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「……けほっ。あー、喉いてー」


 朝見から『あるもの』を受け取った後、俺はすぐに階段へと続く扉を開き─────


「うおびっくりしたぁ!……進、と三上か」


 目の前に立ち尽くす進と、進にお姫様抱っこをされている三上に声を上げてしまった。


「その様子だと成功したみたいだな」


「あぁ、俺の勝ちって事で」


「……そうだな、今回ばかりは……負けだ……クソがッ!」


「キレすぎだろ……」


「進くん、わたしを運んで駆け上がって来てぇ、このドアからそっと覗いて……ふふふ、その瞬間がっくりって項垂れたんだよ!あー変なのぉ!」


 楽しそうに笑う三上だったが、三上を抱えている進は心の底から悔しそうな顔をしていた。ゲームで負けた時でも中々見せないような苦虫を噛み潰したような表情。


 加えて身体も所々が傷ついていて……それでも今の俺よりは軽症っぽくて、あの豪火君相手にそこまでの怪我で抑える事が出来た進のキモさを改めて実感する。


「詳しい会話は聞こえなかったから聞くが……また付き合うのか?」


「なわけ」


「だよな!頷いてたらぶん殴ってるところだった」


「友達からやり直そうって落とし所付けといた」


「は?……正気か?あのクソ女を……友達だって?」


「ふははは。心が広いんだぜ、真の漢ってやつはァ」


 言い終えてから─────今の言い回しが完全な『受け売り』で、『伝染』したものだと気付いた。……『あの人』と話した事のある奴なら誰でも分かるくらい、影響された言い方をしてしまった。


「……なんてな」


 気恥ずかしさを誤魔化すように、脚を早めて進を追い越し、階段の手すりを掴む。


「絶対に後悔するぞ」


 いつになく真剣なトーンの進の言葉は──────俺を止めるには十分だった。視線を交わさないまま、背中で会話をしている気分だった。


「友達が一人増えたくらい、どうって事ない」


「……思えば、悠人の言う通りだったな。『痴漢されている女を助けなければフラグは立たなかった』」


「……どういう意味?」


「悠人と榊原の間に縁が出来なければ、朝見は今頃ぐちゃぐちゃの肉塊に成り果てていただろうに。お前の忠告を聞いておくべきだったな」


 ─────確かにそうだ。あの時、俺は進と榊原のフラグが立たないよう行動したが……結果的にあれは、俺と朝見の仲直りというフラグに変わってしまっていたのか。


「ククク……俺をモテるとかイケメンだとか言う割には、本当の主人公はそっちじゃないのか、悠人」


「お前をラブコメから庇った結果だろうが」


「進くん、自分でそういう事言うのやめた方が良いと思うよぉ」


「……とにかく。困ったら相談しろよ、今度こそ自殺させてやるから!」


「はいはい。……進には()()()感謝してるけどさ、変に暴走すんのはやめてくれよ」


 俺は適当に手を振りながら、進と三上を置いて階段を下っていく。


「先、帰っててくれ」


「……寄るのか?」


「うん」


 傷だらけだし、吐き気はするしで最悪の状態だ。それでも今帰るわけにはいかない。


「三上の前で言うのもアレだけど、今回の件で女のクソさを再認識したよ」


「うん、本当にアレだねぇ」


 自殺をほのめかして、それで俺の気を引いて、結局復縁しようとしてきて……一連の行動を切り取ればただのクソ女だ。……朝見だけじゃない、詩郎園やら生徒会長やら榊原やら、ほとんどの女はほんのり嫌いだ。向こうが悪くないと分かっている場合でも、俺が許すと公言していても、なんとなく嫌悪感は残っている。


