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攻略ルートは既に決めました

「はぁっ、はぁ……!」


 砂漠くらい乾燥している肺を稼働させながら、俺は下駄箱にたどり着いた。


「靴しまってる場合じゃねえ!」


 そこら辺にスニーカーを放り、上履きに履き替えた俺は階段目指して全力ダッシュ。


「いってぇ……」


 身体中の節々がズキズキと痛む。特に足だ。打撲の部分がヤバい。間違って転びでもしたら─────想像したくないな。


「……あれ?そういえば─────」


 確か、屋上は東階段か西階段のどっちかからでしか行けなかったはず。俺は今咄嗟に東階段を登っているけど、もしかすると登り切った先が行き止まりで、西階段まで回らないといけないかもしれない。


「気にしてる場合じゃないか……!」


 一段飛ばしで跳び、跳び、臆する事無く走り続ける。膝が悲鳴を上げる中、一階の踊り場まで来れた──────。


「……おや、君は……」


「来栖悠人!?」


「あぁ?」


 そこにいたのは二人の女子生徒。


「おい、階段は走るんじゃない。ましてやその傷……もう一度転びでもしたらどうする」


 有能風無能ポニーテール女生徒会長の頼藤世月。彼女が話していたようだった相手は……意外な人物だった。


「……ごきげんよう」


 ガチで嫌いだったけど兄貴がアレなせいで少し同情出来そうになってきたお嬢様の詩郎園七華。笑ってるのか怒ってるのか分からない表情で階段を駆け上がる俺を見下ろしていた。


「……ふふふ。積もる話もあるでしょう、少しお茶でも─────」


「うるせっ、そんなんどうでも良いんだよ今は!!」


「えぇそうです!お察しの通り、昨日の球技祭であなたを襲わせたのは私────ん?待ってください、今どうでも良いと仰りましたか……?」


「どうでも良いから屋上に行けるのは西階段か東階段かどっちか教えろ!!」


「そっちの方がどうでも良くないですか!?わ、私……首謀者ですよ!?」


「おい君、今まで私と10分くらい話しててそれを自白しなかったのに急に暴露しだすのはどういう事だ!!」


「良いから早く教えろよッ!」


「あぁ、こっちの東階段から行けるはずだぞ」


 生徒会長の言葉が響いた時にはもう二階に着いていた。折り返しだが……気は抜けない。


「はぁっ!はぁ……ひゅっ……ゴホッ!がはっ……」


 小さい頃に治ったはずの喘息がぶり返したような気分。とにかく肺が焼けそうだ。膝から下がもげそうだ。単純に体育倉庫裏から全力で屋上まで走る事自体がキツイのに、全身包帯グルグルにされるくらい最悪なコンディションで挑んでいる訳で、そりゃ辛いよ。


「はぁ、はぁ……嘘は吐いてなかったみたいだな……!」


 手すりを掴みながら、俺は三階から上へと繋がる階段を確認した。


「あと……すこし……」


 膝が痛い。とにかく膝が痛い。ついでに何故か怪我してる訳でもないのに肘の内側が痛い。腕を振りすぎたのか?


