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ここで、普段あまり役に立たない『勇気』を装備します

 立ち上がった荒川健に、理由や動機が理解出来ない健の彼女は諌めるように言葉をかけようとするが、効果は無い。


「た、タケちゃん?急にどうし……」


「自分達と来栖君は違う。こっちは集団で、来栖君は一人」


「……どういう事?何が言いたいのか、私分かんない─────」


「来栖君は一人で一人に向かって悪口は言ったけど、自分達は……集団で一人に向かって悪口を言ってる」


 震えながらも荒川健は腹に力を込める。


「良くないよ、こういうのは。これはもうイジメだから……!」


「……荒川、だっけ?」


 西澤雪音はその冷たい視線を教室の端にいる彼に向ける。また新たなモグラが穴から姿を見せたのをすぐさま叩くプレイヤーのように。


「悪い事をした奴がそれなりの制裁を受けるのは当然の事だって思わない?それともあんたは……来栖の肩を持つの?」


「そ、ういう事じゃない……なんでこんな簡単な事も分からないんだ……ッ」


「……は?」


「来栖君は面と向かって悪口を言ったけど、自分達は……俺達は来栖君のいない所で悪口を言ってる!それも、集団で……来栖君一人に対して!」


 ─────全員が、密かに息を呑んだ。


「確かに来栖君は悪かったかもしれない、でも事情を知らない俺達が……もうあの女子と和解も済ませたかもしれないのに、なんで俺達が正義みたいになってるんだ!俺達は被害者でも、司法でもないのに……!」


「た、タケちゃん……」


「来栖君はちゃんと言葉が通じる同じ人間なんだよ、クラスメイトなんだよ、俺達と変わらない高校一年生なんだよッ!!どうして対話をしようとしないんだ。どうして自分がされて嫌な事をするんだ。そんな事しても……終わらないだけなのに……ダサいよ」


 荒川健が口を閉じたタイミングで、再び教室を静寂が包み込んだ。


 7組の各員が、各々の思考を巡らせる。『確かに自分も悪かったかも』や『それでも自分は悪くない』等それぞれがそれぞれの考えを持っていた、が……一つだけ、共通していたものがある。


『少し、ダサかったかも』──────と。


 認められず思考をかき消した者。

 自戒として心に刻んだ者。

 悪口を言っていない自分は当てはまらないと受け流した者。

 だがそれがどうしたと醜さを享受した者。


 それぞれがそれぞれの受け止め方をした。



 そんな中─────静寂が破られる。


「あーあぁ、企画倒れかぁ」


 そう呟いた彼女は……三上春はスマートフォンを取り出し──────



 ()()()()()()()()()()()



「……は?あんた、それ……何を……!」


「えぇ、何って……皆が悠人くんを悪く言ってるところの録音を先生に提出しようとしたんだけどぉ……」


「──────ッ!!」


 西澤雪音は戦慄した。


『三上春は裏がある』という自分の憶測が的中した事に。そして三上春に自分の心臓を握られてしまった事に。


「なのに途中で皆黙っちゃってぇ……でも悠人くんは喜ぶかも!荒川くん?だっけ?良いお友達を持ったものですねぇ」


「だ、だからあんたと線堂はずっと黙ってて……!」


「……前から春が提案してた作戦なんだけどな。まさか本当に実行する事になるとは……なんつーか、残念だ」


「うんうん、みんな酷いよ!心無い言葉ばっかり」


「俺は春にも言ってるんだぞ。確かに証拠を持って告発するのは悠人の状況を変えるには有効的な手段だけど……あいつはそんな事望まないだろ」


「あれ?そ、そうかな……」


「まぁ─────結果としては良かったが」


 すっかり冷め切った進の眼差しがクラスを見渡し……健の所で止まる。


「あぁ、タケちゃん!お前はグッジョブだ!」


「え?あ、え、ぐ、ぐっじょぶ……」


 張り詰めていた気が、穴の空いた風船から去り行く空気にように抜けていった健は椅子に座りながら、進からのサムズアップを返した。


 だが依然として……クラスには緊張が張り詰めている。明確な『弱み』を三上春に握られてしまった者は昼食が喉を通らず、思い浮かぶのは拡散された来栖悠人の動画と、彼の今の状況……他人事では無くなってしまった、絶望感。


 ……そんな混沌とした状況に、更に拍車をかける出来事が起こった。


「──────どうやら揉め事は終わったみたいだね」


 教室の外から現れた、すれ違う者全員の視線を奪う者。女子も男子も皆その美貌に一度は釘付けになる……いわゆる王子様的存在が。


「こ、殊葉様ーーっ!?」


「どうして7組に……!?」


「フフ……まぁ落ち着きたまえ。少し教えて欲しい事があってね」


 その高めの身長がさらに際立つように胸を張り、殊葉は微笑む──────心の底から安堵しながら。


(うっわ何さっきの!こんなバチバチに雰囲気悪くなることあるかい?まだ4月なんだけど……しかも話題は来栖悠人と来た……今から彼について調べようとしてたのに、ちょっと怖くなってきた……)


 冷静に、息を整えつつ殊葉は言った。


「噂の来栖君。彼の居場所を教えてほしくてね。彼に用があるのだけど、ここにはいないようだから」


「殊葉くんが……来栖に……?」


「一体どうして……」


「…………あ、あの、教えてくれ、ないのかなぁ……?」


「悠人くんなら二階のオカルト研究部の部室にいるよぉ!」


「え、あぁ!恩に着るよ、三上さん」


 ウインクを一回決めてその場から立ち去り、殊葉はついさっき自動販売機で購入したコーラを手に……階段を下る。


「……え、オカルト研究部!?!?」


 そして遅れて驚愕の声を上げる。


 ──────榊原殊葉は幽霊、都市伝説、ホラー関連が大の苦手である。

 彼女の普段の態度はそんな自分の臆病さを誤魔化すために身につけたモノであり、つまり……虚勢だった。


「……ハハ。これくらいどうって事はない……」


 震えた足で、手すりを強く握りながら……一段一段をゆっくりと降りていった。

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