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開会式は体育館で行われている。全校生徒が集まり、体育祭のように大規模でもないのに何故する必要があるのか分からないこの式で体育座りをしている。
「球技祭、楽しんで行くぞーーーーッ!!」
「「「「おおおーーーっ!」」」」
周囲を包み込む爆音。
「……いやぁ、まだ足りないかな。みんな声小さくない?」
3年生の体育委員長がそう言うと、明らかに身内ノリっぽい笑い声が響く。
「じゃあもう一回。球技祭、楽しんで行くぞーーーーッ!!」
「「「「おおおーーーっ!!!」」」」
「お、おー……!」
「……おお」
空気に飲み込まれつつ、頑張って声を出した荒川を見た俺が乗らない訳には行かなかった。
この瞬間が嫌いだ。別に運動が苦手だから、スポーツが嫌いだからって言う理由じゃない。
こういう─────皆のやる気を無理矢理引き出すような、そういう大人というか運営側の意図が透けて見える瞬間が気持ち悪くて仕方が無い。
イキリ陰キャと言われても、俺はこの意見は曲げれない。これはもう性分だから合わない奴は合わなくても良いだろ。
「よーしじゃあ怪我には気を付けて!僕からは以上でーす」
体育委員長の話が終わった後は校長のよく分からん話があり、その後は流れで終わった。
─────いよいよ始まる。高校生活最初のイベントが幕を開ける。
「悠人の試合はいつだっけ?」
「頑張ってねぇ。バスケって怖いよね、怪我には気を付けなきゃ……」
「あー、えっと……」
進と三上が近づいて来たが、一定の距離を取った高橋達クラスメイトが気まずそうな視線で眺めてくるため、俺はスマホを取り出す手を早めた。
当日はチームで行動したいって事だろうな。試合に誰か一人でも欠けると揉めそうだし。
「だいたい10時くらいかな。あと40分くらいはある」
「うわ、結構被ってるな……」
「しかも俺達の試合、体育館じゃなくて格技場だから遠いぞ」
格技場……つまり柔道や剣道を行う別棟だ。体育館だけのコート数では試合が1日で終わらない危惧があったらしく、どうやらどこかの体育の時間でバスケチームはじゃんけんで試合場所を決めていたらしい。その場にいなかった俺達は強制的に遠くて移動が面倒な格技場に決まっていたという話。
「えぇ、わたしバレーで体育館だからギリギリ間に合うと思ったのに……それじゃ無理そうかもぉ」
「じゃあサッカーな俺は確実に無理そうか」
「そんな残念がるもんじゃないって。ほら、チームメイトが待ってるでしょ、行けよ」
「うぃー」
「はぁい」
相も変わらずクラスメイトと俺の距離は遠い。去っていく進と三上の背中の奥には、流石に慣れてきた怪訝な視線がある。
「もー格技場行ってよーぜ。やる事もねーし」
「おい、クラスメイトの応援をしようって気概は無いのか!」
「桜塚氏はどっち道単語帳見てるだけな希ガス……」
「僕は勉強という学生の本分を誰よりも全うしてるから許されんだよ」
「こんな事言ってて頭わりーんだから、やっぱ人間って見た目で判断出来ねーな」
進と三上が俺から離れた瞬間に近づいて来たのはクソ陰キャチームの残り三人。
「じゃあ俺は後で行く……いや、やっぱ皆一緒に来てくれないか」
「来てって、どこへですか?」
「あぁその……あれだよ」
四人の視線を集めながら、俺は詰まった言葉を無理矢理吐き出す。
「一応見とこうと思ってさ」
「試合ですか?だとしたら誰の─────あぁ、そういう事ですか」
「あー、先輩か」
「むほほ、純愛ですな」
「全く、惚気にチームを付き合わせるのは良くねぇぞ」
「うるさいなお前ら。しょうがないだろ、気になるもんは気になるんだよ。……普段あぁいう態度の人が、どんな感じでスポーツに励んでるのかが」
─────というのが半分。
もう半分はクラスで孤立している灰崎先輩を拝んでやろうという魂胆だ。ぼっちを自称してはいるが、実際のところ俺は現場を目撃した事がない。
「確かバスケの初っ端だったはず。えっと、Aコートだから……」
「あそこですね」
「まーやる事もねーし、格技場に相手のチームも来てたら気まずいし、来栖についてこーぜ」
「御意に」
「僕はどこでも良い」
全校生徒が入り乱れ、忙しそうに笑いながら準備に励んでいる。係の生徒は奔走し、試合前の生徒は士気を高めている。
その『陽』に包まれた空間を、『陰』の俺達は肩身を狭くして這いずる。わずかな隙間を見つけて、そんなにぶつかりそうじゃなくても「すいません」と小さな声で連呼してトボトボと歩みを進める。
「……さて、ここか───────」
辿り着いた先は一休み出来る休憩地点であり、目的地でもある。一つのコートに観戦しにくる生徒は限られてるおかげで、俺達五人がいても邪魔と突き飛ばされるなんて事はないくらいに座るスペースが空いている。
──────が、俺は立ち尽くしてしまった。
「…………は?」
そこで俺が目にしたのは、眩い情景。
「よーし、皆頑張ろうね!特に灰崎さん!」
「灰崎さんやればめちゃくちゃ強いんだから、頼むからやる気出してよ〜」
「うぇ」
「うぉーい!頑張れよー!」
「灰崎やる気出せー!」
「うぇっ」
「ちょっと男子うるさ!恥ずいんだけど〜」
クラスに馴染んでいるどころか……中心にいると言っても過言ではない、灰崎廻という人間を。
俺は直視する事が出来なくなってしまった。




