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とりあえずの新パーティがこちらです

 ロングホームルームの喧騒は微笑ましいもので……いや生徒の一員である俺が微笑ましいとか言ってる場合じゃないのだけど、みんなが高校生らしく楽しんでいる光景はまさに青春だ。


 ポイントは高校生らしく、というところ。小学生中学生のようにチーム決めで長々と悩んでいるようなお年頃ではないんだ。


「いやこのチーム最強だろ!サッカー部いるし、進もいるし……!」


「バスケのこっちの方も結構強いわww作戦練っとかね?」


 球技祭のチーム分けは、男子がサッカー1チームとバスケ2チームに分けられる。女子は話を聞いてなかったから知らない。


 そして7組のサッカーは割と良いメンツが揃っているらしく、優勝を狙うために運動神経が優れている奴を惜しみなく採用している。バスケの片方も経験者が何人かいるようだ。


 ───────で、俺達はと言うと。


「よう荒川、頑張ろうな」


「あはは、こうなると思ってましたよ」


 教室の隅、顔を見合わせた五人。俺と荒川はここに来ることを互いに分かっていたが……他の三人もまた、少しだけ予想出来そうな奴らだった。


「むほほ……ジ・アラ●バル・サイバース@イグニ●ター召喚という事でエンドですぞ!我は茶でもしばいてる故、適当に展開しててくださいなww」


「あ、ガ●ーラで」


「ほげえええええええええええええ」


 スマートフォンで遊戯●を嗜んでいるこの二人の男は、いつも教室で紙の方もペチペチと戦っている生粋のデュエリストだ。


 片方は天然パーマのデカ眼鏡。片方は死ぬほど目つきの悪い、人を近寄らせないオーラを纏っている陰キャっぽい奴。


「あーちょっと待て、この単語の意味ってなんだっけ……あぁ、『食べる』か!そうだったそうだった」


『eat』を忘れるとかいう、本当に高校生か疑ってしまうレベルの知識の持ち主は……キッチリと分けられた前髪と銀縁眼鏡で真面目な雰囲気を醸し出している。だが真面目なだけで、普段の立ち振る舞いからも分かるが、他の四人とは違ってこいつは陰キャじゃない。ただ運動が苦手という理由でこの魔の巣窟にぶち込まれただけだ。


「あ……えっと、自分達はどうしましょうか?みんなは作戦会議とかしてるっぽいですけど……」


「え、いらなくねーか」


 返答したのは目つき悪すぎ野郎こと、藍木(らんぎ)(まこと)


「どうせこのチームでバスケしても一回戦敗退の運命には抗えねーだろ。無駄な努力は……良くない」


「ですなぁ」


 アプリ内の降参ボタンをを連打しながら頷くのは、天パデカ眼鏡こと河邑(かわむら)瑛太(えいた)


「……桜塚はどう思う」


 俺はガリ勉眼鏡こと桜塚(さくらづか)正次(せいじ)を見る。単語帳から視線を離した桜塚は一丁前に眼鏡の位置を調整しながら答えた。


「異論は無い。だが練習したいとなったらいつでも遠慮無く言ってくれ。僕も皆同じように努力する。しないというのならしない。僕はこういう意見だ」


「なるほど。ちなみに俺は練習が嫌どころか当日を休みたいくらい」


「自分も体動かすのは苦手なので、そうですね……」


 困った事に全員練習なんてしたくないしやる気も無いようだ。なんて終わっているのだろう。


「……じゃあこの時間は何しようか」


 球技祭前の特別措置らしいけど、ロングホームルームが2時間分あるせいでチーム決めしかやる事がない俺達は早々に暇になってしまった。後1時間20分くらいか……いや、本当に暇だな。


