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無事、ゲットです

「おい、お前……廻とは仲良いのか?」


 適当に一番近い席に座り、豪火は脅しにも近い眼光で質問を始めた。


「まぁ、同じ部活なので……それなりって感じです」


(なんで座った?おいなんで居座る気なんだよお前は!!)


「アイツの相手してて疲れねーか?変な女だろ」


「概ね同意ですが、学校中から嫌われてる俺にとってはここにしか居場所がないので」


(そうだよ、こんな些細な居場所を奪わないでくれよ!!)


「え、お前何したの?」


「……知らないんですか?」


(……マジかよ。陽キャのくせにグループチャットからハブられてんのか?)


 豪火は新学期から学校をサボっていたため、その後輩の悪評を知る事はなかった。


(コイツ、有名人なのか?一体何をすれば学校中から嫌われるなんてことがあるんだ……!?)


 人を殴り殴り誰であろうと蹴り蹴りを繰り返してきた豪火は、他の生徒や教師の訝しむ目線には慣れていた。


 だからこそ─────自分とはかけ離れているただの陰キャが、自分より酷い扱いになっている事に驚く。


「動画が拡散されまくってるので、見てもらえれば分かると思いますよ」


「動画で!?わざわざ撮るとか、い、一体どんな惨状を……」


「……自分でもちょっとやり過ぎたかなって思いましたが、まぁ──────」


 その男がうっすらと微笑む姿が……豪火には心の底から不気味に見えた。


「──────俺は悪くない。アイツが悪い。あの女が悪いんですよ……」


「っ……」


 鈍く光る瞳に、思わず豪火は口を抑えた。


(コ、コイツ……学校中から嫌われるような悪行をしておいて、なのに自分は悪くないって言い張るのか!?どんな育ち方したんだよ……)


「……すみません、余計な事を話し過ぎました」


(余計な事を話し過ぎた!?まさか……『やろう』ってのか?『知ってしまった』オレを消そうっつーのか?コイツは……!)


 鼓動が早まり、焦ってきている事を自覚しながらも止められない豪火だが……対する悠人はこう考えていた。


(うわ焦り過ぎてキッツイ自分語りしちゃった……なんで俺ってこんな会話下手なんだよ……)


 震えそうな歯を抑えながら、悠人は『何かを言って誤魔化さなければ』という思考で─────


「まぁ俺の話なんて聞いてもしょうがないですし、そうですね。灰崎先輩が来るまで適当に……ゲームでもしませんか?」


(あーマジで何言ってんだろ俺)


 焦り過ぎた結果、帰ってもらいたい相手にゲームを提案するという暴挙に出た。


(廻が来るまでに『終わらせる』って事か!?そのゲームとやらでオレの生死が決まるって事か!?)


 だがしかし豪火の受け取り方は悠人の想定と180度異なるものだ。


 これほどまでに豪火の目に映る悠人が不気味なのは……主に『匂い』が関係している。豪火が灰崎廻と一緒にいたくない理由の一つでもあり、『異様』な匂いはそれだけで人物の印象が変わって感じてしまうのだ。


「ま、待て。あんたほどじゃないかもしれないけど、オレも校内では嫌われ者扱いでよ。お互い自己紹介と行こうぜ」


「……なるほど」


 豪火は『仲間意識を持たせる』選択をした。自分に敵意が無く、むしろ仲間であるという主張をし、この場をやり過ごす選択をしたのだ。


「1年7組、来栖悠人です」


(……どこかで聞いた事のある名前だ。やっぱり有名人なのか、コイツは!)


 数日前に七華からの電話で聞いただけに過ぎないのだが、豪火は『線堂が不良達の光なら来栖悠人は闇』のような的外れな解釈をし始める。


「……2年3組、詩郎園豪火だ。よろしく────」


「詩郎園?」


「ッ!?」


 その後輩の目線が……ゲーム機から豪火へと向いた。


(うわマジかぁあああああああ!!こいつ詩郎園の兄ってマジ!?いきなり人を殴るような奴と対面してんの!?今日俺死ぬの!?)


 その目が恐怖に震えている様子さえ、豪火には不気味に見える。


「あぁ……そうか、あなたが」


「し、知ってんのか……?オレを……」


「妹の七華さんには……少し、ありましてね」


(妹もクソなら兄もクソって訳か、クソクソ家族が……!)


 その名を出された瞬間、豪火は戦慄した。


(コイツ、妹を……オレが態度を間違えれば即座に妹を殺すとでも言いたいのか!?)


 全くもってそんな事はない。悠人の意思と異なる勝手な想像は加速し、肌に冷や汗が伝う。


「それと……進を襲ったっていうのも、あなたの仕業か」


「え……」


 ─────睾丸が縮む感覚を、悠人と豪火は同時に感じた。


(あー俺何言ってんだろ。話題無さすぎて焦って喧嘩売ってるみたいな事言っちゃった。もう終わりかも俺の人生)


(……さ、最悪だ……よりによって線堂の仲間なのか!?だったら、今からオレは報復されるって事かよ……!?)


