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あそこでリタイアすると報酬が豪華になるんですよね

「ありがとね、こっちゃん」


 階段を下りながら、榊原殊葉と朝見星は気まずい空気の中の対話を試みていた。


「私なんかのためにここまでしてくれて」


「……そうやって自分を卑下するのはやめてくれよ。これからは─────償いの時間だろう?」


「そう、だね。償い……来栖は償うのを許してくれた」


 公園で再開した時、来栖悠人は言った。『どうして悪人のままでいてくれないんだ』と。それが彼の本心だったはずだ。少なくとも朝見にはそう聞こえた。


 が、先ほどの悠人はどこか吹っ切れた様子で星を受け入れた。


「でも、どんな事すれば良いのかな。ずっと考えてきたけど……やっぱ分かんない」


「それこそ、ボクと一緒に考えようじゃないか!今回も結局、来栖君頼りになってしまったし……うん、ジュースもう何本かは奢らないと償いにはならないかなぁ……」


「……ん?待って、こっちゃんは別に償いなんてする必要無くない?」


「えっ」


「そうでしょ?」


「あー……ははは。えっと、その〜……」


 ──────今になって『痴漢冤罪をふっかけました』と白状するのは、だいぶ難易度が高かった。


 冷や汗をドバドバと垂らす殊葉にとっての救いの手は─────


「よう、悠人と仲直り出来たみたいだな」


 ……二階で待ち構えていた、線堂進の姿だった。彼は笑顔とも真顔とも取れる不気味な表情をしており、今は隣でスマホをいじっているだけとは言え、普段は人気者な三上春に気付きにくいくらいの異様なオーラを放っていた。


「いやぁ、良かった良かった。悠人は三年前からこの件でずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっと苦しんでたからさ。親友として解決が嬉しいばかりだ」


「あ、あぁ、そうだね……」


「何が言いたいの?」


 そんな進に臆する事なく、星はその真っ黒な視線を彼に飛ばした。


「言いたいも何も、ただただ嬉しいだけだ。これでようやく悠人も─────『次の恋』へ往ける」


「っ!」


「お前なんかに植え付けられたトラウマを払拭して、お前なんかより良い女と……な」


「せ、線堂君!そんな言い方は──────」


「そうだそうだ。悠人がお前達にどう伝えたのかは知らないが、あいつはまだ帰ってない。今もきっと、オカルト研究部の部室にいるだろう」


 スマホを眺めたままの春の肩を抱き、進は階段を下り始めた。


「『友達』なんだろ?一緒に帰ろうとか、それくらい言ってみたらどうだ」


「……」


 険悪なムードのまま、二人と二人は別れた。


「……性格悪いねぇ、進くん」


「どこがだよ」


「悠人くんに負けた腹いせに、朝見さんに居場所をバラすなんてさぁ」


「ククク、悪いとは思ってるけどな。でも目的はそれだけじゃない……」


 三上春は─────線堂進の想いの方向が、完全に来栖悠人に向いている事に対して若干の嫉妬を感じつつも……慣れたものだ、と諦めのため息を吐いた。


「朝見に実感してもらうんだよ。悠人を灰崎廻に取られた時の俺達の気持ちをな……!!」


「うん、『達』って付けないでねぇ?」

















 ー ー ー ー ー ー ー

















「ッ、ッ……ッ!!!」


 朦朧とする意識。爆発する波動に軋む身体は、俺の理性にもう休めと叫ぶ。


 ─────が、本能がそれを許さない。俺の三大欲求、性欲と性欲と性欲が理性をぐちゃぐちゃに食い散らかして支配している。


 黒パンツ最高。


「……お〜い。いつまで見てんの」


「……」


「スースーするしそろそろ良い?」


「え!あ、あぁ……はい……」


 慌ててスカートから手を離すと、灰崎先輩は椅子に座り……見えないはずのモノがいつも通り見えなくなってしまった。


「感想」


「えっ」


「感想を述べよ」


 顔を赤らめるわけでもなく、妖艶に微笑むわけでもなく、ただただ圧をかけてくるような灰崎先輩の真顔が、少しだけ俺の酔いを醒めさせた。


「す、すごかったです」


「感想のクオリティ小学生かな?」


「もう、本当に…………やばかったです」


 頭が真っ白で何も考えられない。こんな……いや高校生がこんな事しちゃダメだろ!!ダメなのに、なのに……生まれてきて良かったって、思うんだよ。ここまで両親に感謝したのは不登校を許してくれた時以来だ。


 でもこの様子だと──────『あの事』は言わなくても良さそうだな。これ以上は俺の身が保たない。


「とにかく、その……あ、ありがとうございました」


「ふははは、変な言い方ァ」


「いやその、本当にエロすg……凄すぎてつい……」


「─────もう終わりみたいな言い方して、変だねェ来栖クンは」


「……え?」


 逆に、俺が言いたかった。


 どうして『まだ続く』みたいな言い方をしているのか、と。


「ワタシが知ってるのに来栖クンが知らないなんて事あるかなァ」


「な、何を言って……」


「まァ当日いなかったもんねェ。『自分のチームの最終成績』を知らなくてもおかしくない─────かなァ?」


「ッ……!」


 ─────バレている。


 荒川が俺に伝えてくれた『あの事』は、やはりバレていたのか……!


「ワタシ、言ったよね?一回戦突破がパンツ。その先の二回戦三回戦以降も、もし勝てたらご褒美をあげるってさァ」


「……」


「じゃあさァ、『優勝した』キミには─────どんなご褒美をあげちゃおうかなァ?」




 昨日の夕方に荒川から送られてきた衝撃的なメッセージ。


『驚いた勢いでまた怪我しないでほしいんですけど』


『優勝しました、自分らのチーム』


『助っ人の線堂君があり得ないほど無双して、自分らは何もしないで終わりましたけど』


 そんな事をして俺が喜ぶはずがないというのに、進は自分の長所を活かしていらん事をよくする。俺を虐めた女子達にも、当時の進は少しちょっかいをかけたらしいし……やれなんて一言も言ってないのにな。


 ただ、今回に限っては褒めちぎりたいくらいに有能ムーヴをかましてくれたのが俺の親友だった。進が優勝させてくれたおかげで、俺は『ご褒美』を全て受け取る事が出来るようになってしまった。ムカつくから『色々と感謝している』の一言以外は意地でも感謝しないけど。そもそも『ご褒美』の事自体他言したくないし。


 まぁ─────俺の身体がご褒美に耐えられるかなんて、当然考えてなくて。


「ねェ、ナニが欲しい?言ってみろよ!」


「あ、いや、その」


「二回戦の分、三回戦の分、準決勝の分、決勝戦の分と四つもあるぜェ?」


「そ、そそそそそうなんですけど、でも、あれです」


「もしかしていらないの?パンツ以上の事が待ってるってのにィ……遠慮しちゃう?」


「い、いやいります!いるんですけどね、でも今は──────」


「オイオイ、男を見せろよ来栖クン……」


 そう言った彼女は硬直する俺へと近付き───────脚を開き、俺の太ももへと降下させる。


 つまり、俺の上に座っている。


 つまり、俺の張り切った愚息に重圧がかかる。


 つまり、俺は──────もうどうにかなってしまうかもしれない。

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