習しましょう

「ほ、本当に行くのかい?」


「え?」


「オカルト研究部に……」


 不安げな表情で、榊原殊葉はスタスタと歩みを進める朝見星を追う。


「行くけど。……あ、別に無理に私に付き合わなくても良いよ、ごめんね……」


「あぁえっと、そうじゃなくて!いやそうなのか……?」


 友人として、星の恋を応援するのならば自分は一人で帰るべきだと殊葉は思っていた。しかし先ほどまでの星の様子を見るに、悠人と二人きりにさせておくのは少し不安があり……何かがあった時に悠人だけでは対処しきれないかもしれない。


 ……だが、それとは別に殊葉は─────あの部室に行きたくない理由を持っていた。


「あの先輩、少し苦手なんだ。それで……」


「あはは、気持ち分かるかも……よく分からないよね、あの人」


 灰崎廻。二人は同じ人物を思い浮かべているが─────それぞれ別の思いを抱いていた。


(こっちを見ているのか見ていないのか分からない感じがどうにも不気味で……人を見た目で判断するのなんて、良くないんだけどね……)


 榊原殊葉は廻の視線、雰囲気に怯えていた。


(─────どうして、あの人が来栖の側にいるのかが分からない)


 だが朝見星は……来栖悠人と灰崎廻の関係性に違和感を抱いていたのだ。


(来栖が苦手そうなタイプだし、わざわざ線堂と三上さんと離れてまであの先輩と一緒にいる理由……逆に、あの先輩が来栖といる理由も分からない。もし来栖を利用しようとしているなら─────)


「手段は選ばないかな」


「ん?どうかしたかい」


「いや─────速く行こ」


 星は『チャンス』とまで考えていた。来栖を悪女から救えたのなら、それは来栖への信頼に繋がるだけではなく線堂進を出し抜く事にも繋がる。


 最大限の償い。歪んだ愛の矛先は、既に突き刺す方向を決めている。


 その上で、無視出来ない矛盾も……感じていた。


(来栖が誑かされてるとしたら──────どうして線堂はそれを無視しているの?)


 来栖悠人のためなら、来栖悠人を愛する自分のためならなんでもする男……星は進の脅威を十分理解していた。


 だからこそ感じる矛盾。あの線堂進が、灰崎廻を放置するはずがない。


(線堂が灰崎廻について何を知っているか……それも私が部室に入れば分かるかも)


 剥き出しの敵意を抑えながら、二人は部室の前に立った。


 その中で何が起こっているかも知らずに──────笑顔を作って、星は扉を開けた。












 ー ー ー ー ー ー ー










「オイオイ、男を見せろよ来栖クン……」


 何気ない言葉すら、エロ漫画みたいに吐息がもあってした感じに聞こえる。あのもあってやつ。冬場に喋ってんのかってくらい吐息白くなるやつ。


 ─────理由は一つ、俺の上に座る灰崎先輩。


 それっていわゆる?うん、対●座位だ。対面座●じゃん!!!!!


「ま、ままままずいですって!!」


「何がァ?」


「い、今の時代のジェンダー感に『男を見せろ』とか合わないですって!!」


「普段から女がクソとかどうのこうの言ってるミソジニストがジェンダー語るたァ、ギャグだね。良いからさっさと見たいモノしたいコト言ってくれよォ」


 まずい。本当にまずい。何がまずいかっていうと、あの、普通にガチガチに愚息が起立してしまっている。イナズ●イレブンくらいリーヨしてしまっている。多分、というか絶対バレてる。


 ただ、バレてるだろうに先輩はそれに言及しない─────これまた、エロいね!


「お、おおおお俺は!俺はあんたみたいなビッチに屈したりなんか……したい……」


「したいのかよ。……んじゃまァ、良いよ。こっちから提案してあげよう」


「へ」


「まずはオーソドックスに、おっぱいとか?」


 アニメ漫画ゲームに毒された価値観からすると大きいと感じないくらいの大きさだが、現実的に考えると大きいと言えるかもしれない。


 それくらいの規模の灰崎先輩の双丘が───────所有者本人の手によってふにゅんと歪む。


 いや、本当にふにゅんって鳴った。嘘吐いてない。


「おっ、お……おっ……」


「『見る』でも『触る』でも良いよね。あとはマニアックに─────」


 灰崎先輩の指先は胸元から下降していき、腹部のところで停止した。


「おへそとか」


「ッ……」


 ものすごく見たい。一般的なメディア上に絞ってもグラビアアイドルやらで女体のへそなんぞ見慣れたものだが、同級生先輩後輩のそれとなると話が違う。愚息を握りながら卒業アルバムを見て、腹チラシーンが無いか血眼になって探したあの時間を忘れやしない。


「そ・れ・と・も……」


「そ、それとも……?」


「もうちょっと下にイっちゃったりィ……?」


「もうちょっと下ぁ!?」


 白い指先が──────スカートの上から『あそこ』を示した。


「い、いやいやいやいや!流石にそれはもうセッ●スじゃないですか!!セック●!!」


「あ、したい?」


「えっ」


「うーん……良いんじゃねェ?優勝までしたんなら流石にさァ」


 ──────何が起きている?この人は何を言っている?


 目の前の光景は……本当に現実なのか?


 いや、確かに俺は……『ビッチと仲良くなれば俺でもワンチャンあるかも』というスケベな漫画的展開を期待していた。


 でも俺は、マジで……童貞を卒業してしまうのか?


「さァ、どうするんだィ……」


 耳元で囁かれた途端、身体と主砲が跳ね上がる。


 ─────あぁ、どうするんだ?俺よ。


 混乱の渦と甘い波動に包まれた俺の思考は、やがて迷走していき─────情景を脳に映し出した。


 まるで走馬灯のように、唐突に過去の記憶が走り抜ける。


『よう!おれはせんどうしん!おまえ、みるからに『いんきゃ』だしともだちになってやるよ!』


『悠人、チョコやるよ。ほら食えって。……美味い?あぁ良かった、それ他のクラスの知らん女子の手作りチョコだから食うの怖くてさ』


『引きこもるんなら俺のデータで素材集めててくんね?いやマジ助かるわw不登校最強だろw』


『うおおおおおおおお!!春ッ!春ぅぅぅぅぅぅうう……え、悠人?ちょ、まっ、は?なんで勝手に部屋に入って来て……は?いやだる、お前ガチで……は?は?』


『はい悠人くんこんにちはァ!致してる声部屋の外までバレバレだぞwwアレがデカいと声もデカいのか、って…………え、待って?もしかしてお前…………いやそこで抜くのは流石にマニアックだろ……』


『悠人、悪いけどさ……原●は楽しめたけどスタ●レイルの方はあんま合わなかった』


『正確に言うと、悠人が傷付くのを見たくない俺のため、か。悠人は朝見が飛び降りて死ぬより、奴がこの高校に居続ける方がマシとか思ってるんだろうが……俺は断然逆だ。そのためなら何だってしてやる』


 ダメだ。走馬灯なのにゴミみたいな記憶しか流れない。親友のキモすぎ発言ランキングみたいな感じで流さないでくれ、俺の脳。


(でも、そういえば……)


 ……線堂進という男の記憶が流れた事により─────ある事を思い出した。


 灰崎先輩の問いに対する明確な回答を、そのヒントを……俺の親友は残していてくれた。


「遠慮ならいらないぜ?流れでシちゃったりするの、ワタシは慣れたもんだからさァ……」


 ─────そして、その言葉を聞いた瞬間……覚悟はさらに固まった。


「……灰崎先輩──────」

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