 ─────そこで、藍木がスマホを暗転させ口を開いた。


「暇なら……お喋りでもしねーか、来栖悠人」


「……何を?」


「特に話したこともない奴が急に話しかけてきたんなら、どの件かは分かるだろーが」


 そして藍木はぐいっと俺へと距離を詰め──────


「俺は、感動したんだよ!」


「……は?」


「あの動画だ。お前が女子を泣かせてたあの動画!素晴らしいとしか言いようがない!」


「なんか面倒な陰キャが来たぞ?」


 目を輝かせる藍木から、いつもコイツと仲良くしている河邑に助けを求めるように視線を移す……が。


「フッフッフッフ……来栖氏、諦めるのが吉ですぞ。藍木氏は普段からブツブツと貴殿の事を語っている故……」


「来栖、お前は非モテ陰キャ達の柱になれ!」


「助けてくれ荒川。コレなんとかしてくれ」


「じ、自分に言われましても……」


「素直じゃないのは良くないぞ、来栖。お前は光だ……クソッタレ女共に反旗を翻した光だ!非モテクソ陰キャの俺達にとっての光だ!」


『ダメだこいつ、早くなんとかしないと』を体現する藍木は、元々の目つきの悪さも相まってギラギラとした熱い視線が少し怖いまである。


「俺達って言うけどな……まず荒川は違うぞ?彼女持ちだし」


「『勝ち組』って事だろ?俺は別にどーも思ってない。嫌いなのは女だけだ」


「……本当にか?」


 訝しむような俺の言葉に、藍木は笑った。


「嘘は良くないからな。女のする事だ」


「……だよなぁ!分かる分かる〜!」


「諦めましたね来栖君」


 ─────だが、女が苦手なのは紛れもない事実だ。俺も藍木も、共に終わった陰キャなのに変わりは無い。


「えっと……河邑、も同じなのか?藍木みたいに……」


「我は女性が大好きですぞ!!!」


「あぁおっけ」


 鼻息をフスフスとさせながら唾を飛ばす河邑。そんな事言ったら俺も女大好きだよ。と言うか……女体と言った方が正しいか。


「女嫌いの女体好きってやつだな。やっぱ類友ってマジなんだね、俺と同じで終わってる奴ばっか集まるわ……」


「ふん、僕を君達と一緒にすんな」


「あー?なんだよ桜塚」


「僕は……君達のような幼い頃からインターネットに触れた影響で女体の真相を知り、そのせいで恋慕や友情より性欲が先行して女友達と上手く話せなくなり、拗らせ続けそもそも女性との会話が困難になり、同類とつるみながら責任を女性に転嫁する君達のようなコミュ障ミソジニストとは違うって言ってんだ!」


「おーやけに解像度が高いなー?まるで経験談だ」


「おいおい、結局荒川以外ゴミしかいないチームかよ。最高だね」


 運動能力はともかく、チームワーク自体は良さそうだな。あーあ、eスポーツ大会とかだったらもしかしたら良いチームになれたかもしれないが……所詮は陰キャ。親睦を深め、クラスの団結力を増させる大会と言えば球技祭!みたいな思考回路の社会常識に淘汰される俺達は、その役目を全うするのみだ────────。


「──────とか言ってるけど、来栖君は違うじゃないですか」


「え?」


「二年の灰崎先輩……いつも一緒にいて良い感じじゃないですか」


「……」


『ふははは。来栖クン、今日は非日常を追っていたら手に入れた、このクソ怪しすぎる木箱を開けてみようじゃないかァ……』


 良い感じ……良い感じか。何を以て『良い』と言うか分からないけど、少なくともいつも浮ついていると言うよりかは、悍ましい体験を味わっている気がする。


「……なれると良いけどな」


「恋人にって事ですか?」


「来栖なら行ける。お前と言う光なら世の女なんてすぐに──────」


 ─────あの人の恋人に?自分で言ったが、それは少し違う気がする。いや、普通に可愛い彼女は欲しいに決まってるけども。


 ただ、俺はその前に……ならなければならないものがある。


 ─────そんな気持ちを押し殺したくて、俺は藍木達から目を背けた。

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