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「このまんまサボりてえ〜!!」


 誰もいない校門の前、俺は一人で叫んだ。


 病院行って包帯巻かれてジジイ医者から『ギリ骨折してないね』という最高の塩梅の言葉をもらい、普通に学校とか休んでやろうと思ってた俺だが─────今、こうして校門の前に立っている。


 理由は一つ。


 荒川から届いた、『とあるメッセージ』のせいだ。


「あんな事言われたら顔見せない訳には行かないからな……」


 まさか俺が大怪我というおサボり大チャンスを捨ててまで登校を選ぶようになるとは。丸くなったもんだぜ。


「……あと、榊原からのLIN●も」


 これは昼頃に届いたものだけど……『放課後、体育倉庫裏に来てくれ』なんて言われたらそりゃもう行くしかないだろって話。


 もしかしたら仮にワンチャン微粒子レベルで、俺に告白してくるなんてのもあり得るからな!……どうせ朝見の件だろうけど。


 ……いや、もう逃げない。俺は大人になるんだよ。


「あ、そう言えば今日……豪火君はちゃんと学校来てんのかな?」


 昨日、駆けつけるのが遅れたのをまだ気にしてるみたいだったから、調子に乗って一週間ジュース奢ってもらう約束してたんだよなぁ。やはり持つべきものは弟子だね、何かと理由をつけただけで俺の高校生活に無料ドクタ●ペッパーが追加されるんだから。


 少し気になった俺は『今学校来てますか?』とメッセージを打つ。


「送信っと」


 これで豪火君が『来てる』と答えれば、サボり魔で有名な豪火君ですら来ているのだから俺もちゃんと行こうという気になる。


 ─────逆に、返答が来るまではここでサボっていよう。そうだ、そうしよう……。


「うわ返信はやっ」


 ブルっとスマホが震え、画面を確認してみると……『約束あるのでちゃんと来てます!』の文字が。とりあえず授業中にスマホをいじっているのは確定したが、こうなってしまえば俺が行かないわけにはいかない。


「仕方ない……時間的に六時間目耐えれば良いだけだし、行くか」


 とりあえず今日は『登校』さえすれば良かった。だから昼に病院が終わってから死ぬほどゆっくり歩いたりゲーセン寄ったりで時間を潰し、3時まで稼いでやった。


 そのおかげで─────色々と考える時間も出来たし。


「色々とケリをつけなきゃな……」


 もう子供じゃないんだ。いつまでも悩んで周囲を心配させてる場合じゃない。自分の考えの整理くらい……出来なきゃいけないんだ。



 出来るだけ時間を稼ごうとゆっくりと歩きながら校門を通過し、階段を登っていったが、効果を実感する事なく目的地に着いてしまった。


「六時間目は国語だっけか」


 教室の前に立った俺は、身体の所々を巻く包帯に目をやり……どことない恥ずかしさみたいなものを噛み締めた。


 別に、包帯が恥ずかしいだとか、カッコ良いだとか思ってる訳じゃない。でもここまで巻かれてると……まず異様な目で見られるよな。道を歩いてる時もそうだったし。


意を決して戸をスライドさせ、俺は一歩を踏み出した。


「うっす……遅れました……」


「なので、ここの心情が─────えぇ、今更登校ですか?」


 困ったような顔の国語教師の男は、俺の顔を見た途端に悍ましいものを見るような表情に変わった。


「あ、あぁ、君か……怪我は大丈夫なの?」


「まぁ、はい」


「そ、そう……あ、これプリントね……」


「っす……」


 ─────クソ気まずい。


 格技場で起きたあの騒動が、結果的にどうなったのか……俺はよく知らない。学校は俺へのイジメに対応するのか、あの先輩達の処遇はどうするのか、まだ分からない。どうやら俺が殴られてるシーンを撮って動画をばら撒いた奴までいるらしいが、そいつが誰なのかも知らない。


 ただ─────たとえ全校生徒が文句を言おうと、詩郎園家には逆らえないのかもしれない。風の噂だが……県の偉い人とか、それ以上のレベルで干渉してくるらしい。詩郎園七華が仕組んだ罠を、詩郎園豪火が破壊したというよく分からない終わり方になってしまったが、尚更何から何まで詩郎園家に支配されているようなものだ。


 教室達も言いたい事はあるけど、何も言えない状況。俺という腫れ物を痛そうに見る事しか出来ないって訳。


 生徒達もまた、そんな教員達の態度を察して黙っている……


「おはよう荒川」


「おはようなんて時間じゃないですがね。怪我はどうですか?」


「痛いし日常生活に支障はありまくりだけど、折れてはいないからな……まぁ治るだろ」


「不幸中の幸いってやつですね……無事で良かったです」


 小声で交わす会話は、それ自体が学生らしさがあって趣がある。のだが─────


 六時間目終了を知らせるチャイムがそこで鳴った。


「……あれ、思ったより遅めに来ちゃったか」


「気付いてなかったんですか?皆『来る意味あるのかよ』って目で見てましたよきっと」


「休まなかっただけ偉いだろ……っと、あざしたー」


「ございましたー」


 立ったフリで腰を上げて、適当に礼を済ませてから再び席に座る。


 後は帰りのホームルームを済ませるだけだ。


 そうしたら、そうしたら俺は─────朝見と対峙する。


 話し合いの末にどんな結論が生まれるかは分からないけど……きっと、やらないよりはマシな結果になるはずだ。


(カッコつけて言うと、過去と向き合うって事だな……)


 カッコつけなければ、元カノとの拗れた仲を第三者に協力してもらってどうにかするだけ。ダサいったらありゃしないな。


 でも─────俺が『相応しくなる』ためにも、軽く突破してやる。





 何の邪魔も入らなければ、な。

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