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ここまでやれた実力なら余裕なはずです

「あー、そこでガードするでしょ」


『えっ』


「やっぱりね、でこうしてこうして」


『え、え、え、え、え、え』


「ほい、で撃墜!!」


『あ、あ……がああああああああああッ!!』


 土曜の朝10時から、俺の部屋に詩郎園豪火の絶叫音声が響く。電話越しとは思えない迫力だ……。


『勝てねえッ!なぁ師匠、一体どれだけ鍛錬を積めばあんたみたいになれるんだよ……』


「寝る間を惜しむならぬ、差し詰め……楽しむ間を惜しみ、俺はここまで強くなりました」


『た、楽しむ……?』


「周りのみんなが楽しそうに外で遊んでても、別ゲーが流行っても、負け試合が多すぎてつまらなくなってきても……暇な時はス●ブラをやり続けた」


『マ、マジかよ……!』


「でも豪火君はそこまで行く必要はありませんよ。あくまで進に勝つためですから……頑張りましょう」


『おうッ!ありがとな師匠……ッ!』


 はっきり言って特級の馬鹿で雑魚だが、これはこれで面白い。普通にスマブ●やるのにも良い加減飽きてるし、地元では上手い扱いされてるけどいざ大会とか出てみると普通にボコられるくらいの強さの俺が、初心者を育ててどこまで伸びるのか……少し気になってきた。


 念のため進にも秘密にしておいて、二人には喧嘩じゃなくてス●ブラで決着を付けてもらおう。それが一番平和で、賢くて、面白い。


「しかし豪火君も暇なんですね。ゴールデンウィーク1日目から男二人でゲームとか……」


『ダチがいねーって訳じゃねえけどさ、とりあえず今は線堂に勝ちたい。それを突破しなきゃ他の事なんざ出来ねんだ』


「あ、友達は普通にいるんですね」


 能力を持つ全員がボッチなんて事は無い、か。俺の場合は能力以前に性格の問題だし、灰崎先輩の場合は能力のデメリットが重すぎるという別の理由だ。


「……そういえば、なんですけど」


『おう?』


「灰崎先輩と付き合ってたって話じゃないですか」


『ゔっ……』


「あぁ別にその頃の事を聞きたい訳じゃなくて!」


『そ、そうなのか……?』


「あの人、付き合ってた事を何故だか凄く気にしてるようで。なんでなのかなって気になっただけです」


『あー……』


『うーん』だとか『えぇっと』だとか、約1分間唸り続けた後、豪火君は通話越しでも分かる重い口を開いた。


『これ言って良いやつなのか……?』


「あーもうそれは絶対言ってください。言って良いとか悪いとか関係無しに、もう俺が気になっちゃったんで言ってください」


『でも……』


「今ここで俺に黙る方が罪は重いですよ!?だって気になるじゃないですか!!」


 会話の途中で『あーこれ言っちゃダメなやつだった、ごめんやっぱ無理だわ』とか言われるとこの世の全てを憎みたくなる。人間の知的好奇心を否定する最悪の行動だ。言っちゃダメならじゃあそもそも何かを言おうとするなよって話だし、隠された側はその事を忘れるまでずっと『あれなんだったんだろ』という念が頭の中を反復横跳びし続けるのだ。


『じゃあ言うか。言っちまうか!廻がなんだ、師匠に稽古つけてもらったオレが負けるはずねーもんな!』


「そう、そうです!言っちゃってくださいよ!」


『えっとな。つまるところ、オレと付き合ってた事を追求される事自体は嫌じゃないんだよ、多分』


「……そうなんですか?じゃあ何が─────」


『嫌なのは師匠にそれを知られる事だ。師匠の前で元カレ……オレと話したくなかったわけだな』


「俺?俺限定なんですか?」


 ─────なんだ。これは。軽い気持ちで聞いてみた話だけど、どこか……嫌な予感がする。


 そんな感覚を、心のどこかの漠然とした場所で感じている。


『多分そーいう事だと思うぜ』


「……その、出来ればそう言う事ってどう言う事かを─────」


『ま、師匠はとっくに廻の気持ちなんてのには気付いてると思うがな!』


「え」


『え?』


「……はは、当たり前じゃないですか!なんだ、そーいう事だったんですね」


 何がどーいう事なのか全く分からない。気になる事を聞けたはずなのに疑問しか残らない。聞きたいのに聞けないもどかしさで喉が苦しい。


 ……でも豪火君の前では俺は威張らなければいけない。『上に立つ者』じゃなきゃいけない……いや『上に立つ者』って。改めて考えるとあまりにも俺に似合ってなさすぎるな。


『廻の奴、流石だなぁって思ったぜ。あいつの目にも師匠はヤバく映ってたんだろうな……ってアレ、これ言って良いやつだったっけ……』


「あぁ、能力の事ですね?なら全部知ってますよ」


『え!じ、じゃあやっぱり師匠も能力を持ってるのか!?じゃないとあんなやべー匂いしてるはずが無いもんな……!』


「ん、まぁそうですけど……あっ、ちょっと朝ごはん食べてきますね」


『今10時だけど』


「一旦通話切りまーす」


『あ、あぁ、オレも30分前くらいからずっと妹に呼ばれてたから行ってくる─────』


 都合が悪くなった俺は強引に通話を切り、もたれかかっていた椅子からベッドに飛び込んだ。


「もしかして……」


 俺は調子に乗っている。最近は荒川や榊原みたいに新しい友達も出来て、オカルト研究部という居場所があって、上手くいかない事はそりゃもちろんあるけど────中学の頃よりは全然楽しい。


 つまり調子に乗っている。だから、こんな事を考えてしまう。


「……俺は、鈍感系主人公じゃない」


 気付いてはいる。でも気付きたくないから気付いていないフリをしたい。

 もし違っていた時にとてつもなく恥ずかしくなる。だから逃げ出したい。


 でも、でも──────流石にここは調子に乗らせてくれ。


 俺は鈍感系になんてなりたくないんだ。


「灰崎先輩って俺の事好きなのかな」


 ───────とりあえず、声に出してみた。


 そこで思った事は一つ。


「いや、無いか……」


 豪火君はもっと別の事を言っていて、これはあり得ない話のはずだ。


 ……理由は単純。


「そんなはずないもんな」


 だって、俺の事を好きになる奴なんてのは───────


『く、来栖!来栖悠人君……好き、です!付き合ってくださいっ!』


 ──────あぁ、そうだ。あんなクソ女しかいなかったんだからな。


 灰崎廻は朝見星のような奴じゃない。


 だから。きっと。多分。恐らく……灰崎先輩が俺を好きになることも、俺を傷付けることもない……はずなんだ。

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