「ま、まさかアンタ……線堂の知り合い、か……?」


「知り合いなんてもんじゃないですよ。あいつは俺の……はは、親友ってやつですね」


 その言葉の後、二人は同時に顔を覆った。


(何言ってんだろう俺。めちゃくちゃ恥ずかしいんだけど)


(何でこの部屋に入ったんだろうオレ。親友とか確定でボコボコにされるだろ)


 流れた沈黙を─────先に破ったのは、詩郎園豪火。


「……線堂は、地元では皆の憧れだったんだ。最強みたいな扱いだったんだ」


「……」


「だから線堂を倒せば、皆に認めてもらえるし、オレのクソみてえな家族も……オレを視界に入れるくらいはしてくれると思ったんだ。それにオレ自身も区切りを付けて……これからの人生を頑張れるかなって」


 豪火が辿り着いた、『生き残る手段』……『来栖悠人に許してもらう手段』は、動機を説明する事で『じゃあ仕方ないね』と言ってもらうというものだった。


 だが──────


(急に何を語り始めたんだ、こいつは……?)


 悠人からすれば意味不明でしかなかった。


「でも線堂は夜の街に顔出さなくなっちまって……ずっと手応えの無い奴殴り続けて、惰性で生き続けて……でもやっとアイツに会えて、それで……」


 不気味な匂いを嗅ぎ続け、思い込みはどんどん激しくなり……豪火は目の前の後輩に頭を下げそうになるところまで来ていた。


(──────そうか。分かったぞ、詩郎園豪火の望みが……!)


 ……が、運命は彼らを導き続けている。


「すまねえ!だから妹を殺すのだけは……」


「線堂進に勝ちたい、それがあなたの望みですね?」


「え」


「え?」


 きょとんとした豪火の顔に、悠人はまた焦り始める。


(え、違うの!?待てよ、進を倒す方法を教えて欲しいんだろ!?そうすれば俺を見逃してくれるんじゃないのか……!?)


 いまだにカツアゲをされていると思っている悠人は、普通のカツアゲで言う『金』を『線堂進を倒す方法』として払う形式だと判断し、自信満々に言い放ったのだ。


「そ、それはそうだけど……教えてくれるのか……?」


(は!?何で急にオレに味方するような事を……何が起きてるんだ!?)


「それが望みなんですよね?弱点なんていくらでも知ってますよ、親友なので」


(コイツ馬鹿そうだしとりあえず適当な事吹き込んで進にボコボコにしてもらおう。それが勝算だ……!)


「で、でも親友ならわざわざ不利になるような事を教えるのは……」


「関係ないですよ。それに──────」


 来栖悠人は不気味な笑みを浮かべながら (勝利を確信しニヤケかけたところを何とか我慢しようとして結局我慢しきれず変な笑顔になっただけ)……言い放った。


「あの進が負けるところは少し、見てみたいと思っていたのでね……」


(ま、俺は適当な嘘しか教えないけどなぁ!精々嘘情報信じて進に殴られてろよ馬鹿が!!)


 そして─────豪火は心の底から『畏怖』していた。


(コ、コイツは……オレと線堂の争いもただの戯れとしか見ていないんだッ!コイツは既に『上のステージ』にいる上位存在!だからただ弄ぶように……余興を楽しむように……!!)


 絶望し、同時に尊敬の念を抱く。

 ─────どう考えても豪火が殴れば一撃で気絶する、年下の根暗男に。


「師匠と呼ばせてくれッ!」


「え!?」


 突然椅子から降り、跪いて叫んだ豪火に悠人は肩を震わせる。


「オレは詩郎園家の長男として親父に散々『上に立つ者』としての教育やらを叩き込まれてきたが……響かなかった。暴力こそが上下を示す全てだと思っていた。だが今実感したッ!」


「えぇ……」


「アンタが、アンタこそが『上』に相応しい男だッ!!頼む、オレを強く、もっと強くしてくれ……!」


「……」


 その瞬間、悠人は全てを理解した。


(あ、これそう言うタイプか)


 そして──────もう後戻りは出来なくなる選択をする。


「─────好きにすると良いですよ。豪火君」


 机に肘を突き、足を組んでそう微笑んだのだ。


「ッ!感謝するぜ師匠ッ!!」


「早速ですが、まず軽めの戦闘訓練をしましょうか。大事なのは基礎なのでね」


「おうッ!」


「ではまず、基本となる『歯式呼吸』をマスターしましょう」


「歯式呼吸!?腹式じゃなくて?そんなものがあるのか……」


「ありますよ、ありますとも。ではまず歯を見せるように口を開いて──────」


 彼らを取り巻く運命は──────丸く収まったようだ。

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