「ただ……今はどうでも良いんだ。マジでどうでも良い。朝見がどうなろうと、俺に何をしようと……これから先考えれば良い」


 ただそれでも─────すぐにでも向かわなければならない場所があった。


「俺は今から……女の良さを体感しに行くんだからな」














 ー ー ー ー ー ー ー













 口を濯いだ事で不快感はだいぶ減った。まだ少し頭がぐわんぐわんするけど……既に俺の足は勝手に進んでいた。


 下駄箱ではなく、二階の教室の扉の前に。


「……ふぅ」


 少し呼吸を整え、勢い良く扉を開ける。


「やァ」


 いつものように、変わらない表情で─────灰崎廻は座っていた。


「そのヘアピン……俺が来るって分かってたんですね。波動ですか」


「いやいやァ?もしかしたら来栖クン以外と会う時にも付けてるかもしれないぜェ?」


「だとしたら良い気分ではないですね」


「ふははは、素直になれってェ─────あれ?ちょ、今なんて……」


「朝見の気色悪い波動を至近距離で浴び続けて気分が悪いって言ったんです」


 パイプ椅子に座った瞬間、妙な安心感が尻と背中に伝わる。


「…………来栖クン?」


「なんでしょうか」


「どうしてワタシの正面に座る事すら躊躇ってたキミが─────ワタシの隣に座ってんのかなァ?」


「隣に座りたいからです。気にしないでください」


「ンゥ…………じゃ、気にしないよ。まずは自殺阻止成功おめでとう……で、合ってる?」


「知ってたんですか」


「榊原サンから話は聞いてたからさァ。……どうする事になったんだィ、朝見サンとは」


「友達になりました。それだけです」


「あらあら、復縁はしなかったと!もったいないねェ、また彼女出来るチャンスだったのに」


「そんな事したらここに来れなくなるじゃないですか」


「…………あ、あのさァ、さっきから何?なんか、いつもと雰囲気が違ェっていうか……い、言い回しが、そのォ……」


 様子を伺うように俺を見る視線への返答は…………俺の心の叫びだった。


「灰崎先輩、昨日は避けててごめんなさい」


「あァ随分ストレートに来たね。ってかごめんなさいはやめろよ、高校生が言うときしょい」


「灰崎先輩が思ったよりキラキラした青春送ってて、そんな人とこんな俺が一緒にいて良いのかなって思っちゃいました」


「……やけに素直に言うじゃん」


「で、その全てを水に流してもらって、それとは別にお願いがあるのですが」


「うーんクソ図々しい上に急展開!」


 俺は少しだけ灰崎先輩への距離を椅子ごと近づけて……言った。


「『ご褒美』ください」


「……ン?」


「言ったじゃないですか、一回戦勝ったら──────パンツを見せてくれるって……ッ!!」


「……」


 ポカンと口を開けていた灰崎先輩は、数秒経った後に呆れたような顔で「かァー……」と嘆きとも取れる声を漏らした。


「どんなとんでもない事をお願いしてくるかと思ったら、パンツかィ」


「とんでもない事ではあるじゃないですかッ!パンツですよ!?」


「いやそうだけどさァ……ま、良かろう!見せてあげよう、ラピ●タの雷を」


「パンツ以外いらないです!!!」


「冗談だってェ……」


 ため息混じりに灰崎先輩は立ち上がる。


(……マジか、ついに、ついに、ついに……!!)


 俺は朝見に言った。『もうどうでも良い』と。


 そりゃそうだろ!!今日この後パンツ見れるってのに元カノとのくだらねー喧嘩なんていつまでもしてられっかよ!!早く切り上げられんなら友達くらいなってやるよ!!


 ……だが、そんな俺の期待を裏切るように─────灰崎廻の動きはそこで止まった。


「……灰崎先輩?あの……」


「ン?早くしろよ」


「え、いや……」


「──────早く捲れよ」


「な……っ!?」


 ニヤリと口角を上げた灰崎先輩が俺を見下ろす。


 ……想定外の展開。先輩の方からたくし上げてくれる姿を勝手に想像していたが……まさかこう来るとは……ッ!


「ン〜?見たくないの?パンツ見たいんじゃないのォ〜?」


「み、見たい、です、けど……」


「勇気出せよ童貞クン。何も、花嫁のヴェールじゃねェんだ……強引に一気にバッとやっちゃっても良いんだぜ」


 ─────ラブコメの波動は、俺の全身を包み込んでいる。不快感を打ち消すように心地良い波動が俺を酔わせ、同時に逃げる言い訳を排除されたような感覚。


 ドクン、ドクンと心臓がクソデカジャンプをかます。人生で一番じゃないかってくらい緊張してる。


「ッ……」


 スカートを……つまむ。両手の指でしっかりと。


「……!!」


 そして徐々に手の位置を上げ─────普段は見えないはずの太ももの付け根の近くが顕になっていく。


(ダメだこれエロすぎる。太ももはもちろん、この状況自体がエロい。先輩のスカートを合意で捲ろうとしているこのシチュエーションがヤバい)


 興奮しすぎて脳がイカれそう。あと普通に股間が窮屈で痛い。


 だがそれ以上に─────人生で一番緊張している今、俺は人生で一番集中していた。


「さァ……ラストスパートだぞ」


「ッ……!!」


 爆発しそうな心臓、感情、血管、股間、元カノと良い感じに仲直りした直後に他の女のパンツを見ようとしている自分への違和感、全て押さえ込み─────神経を目に集め、俺は力を込めた。


 何故か漂う良い匂いと、捲られた風圧が同時に迫り、そして……。


「──────」


 俺は絶景を前に絶句した。


 脳内では視覚と妄想が解釈一致する音が鳴り─────焼き切れるほどに『黒』という色を記憶に刻み込んでいた。

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