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このサブクエストは実質メインクエストです

「やァ。来たね来栖クン」


「はい……来ましたけど」


 金曜日の放課後という瀬戸際に、部室に佇む灰崎先輩は腕を組みながらニヤけ顔を見せてきた。


「ここ一週間、キミは球技祭のために仲間と切磋琢磨してきたね」


「座って喋ってるだけの時間を切磋琢磨と呼ぶならそうです」


「そこで、だ。陰キャのくせに頑張ってる来栖クンには──────」


 椅子に腰掛けた瞬間、パチンと軽快に指を鳴らす音が響いた。


「──────ご褒美をあげたい」


「ご褒美?」


「ワタシから来栖クンへご褒美だ。でもねェ、無償でってわけにも行かない……つまりこれは報酬なんだ」


 なぜ急にこんな事を言い出したのか、全く想像がつかない。どうせ突拍子もないみょうちきりんな思いつきだろうけど……。


「まずは一回戦。勝てたらプレゼントしよう」


「……絶対無理でしょうけど、一応聞いておきます。どんな物をくれるんですか?」


「パンツ見せてあげる」


「あぁ、パンツですか。一回戦敗退は確実なので惜しいですね」


 俺、荒川、藍木、河邑、桜塚という役満クソ陰キャチームなら、もはや一回もボールに触れる事なく負けていくのだってあり得る話だ──────え、いや待て待て待て。


「……ん?ん?んん?ぱ……ぱ、ぱんつ……ですか……?」


「パンツ見せてあげる」


「──────は?」


 完全に麻痺した頭が徐々に回復していき……俺はもう一度改めて灰崎廻の発言を振り返る。


『パンツ見せてあげる』


 想像してしまった。


 スカートの奥、その秘境の絶景を……!


「ま、また冗談ですか?困りますよ、流石にそういう方面のは……」


「ガチで見せるよ」


「……」


 至って真顔だった。まるで自分は何もおかしな事を言っていないと主張しているような、何から何までおかしな女がいた。


「動機はなんですか動機は」


「犯罪みたいに言うなよォ」


「もし俺に拒否権が無くて、灰崎先輩が無理矢理見せてくるのなら立派な犯罪ですが」


「え、パンツ見たくないの?」


「そうとは言ってないじゃないですか!!!」


「うるさァ……」


 いや、一回戦を俺達が突破出来るわけがないから、このご褒美は貰えないモノとして割り切っている。……だとしても、最初からその可能性がゼロになってしまうのは違う。見たいものは見たいに決まってるじゃないか。


「別にィ?特に理由なんてないけど」


「理由も無しに言うような事じゃないですよ。はぁ……全く、これだからビッ……」


「……ン?」


「……」


「今何か……」


「あぁいえ、これだからビビりイキリサブカル気取りぼっち女はって言おうとしただけです」


「あっそう、なら良かっ……良くないなァ?」


 危ない危ない。いくらなんでも本人に向かってビッチ呼ばわりは起訴不可避だ。


「……じゃあ、俺も用意した方が良いんですか?」


「何を」


「ご褒美。先輩への……」


「あァ?いらんよいらん。後輩はそういうの気にしなくて良いの」


 なら俺は一回戦に勝てさえすれば無料でパンツを拝めるわけか……何か裏がありそうなほど美味しい話だ。破格の契約ではあるけど、そもそもの一回戦突破という条件が厳しい俺が怪しむ必要のある話じゃないな。


「楽しみだなァ、来栖クンの活躍」


「……突っ立ってるだけで終わりますよ」


 一応、少しは頑張る姿勢を見せるかもしれない。でも最初から勝てないと分かっている戦いに何を期待すれば良いのか。


「おいおい、スカしてんのかァ?こういうのはなんだかんだ言って頑張ってる子の方がカッコいいんだぜ」


「知ってますよそんな事」


 体育にせよ、合唱練習とか行事の時はいつもそうだ。カッコつけてサボってたりする奴はいるが、そんな奴より真面目に頑張ってる奴の方が輝いている。


「でもそれって至極当たり前な話で」


「む?」


「だって─────何にでも頑張れる奴がカッコ良くない訳ないじゃないですか。そういうのが出来る奴って元々陽キャで、人生が充実してるんです」


「来栖クンは?頑張らないの?」


「頑張る奴はカッコ良い。その意見は否定しませんが──────」


 屁理屈でしかない戯言を、俺は自信満々に呟いた。


「俺みたいな奴は頑張ってもカッコ良くならないんで、頑張る意味なんて無いんですよ」


「うわァ……捻くれすぎだろォ……」


「こういう事言うと『でもカッコ良い奴は頑張ってる』って言われますけどね、頑張ってないのにカッコ良い奴だって普通にいるし、頑張ればカッコ良くなれる証明になんてなってないんです」


「まァた早口始まった」


 ペラペラと舌を動かし、ネットで見た誰かの受け売りだったか、自分で思いついた最高傑作だったか覚えていない言葉を発しながら、誤魔化すように中身の無い議論を展開する俺の脳内は結局のところ─────


(……やっぱ黒かな)


 灰崎廻という人間のパンツの色が何色なのかという議題に支配されていた。













 ー ー ー ー ー ー ー













 この高校の球技祭は、入学したばかりの一年生やクラス替えしたばかりの二年生と三年生の団結力を深めるために5月に行われる。


 ──────ただそれだけの行事に……今年は、いくつかの思惑が絡み合っていた。


「おい、見ろよ」


「何を?」


「この対戦表。俺らの相手……」


 二年生のある教室の中。スマートフォンに送られた画像を確認しながら、複数名に男子生徒が群がっていた。


「これは─────」


「……ガチか」


「やる?やるよな?やるしかないだろ!」


「うわマジで引き当てるとか!これもう運命だろw」


 対戦相手のチーム名は『1年7組バスケBチーム』。


 その五人のメンバーのうち、彼らの視線と……悪意と正義は一人だけに集中していた。


『来栖悠人』という一人の生徒に。

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