「はぁ、はぁ、ふぅ……はぁ、はぁ……!」


 登った先にあったのは─────夕景を映し出す長方形。吹き抜ける風とその景色が、ドアが既に開いている事を俺に理解させる。


 ドアを開けるという些細な動作すらも省略できる喜びを感じながら、その先へ足を進め……目撃した。


『これから死のうとしている』人間の、真っ黒な瞳を。






「まっ、待ってくれ、星!」


「ありがとう、こっちゃん。こんな私のためにここまで言ってくれてさ」


「ち、違う……その、今……あの部室には、来栖君は─────」


「そうだな、いないな」


 荒い呼吸を必死に抑え、俺は二人の前に姿を見せた。


「来栖君!来てくれたんだな……!」


「……へ?来栖……?」


 榊原は涙ぐみながら……というか鼻水を垂らしながら振り返り、朝見はフェンスに掴まったまま俺を見ていた。


 呆然とした顔で。なのにどこか嬉しさや悲しさがある表情で。


「……なんで?星が呼んだの?」


「前から来栖君に相談していたんだ。星の様子がおかしいって。だから……」


「いや、良い。もう良いよ、榊原」


「え?」


「こっからは俺一人でやる。っていうか……二人でしかしたくない話とかあるからさ」


「あ、え……」


「出来ればそれが良いんだ」


「…………じゃあ、頼んだよ」


 扉が閉まる音が後方で聞こえた。


「……」


「……」


 静寂の中、俺たちは見つめ合い─────先に目線を逸らしたのは朝見だった。


 ……冷静に、少しだけ考えておいた説得文を脳内から引き出す。


「進の事を好きな女がさ、いるんだ」


「!」


「そいつは三上を進から引き剥がすために、二人と仲が良い俺を手駒にしようとして……俺とお前の例の動画を撮って、脅してきたんだ。従わないと拡散するぞって」


「それで、従わなかったんだ」


「うん。で、思い通りにならなかった俺に腹を立てたのか知らないけど……わざわざ試合の組み合わせとかイジって、裏から昨日のアレを仕組んでたらしいんだよ」


「……で?」


「だから……アレだよ」


「私のせいじゃないって?そんなわけないでしょ」


「……」


「嘘、吐かないでよ」


「……」


「最期くらい……本当の事言って、本当の事言われたい」


 会ったばかりの頃は活発な印象だった朝見がこうして自殺しようとしている状況を、正直言ってまだ受け入れられていない。


 でも目の前の光景は現実で、朝見星は……俺の手を引いて、俺と笑ってくれた少女が、深い闇を抱えている。


「分かった」


「……ありがとう」


「でもお前から言えよ」


「……私?」


「『本当の事言って』って……そっちも何か言いたい事あるんだろ」


「……」


「ほら、早く─────」


「今も好き」


「え」


「今も来栖が好き、なの。だからどうすれば良いか分かんなくなって、うん、死ぬね」


「待て待て待て待て!脈絡が無さすぎるだろ……落ち着けって。……それで、なんで死のうとしてるんだ?罪悪感?」


「あぁ、その事を言いたかったんだった。普通そう思うよね」


「違うの?」


「今ここで私が死ねば、来栖の記憶に私が残るでしょ」


「……え?じゃあ……え?俺の記憶の中で生き続ける的な?そんなテンプレートヤンデレ?」


「それがベストかなって思ったんだ」


「……あー……はいはい。なるほどね」


 ……これもう手遅れじゃないか?もうダメなところまで来ちゃってないか?


「私、来栖と離れたくないよ。卒業したら多分ストーカーになっちゃう」


「えぇ……」


「でもさ、私が死んだら……この学校の皆だって反省するんじゃない?」


「反省?」


「私が可哀想って気持ちで来栖をいじめたりしてたのに、実際はそのせいで私が自殺したんだから……もう誰かをいじめたりなんて、きっとしないはず」


「え、なに?死ねるし俺も助けれるし一石二鳥!みたいな?」


「あはは。軽く言うとそうなるかな」


 コイツの言い分も狙いも分かった。


 でも一つだけ─────気になりすぎる疑問がある。


「あの……さ」


「なに?」


「えー……あー、あれ」


「あれ?」


「な、な、なんでそこまで……俺の事好きなのかなーって……」


 口に出す難易度が高すぎる質問をし、恥ずかしさを押し殺しながら朝見の回答を待った。


「……私は来栖の健気なところが好き、かな」


「そうじゃなくて。それは好きなところだろ?なんで死ぬまでに至ったか、好きの度合いの理由が知りたい」


「それは……なんでだろうね」


「は?」


「おかしいよね。もしかしたら…………」


「……」


「……いや、なんでもないや」


「言えよ」


「言わない。来栖こそ早く言ったら?」


「……何を?」


「私の事、どう思ってる?」


 怪しい微笑みを浮かべる朝見は……やはり危うく、太陽が沈むと同時に消えてもおかしくないような儚い雰囲気を漂わせている。


 そんな朝見が言ったこの質問への回答が、朝見を救う鍵になる─────なんとなくそう感じた。


「俺は…………」

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