キャラは誰でも良いです
「来栖クン、今日のオカルト研究部の活動は何だと思う?」
「見当も付きません」
「ふはは、では聞いて驚くが良い。今日はァ……!」
灰崎先輩は勢いよく鞄から長方形の物体を取り出した。
「第一回ス●ブラ大会〜〜〜!」
「それ普通合宿先でやる系ですよね。平日の部活でやる奴いないでしょ」
「はァ?陰キャが部活語んなよ」
「すみませんでした」
互いに座り直し、ニンテ●ドースイッ●の電源を付けた灰崎先輩を見て……俺は彼女が本気で今日の部活の時間をゲームで潰そうとしている事に気付いた。
「……俺も持ってきてるんでローカルでやりましょう」
「おっ、良いねェ!学校は学ぶ場所だぞクソガキ!」
「陰キャにとって、誰かと一緒にパーティゲームをする事は十分なコミュケーションの学習ですよ」
「……確かにね。じゃあ来栖クン、せっかくだしキミの『パーティゲーム能力』を見せてもらおうか。あ、部屋作ったよ」
「と言うと?……入りました」
「ただ勝ちにこだわるんじゃなくて、『誰かと楽しくパーティゲームをやる』能力さ。もちろん、それを重視するってだけで戦い自体は本気でやろうぜェ」
「なるほど。上等です」
幾度と無く進とやり続けたゲームだ。簡単に負ける気は無いし、楽しませる自信はある。
「んー、じゃあまずはお互いに好きなキャラ選ぼっか!アイテム無し終点でおk?」
「そうしましょう」
そして俺は真っ直ぐにホ●ラ&ヒカ●をえr
「ちょちょちょちょ一旦待って、うん一旦ストップ」
「え、あ、はい?どうかしました?」
「それ一番選んじゃいけないキャラだよね。キミは今女の子とスマブ●をしてるって事理解してるか?モロにエッチすぎる女キャラ使うなよ!」
「は?いや……俺普通に原作プレイしたし結構やり込んだんですけど」
「そういう問題じゃねェよ!確かに原作未プレイなのにメインキャラとか言ってる奴いるけどさァ!例えそいつでも今はホ●ヒカ選ばないんだって」
そういうものなのだろうか。そもそも俺にはゲームをする女子という存在を理解しきれていない。身近な女子がゲームにあまり興味のない三上だけだから情報源が少なすぎる。●マブラ女子がどうのこうのって話は以前ネットで聞いた事はあるけども……。
「じゃあとりあえず……こいつかな」
俺はカーソルを動かし、クッ●を選択する。大人気ゲーム恒例の悪役は文句のつけようのないチョイスだし。重量級かつシンプルに強いコイツなら、まず負けないだろう。
……ゲームで女に負けんのはちょっと、なんか……嫌だからな!
「よォし、じゃあはじm」
「んんんんちょっ……と待ってもらって良いですかね」
「あァ?なに止めてんだよォ……」
「灰崎先輩、あなたは本当にカ●ビィが好きなんですか?」
「……」
「これ狙いに行きましたよね?とりあえずカービ●使っとけば女子としては無難かなみたいに思ってましたよね今」
「う、うるせェ!変えりゃ良いんだろ変えりゃァ!」
俺の指摘に灰崎先輩は選択を解除し、すぐにまた別のキャラを選んだ。
……ダークサム●だった。
「よっし、ようやく来栖クンの腕前を拝見出来るねェ」
「あんま舐めないでくださいよ、俺はスマブ●をパーティゲームとしか思ってない陽キャとは違うんで」
「ス●ブラはパーティゲームで合ってるだろ」
─────数分後。
リザルト画面には─────俺の●ッパが嬉しそうな表情でポーズを取っている映像が流れている。
「……」
「……普通に来栖クン強いね」
「まぁ……でも灰崎先輩も女子なのに強いですね」
「だから『女=ゲーム弱い』の偏見やめろって」
道連れ害悪戦法や上手すぎるプレイや事故死など、目立った面白みは全然無い一戦だった。
「うーん、イマイチ盛り上がらないねェ。スマブ●ってもっとワイワイやってた記憶あるんだけど」
「……俺も進とやる時は結構うるさくなるんで、分かります。そうですね……まだ俺と灰崎先輩の間でのゲームの価値観のすり合わせが出来てないのでは」
「んーじゃあ、次はキャラおまかせで!」
互いに『?』マークを選択し、ロード画面を経て……表示されたキャラを睨む。
「ワタシは……ガノン●ロフ!小学生の時男子がずっと使ってたなァ」
「俺は……」
赤帽子、低い頭身、デフォルメされた目。
ネ●だ。
「く、来栖クン……」
「うわぁ、俺復帰苦手なんだよな」
「来栖クン、分かってるよね?」
「はい?」
カウントダウンが終わり─────試合が開始する。これと言ったギミックにないこのステージでは小細工は効かない。使い慣れていないキャラならば全力を尽くさなければ……!
『PKファイヤー!PKファイヤー!PKファイヤー!』
「来栖クン」
「はい」
『PKファイヤー!PKファイヤー!……PKファイヤー!』
「あのさァ」
「はい」
『PKファイヤー!……ふんッ!』
「狙ってやってるよね。これは流石に」
「すみません狙いました」
「もうさァ〜……やめようよハメてくるのはァ!」
ネ●と言ったら何も考えずにボタンを連打して相手をハメ続けるのが定石なんじゃないのか?どうせ上手い人ならそんな戦法は効かないし、パーティゲームとしてエンジョイするならむしろ真っ当な戦法とも言える。
……が、単純に害悪だな。
「もし来栖クンに彼女が出来たとして」
「はい」
「なんやかんやで同棲とかしてさ。ゲームやろうよって話になってさ」
「はい」
「それでこれやってみなよ。百年の恋も絶対零度」
「PKファイヤーで燃えてますけどね。ははは」
「は?」
「すみませんでした」
でも仕方ないだろう。灰崎先輩が引き当てたガノンドロ●は一撃一撃が重い高火力キャラ。対して俺は復帰に慣れが必要なネ●。勝つには手段を選んでいられない組み合わせだったという訳だ。
「ま、ワタシならそんな彼氏もアリかもだけど!」
「……」
「なんか言えよ」
「っす……」
と言われても、こういう時に普通のコミュケーション能力を持つ人間は何を言うのだろうか。想像もつかない俺にとってはやはり会話はエンドコンテンツ。いくら話しても正解が見えない。
「……灰崎先輩は」
「んー?」
「今、俺とこういう……何気ない時間を過ごしていて」
「うん」
「日常の波動は見えないんですか?」
「見えないよ」
ボタンとスティックを動かしながら、画面で顔を隠しながら、ただ答えを待った。
「どんな日常の一部だろうと、キミからは何も見えない」
「……そうですか」
俺達の『能力』に関して、俺という人間の内面について……何かが掴めそうな言葉。
でも──────深い意味は、考えたくなかった。
 




